1849 / 2296

第1849話

「ぴー♪」  一緒についてきたピピが「こっちはどうかな」とぴょんぴょん奥の方へ跳ねていく。久しぶりの山歩きが楽しいのか、普段よりテンションが高かった。 「ピピ、あまり奥に入ると危険だぞ。今日中に帰れる範囲を探索しよう」  そう呼びかけたものの、ピピはあまり聞いていない様子。  まあ、いざとなったらピピの背に乗って帰ればいいのだが……狩り当日は他の戦士もいるから、何かあった時にすぐ引き返せる場所にするのが望ましい。  いい獲物が見つからなかったら「残念でした」で終わりにして、安全第一で引率した方がいいかもしれない。変なトラブルを起こして責任問題になっても嫌だし。 「ぴぇ……」  不意にピピが足を止めた。耳をピンと立てて、何かを警戒するように身体を硬くしている。 「……!」  アクセルも何かの気配を感じ、反射的に小太刀を掴んで身構えた。  ピシッと張り詰めた空気に乗って、野生の獣らしき臭いが漂ってくる。数はそんなに多くない。群れで行動する狼などではないだろう。  ズシン……ズシン……と足音が近づいてくる。  繁みを掻き分けて姿を現したのは、体長三メートル近い大型の熊だった。 「グオォォォ!」 「熊だ……」  どうやら自分たちは、熊の縄張りに踏み込んでしまったらしい。熊は縄張り意識が強いから、早めに出て行かないと敵と認識されてしまう。 「ピピ、逃げよう」 「ぴー!」  アクセルはサッとピピに跨り、くるりと方向転換して麓目指して下山した。  今日の目的はあくまで偵察だ。動物に危害を加えるつもりはない。さっさと帰って当日のルートを検討し直そう。  ピピの俊足で熊から逃げ去り、麓近くまで下りてくる。もう少し行けば町に出られるはずだ。ここまで来れば安心だろう。 「ありがとう、ピピ。さすがピピは頼りになるな」 「ぴー♪」  ピピから降りて褒めるように撫でてやると、ピピは誇らしげに身体をすり寄せてきた。  全力で走ったからピピもお疲れだろう。そう思ってピピに持ってきた水を与えようとした時だった。

ともだちにシェアしよう!