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第1861話
オーディンの愛馬を殺すわけにはいかないし、これ以上傷つけるわけにもいかない。
これで止まってくれなかったらどうすればいいんだ……と、アクセルは必死で考えた。
もう鈴を使うしかないのだろうか。自分がピンチなわけでもないのに、こんなところで使っていいのだろうか。兄に呆れられやしないか。
でもこのまま鍔迫り合いをし続けることもできないし……!
「っ……!」
スレイプニルの蹄をもう一度受け止めた際、再びピシッ……と、小太刀の鞘にヒビが入った。中の小太刀にも衝撃が伝わり、そろそろ武器そのものの耐久も限界に近づいているのがわかった。
これ以上は本当に無理だ……!
「お願いだ、スレイプニル様……! どうか怒りを鎮めてくれ……!」
蹄と鍔迫り合いをしながら、必死に呼びかける。
ミシミシ……と武器が軋む音が聞こえて、心の底から恐怖が沸き起こって来た。
この武器が砕けたら、おそらく俺は死ぬ……! どうする……どうすれば……!
「ブルル……」
しばらく膠着状態が続いていたのだが、やがてスレイプニルは前脚を大きく上げて地面を叩いた。
鍔迫り合いに飽きたのか何なのか、こちらに土を飛ばしてくると、あっさりと背を向けて退散していく。
「え……」
何だかよくわからないが助かった。
アクセルはスレイプニルの背に、丁寧に礼の言葉を投げた。
「ありがとうございます、スレイプニル様……!」
スレイプニルが帰ったのを見届け、ブラッドたちを待機させていた場所に戻る。
元の場所にはブラッドはもちろん、ドムと右腕を負傷した新人もいた。怪我をしたなら先に泉に行っていていいのに、何故か急に律儀になっている。
「ああ、やっと戻ってきたな。馬の化け物は倒したかよ?」
と、ブラッドが聞いてきたので、アクセルは首を横に振った。
「いや、倒してない。丁重にお帰りいただいたよ。あれはオーディン様の愛馬だから倒しちゃいけないんだ」
「そうなのか? そんなすごい馬がなんでこんな山に……」
「わからない。気まぐれに散歩でもしていたのかもな。……まあとにかく、誰も死ななくてよかった。怪我している人もいるから、今日はこれで切り上げて泉に……」
そう言いかけた時、不意に後頭部に衝撃が走った。
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