1861 / 2296

第1861話

 オーディンの愛馬を殺すわけにはいかないし、これ以上傷つけるわけにもいかない。  これで止まってくれなかったらどうすればいいんだ……と、アクセルは必死で考えた。  もう鈴を使うしかないのだろうか。自分がピンチなわけでもないのに、こんなところで使っていいのだろうか。兄に呆れられやしないか。  でもこのまま鍔迫り合いをし続けることもできないし……! 「っ……!」  スレイプニルの蹄をもう一度受け止めた際、再びピシッ……と、小太刀の鞘にヒビが入った。中の小太刀にも衝撃が伝わり、そろそろ武器そのものの耐久も限界に近づいているのがわかった。  これ以上は本当に無理だ……! 「お願いだ、スレイプニル様……! どうか怒りを鎮めてくれ……!」  蹄と鍔迫り合いをしながら、必死に呼びかける。  ミシミシ……と武器が軋む音が聞こえて、心の底から恐怖が沸き起こって来た。  この武器が砕けたら、おそらく俺は死ぬ……! どうする……どうすれば……! 「ブルル……」  しばらく膠着状態が続いていたのだが、やがてスレイプニルは前脚を大きく上げて地面を叩いた。  鍔迫り合いに飽きたのか何なのか、こちらに土を飛ばしてくると、あっさりと背を向けて退散していく。 「え……」  何だかよくわからないが助かった。  アクセルはスレイプニルの背に、丁寧に礼の言葉を投げた。 「ありがとうございます、スレイプニル様……!」  スレイプニルが帰ったのを見届け、ブラッドたちを待機させていた場所に戻る。  元の場所にはブラッドはもちろん、ドムと右腕を負傷した新人もいた。怪我をしたなら先に泉に行っていていいのに、何故か急に律儀になっている。 「ああ、やっと戻ってきたな。馬の化け物は倒したかよ?」  と、ブラッドが聞いてきたので、アクセルは首を横に振った。 「いや、倒してない。丁重にお帰りいただいたよ。あれはオーディン様の愛馬だから倒しちゃいけないんだ」 「そうなのか? そんなすごい馬がなんでこんな山に……」 「わからない。気まぐれに散歩でもしていたのかもな。……まあとにかく、誰も死ななくてよかった。怪我している人もいるから、今日はこれで切り上げて泉に……」  そう言いかけた時、不意に後頭部に衝撃が走った。

ともだちにシェアしよう!