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第1851話

 アクセルは急いでピピを誘導し、山を離れて泉に直行した。  泉には既に数人の戦士がいたが、順番待ちをしている余裕はないので気にせずド真ん中から飛び込んだ。 「どわ!」 「おぶっ……!」  ピピと飛び込んだ途端、バシャーンと大きな水飛沫が上がり、周りの戦士が悲鳴を上げる。  ちょっと迷惑だったかなと思いつつも後で謝ればいいやと考え直し、アクセルはピピの様子を窺った。 「ピピ、調子はどうだ?」 「ぴ……」  ピピは暴れることなく水に浸かっていたが、引っ掻き傷は変わらず痛々しかった。傷そのものが広いので、治るのにも時間がかかりそうだ。  ――それにしてもおかしいな。ピピは耳がいいし臆病だから、熊が近づいてきたことなんてすぐわかりそうなものなのに……。  繁みに掻き消されて熊の気配がわかりづらかったんだろうか。  まあ全力ダッシュして息も上がっていたし、周りの警戒が疎かになるのもやむを得ないのかもしれない。  そんなことを考えながら、アクセルはピピの怪我が完治するのを待った。  そのまま三十分くらい泉に浸かり続けたら、傷があったこともわからないくらい回復した。 「ピピ、もう大丈夫か?」 「ぴー」 「よし、じゃあ帰ろうか。身体も冷えてきたしな」  泉から上がり、ピピと一緒に自宅に戻る。  家では兄が大きな寸胴鍋で何かを煮込んでいる最中だった。覗いてみたところ、それはイノシシの塊肉だった。シチューでも作っているのだろうか。 「おかえり。偵察だけだったのに、随分遅かったねぇ」 「ああ……実は帰り際に熊に襲われて。一応倒したけどピピが怪我をしたから、泉に入ってたんだ」 「え、そうなの? お前は怪我しなかったのかい?」 「まあ、何とかな。ただ、一度逃げたのに熊が追撃してきて……」  アクセルは事の顛末を話した。  最後に「倒した熊を回収しに行こう」と誘ったら、何故か兄は呆れたような顔になった。  鍋で煮込んでいる塊肉を掻き混ぜながら、やれやれと溜息をついている。

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