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第1976話

「……だろうな。というか、ヤケクソでも最深部に辿り着けるなら、言うほど洞窟が苦手ってわけではないだろう」 「い、いえ……そんなことはないです。ヴァルハラには光も音も届かない暗闇の洞窟があるんですけど、そこでいろいろトラウマができまして……」  例の洞窟のことを思い出す。  一回目はラグナロク前に狂戦士モードを安定させるために、二回目は精神を鍛えるために入ったのだが、二回とも嫌な幻聴が聞こえてきてメンタルがボロボロになったのだ。  心細くてたまらないのに誰の力も借りられなくて、仕方がないから泣きながら歩き、出口が見えない中、幻聴に心を抉られ続けた。  そういう経験を二回もしてしまったから、洞窟に苦手意識が芽生えてしまったのだろう。  ――あの時の幻聴は兄上の声で「お前は本当の弟じゃない」みたいなこと言ってたけど、今はどうだろうな……。何が聞こえるんだろう……。  今なら「本当の弟じゃない」と言われても、さほど気にならない自信がある。  透ノ国で自分たちの出生の秘密を知ったせいか、血の繋がりもクソもあったもんじゃないと骨身に沁みたのだ。というかグロアの実験の末に生き残った成功体なら、それだけで血の繋がり以上の絆がある。  だとしたら、次にあの洞窟に入った時聞こえる幻聴はどんなものなのだろう。少し気になってきた。 「おい、何を考えているんだ?」  ホズに声をかけられ、我に返った。 「気がそぞろになっているぞ。奥に入ったらガーディアンが徘徊しているんだ。気をつけろ」 「は、はい……すみません」 「まったく……少しは強くなったかと思ったが、まだまだ脇が甘いな。危なっかしいったらありゃしない。放っておけなくなるのもわかるな」 「うう……面目ないです」  やはり自分は、今更になってもまだまだ手がかかるようだ。  いい加減一人で何でもできるようになりたいのに、いつまでも誰かに頼ってばかりで本当に恥ずかしい。  気持ちを切り替えるように、アクセルはホズに話を振った。

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