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第17話
キスの刺激で息が上がってしまっている俺の前で、慎太郎は唇を手の甲で拭った。
「…… 言っときますけど、初めてじゃないですから。俺たち、キスだけじゃなくてそれ以上のことも……」
堂々と主任たちに戦線布告する慎太郎に、俺は圧倒されていた。
(……あ〜なんか、俺の知ってる慎太郎じゃない……)
優しくて気配りも完璧で、凄い奴だとは思ってた。仕事もできるし。だけど、上司やクライアントに刃向かうなんてこと、絶対しない奴だったんだ。
(俺がこうさせたのか?)
さっき、こいつは俺のことが好きだと言った。
確かめてないけど本当なのか? いつから……。
そっと唇に触れてみる。まだ熱い。慎太郎のキスは意識が飛ぶかと思うほど巧みだった。今でも思い出すとクラクラする。
そんなことを思っていたら、主任と目があった。どこか寂しげな表情に、胸の奥がチクリと痛む。いや、でも、そもそも、主任が元凶なんだ。嘘なんてつくから……。
そう思ってみても罪悪感は消えない。
「俺も、キスならしたで。尾宮ちゃんは流されやすいからな」
どさくさに紛れて、山田社長がカミングアウト。俺ははっと我に返る。
「社長……! ちょっとニュアンスが違うでしょ」
「照れんでよろし。柔らかくてあったかくて、キュートな唇や。美味かったわあ」
「社長……!」
主任が俺に向き直る。
「俺の知らない間に、いろいろやらかしてるみたいだな」
くぐもった声。
でも、いろんなことが暴露されているのに、最初の頃より落ち着いている。少しは免疫がついてしまったんだろうか。
「で?」
主任は俺の顔を覗き込む。
「で? とは?」
間抜けだとは思ったけど、俺はそう問い返した。
「お前の気持ちはどうなんだ」
「俺の気持ち……」
「そうや。肝心なこと、聞かせてもらいまひょか」
山田社長も主任に同意する。すーっと頭の中がさめてくる。
「俺は……主任と付き合おうって思っていました……」
静かに俺はそう言った。
「過去形だな」
慎太郎が言う。
「はい」
俺は俯く。主任のため息が聞こえてきた。
山田社長が机の上のバラを取り、俺の胸ポケットにさした。
「全てはリセットっちゅうわけか。面白いやないかい。この中の誰が、尾宮ちゃんを射止めるか、競争やな」
どこかスッキリした表情だ。主任が自信たっぷりに言った。
「俺が勝つ」
慎太郎も負けていない。
「俺ですよ」
「あの、俺は認めてませんからっ!」
睨み合う3人を眺めながら、俺は叫ぶ。でも、誰の耳にも届いていないようだった。
一部終わり
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