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第1849話
「ぴー♪」
一緒についてきたピピが「こっちはどうかな」とぴょんぴょん奥の方へ跳ねていく。久しぶりの山歩きが楽しいのか、普段よりテンションが高かった。
「ピピ、あまり奥に入ると危険だぞ。今日中に帰れる範囲を探索しよう」
そう呼びかけたものの、ピピはあまり聞いていない様子。
まあ、いざとなったらピピの背に乗って帰ればいいのだが……狩り当日は他の戦士もいるから、何かあった時にすぐ引き返せる場所にするのが望ましい。
いい獲物が見つからなかったら「残念でした」で終わりにして、安全第一で引率した方がいいかもしれない。変なトラブルを起こして責任問題になっても嫌だし。
「ぴぇ……」
不意にピピが足を止めた。耳をピンと立てて、何かを警戒するように身体を硬くしている。
「……!」
アクセルも何かの気配を感じ、反射的に小太刀を掴んで身構えた。
ピシッと張り詰めた空気に乗って、野生の獣らしき臭いが漂ってくる。数はそんなに多くない。群れで行動する狼などではないだろう。
ズシン……ズシン……と足音が近づいてくる。
繁みを掻き分けて姿を現したのは、体長三メートル近い大型の熊だった。
「グオォォォ!」
「熊だ……」
どうやら自分たちは、熊の縄張りに踏み込んでしまったらしい。熊は縄張り意識が強いから、早めに出て行かないと敵と認識されてしまう。
「ピピ、逃げよう」
「ぴー!」
アクセルはサッとピピに跨り、くるりと方向転換して麓目指して下山した。
今日の目的はあくまで偵察だ。動物に危害を加えるつもりはない。さっさと帰って当日のルートを検討し直そう。
ピピの俊足で熊から逃げ去り、麓近くまで下りてくる。もう少し行けば町に出られるはずだ。ここまで来れば安心だろう。
「ありがとう、ピピ。さすがピピは頼りになるな」
「ぴー♪」
ピピから降りて褒めるように撫でてやると、ピピは誇らしげに身体をすり寄せてきた。
全力で走ったからピピもお疲れだろう。そう思ってピピに持ってきた水を与えようとした時だった。
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