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第1874話

 アクセルは驚いて兄を見つめた。  お守りを作るために、わざわざバルドルのところまで行ってくれたのか。バルドルみたいな高名な神様にお守りを頼むのだから、それなりに対価も必要だったに違いない。 「ありがとう……。そんなすごいお守りを用意してくれたのか」 「まあね。今までいくつかお守り渡してきたけど、どれもあまり効果なかったし。だから今度こそちゃんと効果があるものを……と思って、バルドル様の御加護を与えてもらったんだよ」 「そうなのか……。でも、その分見返りは必要だったんだよな? バルドル様は親切な方だけど、さすがにタダでは作ってくれないだろうし」 「まあ、ちょっとね。でもたいしたことないから、気にしなくていいよ。私にとっては、お前が無事でいてくれることの方がずっと大事だからさ」 「ごまかさないでくれよ……。俺だって兄上のことが大事なんだ。この御守りを作るために兄上が大変な対価を支払ったなら、そっちの方が心配になってしまう」  真剣な顔でそう訴えたら、兄は軽く笑ってこう答えた。 「大変な対価なんて支払うわけないじゃない。バルドル様はそんな意地悪なこと要求しないよ。庭の柵が壊れているのを直したり、足りなくなっていた暖炉の薪を割ったり、空いている部屋の掃除や片付けをしたり……みたいな労働を一日やらされただけ」 「え……それだけ? 何か代わりとなるものを差し出せとか、そういうことは言われなかったのか?」 「言われないってば。本当に一日中バルドル様の屋敷で働いていただけだよ。ホズ様が監視してたからサボれなかったけど、特に変なことを要求されることはなかった。嘘だと思うならバルドル様のところに行って直接確かめてごらん」 「い、いや……そこまででは……」  慌てて手を振り、改めて貝殻の御守りを眺める。  拳にすっぽり収まってしまいそうな小さな貝殻だったが、ほんのりと優しい温もりを感じた。 「ありがとう……。いつも何から何まですまない……」

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