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第1850話
「びぇっ!」
突然ピピが潰れたような声を出して横に吹っ飛ばされた。
ピピは近くの大木に叩きつけられ、「ぴー……」と弱々しく鳴いている。
「ピピ!」
駆け寄ろうとしたのだが、先程の熊に割って入られてしまった。
ピピに不意打ちを食らわせたのは、この熊だったようだ。
――何だよコイツ……! もう縄張りから出てるのに……!
何だか猛然と腹が立ってきた。素直に撤退したのにしつこく追撃してくるとは何事だ。そっちがその気ならこちらも容赦しない。
アクセルは熊の注意を引くように前に立ち、小太刀を抜き放って向かっていった。
「タアアァァッ!」
熊が後ろ足だけで立ち上がり、丸太のように太い腕を振り回してくる。
それなりに動きも俊敏だったが、十分目視できる速度だ。避けるのも容易い。
「ハアッ!」
まずは右の前足を切り落とした。続けざま、熊がよろけた隙を狙って左の前足も切り落とした。
「グオオォォ……!」
熊が雄叫びを上げた。地響きのような振動が伝わってきたが、アクセルは怯むことなく巨体の中心を小太刀で一突きした。あばら骨を貫通し、心臓を貫いたような手応えを感じた。
「グァァ……」
巨体を蹴り飛ばして小太刀を引き抜く。それと同時に、熊の身体が地面にどう……と頽 れた。
しばらくは細かく痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなった。念のために息を確認してみたが、ちゃんと倒せていたので安心した。
「……やれやれ」
ふう、と額の汗を拭い、小太刀を収める。そして急いでピピに駆け寄った。
ピピは木の根元に寝そべり、おとなしく熊との決闘を見守っていた。
「ピピ、大丈夫か? 怪我してないか?」
「ぴ……」
むくりと起き上がってくるピピ。
一見平気そうに見えたが、お尻の方に爪で引っ掻かれたような傷があり、じわじわと赤い血が滲み出していた。
「って、思いっきり怪我してるじゃないか! 早く泉に行かないと……!」
「ぴぇ……」
「歩けるか?」
「ぴー……」
「よし、じゃあすぐに泉に向かおう。変なことに巻き込んじゃってごめんな」
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