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キミヲオモイテ
もう、どの位経つのだろう。
彼の地で、僕の魂の半分が眠りについてから。
世界を守る為に、君は眠りについたね。僕はそんな君が誇らしい。
だけど、もう一つの気持ちがあるんだよ。眠りにつく前、君は僕に本心を語った。
「俺も天族に産まれたかった。導師は大切な役目だし、運命として受け入れるけど、ミクリオと同じ時間を歩みたかった。」
イズチで、天族と同じ様に育ち、家族、友人として、育ったよね。沢山遺跡を巡り、人々と出会い、成長してきた。
様々なトラブルもあったけど、乗り越えるたび、僕らの繋がりは強く固くなっていった。
これからの自分の歩みを悟った時、心の底から絞り出す様な声で、僕をきつく抱きしめて
「好きだ。ミクリオ。友人や家族以上に。これから1人にしてしまう前にこんな事言ったらいけないと思ってたけど、伝えたかった!」
僕は、最初どういう意味か分からなかったんだよ。ギュッと目を閉じて、唇を重ねられるまで、君の顔をマジマジと見ていたんだ。
優しく触れてきた唇から、君の感情が溢れ出して、僕の心を満たしてくれた。ずっと、僕だけが、持っていたとばかり思っていた違和感。
あぁ、スレイ。君は僕と同じ事を想っていたんだね。
「スレイ。僕も君が好きだったよ。」
驚いて、目をまん丸に見開いた君の顔は可笑しくて、笑ってしまったね。
そしてまた、強く抱きしめて
「ミクリオ。ミクリオが欲しい。最後のワガママを受け入れて欲しい。」
「最後なんていうな。死ぬわけではないのに。」
もう、言葉はいらなかった。見つめ合い、互いの体を求めて、熱い掌がはい回り、熱を高めていった。若い身体はあっという間に昂りまで達して、最初は目的を果たせなかったな。
「ミ、ミクリオごめん。あ、あのもう一度・・・」
再び、互いを愛し合い、何とか1つになれたよね。快楽を求めたんじゃなく、あれは人間で言えば、愛情を確認したのか。
時間がなかった僕らは、毎晩の様に求めあって繋がった。
身体は覚えてる。何百年経とうとも。
君が眠りについてからも、僕は旅を続けている。身長も伸びたし、髪も伸びた。
自覚はないが、結構、言い寄られたりしているんだよ。フフッ、君がいたらきっとヤキモチを妬いて喧嘩してるだろうな。
でもね、僕は初めて君と愛と言う物を分かち合った時から、君以外と深い関係にはなるつもりは無いよ。だから、安心して、務めを果たして欲しい。君の目覚めを待ち続けるのは、切ないけれど大丈夫。僕の一番星は、ずっと輝いているよ。
「ふーん。この遺跡は地図には無いな。小さいが、原型を綺麗に保ってるし、何より美しい。」
ふと、立ち寄った村はずれの森の茂みの奥。
小さな遺跡を見つけた。
「きっとスレイがいたら、興奮して騒ぐだろうな。」
中に入れそうだったから、壁のレリーフを見ながら、歩いた。
「これは、導師の・・ドラゴンを浄化しているのか。」
伝説になってる僕の魂の半分は、時折、様々な形で現れる。
「これが、スレイなら、この遺跡は、さほど古くないな。だから、綺麗なのか。」
よくよく見れば、遺跡と言うより、祈りの場のようで、花や供物が、彫刻の足元に置いてある。
「スレイ。君は皆に慕われているよ。君の役目は偉大だ。」
まるで、自分の事のように嬉しい。
奥まで歩みを進めると、恐らく祭事の時に使うのであろう祭壇の様なものがあり、中心には、美しい宝石が埋め込まれている。
「綺麗だな。まるで、スレイの瞳のようだ。」
スレイを想い、注意力が無くなっていた。
宝石に触れた途端、足元の感覚がなくなり、身体が浮いた。
(落ちる!)
ガシッと手首を握られ、落ちずに済んだ。見上げれば、逆光で、助けてくれた人の顔が見えない。待て。人間には僕は見えない筈。
カチャ。
僕の手をしっかり握る相手の手首には赤い玉が連なり、羽飾りが付いている。
あぁ、僕の魂の半分。愛おしく毎夜、夢に現れ狂おしく熱を持たせる彼。
引き上げられ、あかりの元にでて、彼の顔を見た。
最後に見た眠りについていた時より少し大人びているが、間違いない。
「時々、逢いに来てくれてたでしょ。わかってたよ。語りかけてくれていた声も届いていたよ。ミクリオ。」
「・・・・ス、スレイ!」
飛びつき彼に抱きついてしまった。涙が溢れるのが分かった。頭では理解していたつもりだったけど、心は寂しくて寂しくてたまらなかった。
優しく頭を撫でてくれる。腕を回し、僕の飛びついた身体を包むように抱きしめてくれた。
「ミクリオ、お土産があるんだ。」
僕が落ち着いて、身体を少し話したら、小さな機械を持っている。
「覚えてる?これ。」
「えーと。・・・・あ、もしかして。」
「そう、あの発明家の子孫に偶然会ってね。これ、もらって来た。」
「人間に姿が見えるようになる機械だね。」
「これで、ふたり旅続けられるな。透明人間に話しかける変人には見られない。」
「そうだね。ハハハッ!僕らだけなら不便ないけどね!」
あぁ、そうか。たった今から、もう、独りぼっちじゃ無いんだ。
「スレイ、君が眠っている間に世界は随分と変わったよ!平和で、美しいもので溢れている。」
「ミクリオ。俺にとって、ミクリオが全てだ。ミクリオが隣に居てくれたらそれで充分だよ。」
見つめ逢い、自然と唇が重なる。数百年経とうとも、気持ちは変わってなかった。
「ス、スレイ!これ以上はダメだ。ここは、神聖な神殿だ。」
いつのまにか服の中に手を入れ弄っている。人間らしいと言えば人間らしい。
「そうだね。神殿だ。ミクリオの声を辿って予想した通りに、ここに来たから嬉しくてね。折角、俺の為の神殿を汚したらマズイね。」
目が合うと笑いが出て立ち上がり、神殿を後にする。
「村には宿がないよな。次の町までオアズケか。」
「導師たる者、目が覚めたら盛るって、大丈夫かい?」
「導師と言えど、所詮人間。眠る前は少年だった俺の魂の片割れが、こんなにも美しく成長したら、我慢できない。」
纏めてる髪に優しく触れ、キスをする。
「コラ、導師様。僕の姿、見られてるんだぞ?誰かに見られたらどうする・・。」
「あら、見られたら何か不味い事をしていたの?ミボ。」
「エドナ!それにライラまで!元気だった?」
「スレイ様!浄化が終わられたのですね!」
「あぁ、終わったよ。様なんて付けないで?スレイでいいよ!」
「こんなに明るい時間から、道端でイチャつくなんて。ミボの癖に。」
「ミボじゃない。ミクリオだ。イチャついてなんかないさ。話してただけ。」
「ふん。どうかしら。大切な導師様を待つからと、ジィジ達からの縁談をことごとく足蹴にしてきたのに。」
「縁談?・・・後でじっくり話を聞くよ、ミクリオ。」
「面白いわ!目覚めた導師様に責められるミボ!」
高らかに笑うエドナ。何年付き合っても変わらない毒舌。
「いい加減、ミボは、やめてくれ。もう、ミクリオ坊やじゃないんだ。」
「あら、ミボは、ミボよ。ミクリオは私の思う壺、略して、ミボよ?死ぬまでね。」
はぁ、そうですか。
「それより、どうして2人揃って?」
「導師様が目覚めたと天族の間でも話題ですわ。」
「そうよ。突然、風の天族の村に導師様が現れたんだもの。」
え?天族の村に現れた?
「どういう事?スレイ。」
目の前にいるスレイは、人間じゃないのか?
エドナは、天族に転生したら記憶が無くなると言った。だけど、神殿でも今も全く昔と変わらない。
「実はかなり前に目覚めてね。記憶がなくて、天族として転生したことも理解出来なくて。」
しばらく、風の天族の村で落ち着いて、それから人間の世界に降りて、記憶を辿る旅を続けていたらしい。
「唯一の手掛かりは、旅を記録してた手帳とミクリオの声だった。」
そして、ゆっくりだけど人間だった頃の記憶を取り戻した。
「発明家の子孫に会ったって、天族なら、人間には見えないだろ?」
「アチャーバレた?彼女のこと思い出してね。町に行ったら、子孫が同じ場所に暮らしてたからね、ちょっと拝借した。」
「ようは、黙って持ち出したんだな。それ。」
「だって、旅すんのに、透明人間だと不自由なんだよ。」
天族は、食べなくても、寝なくても平気だが、記憶の奥底にある習慣、人間の寝食は残っていて、死にはしないが、ひもじいし、睡眠不足だったらしい。
そこで、あの機械だ。見えるようになれば、宿にも泊まれるし、食事にもありつける。
「これで、ミクリオやエドナ達とも生きていけると思ったけど、人間だった頃の仲間は皆とうに亡くなってて、知ってる人間が1人もいない世界は寂しかったよ。」
そうか。記憶が戻っても、孤独だったんだ。
だけど。
「どうして、エドナもライラも人間界に?」
僕は、ひたすらスレイを待つ旅を続けていたから、ここにいた。でも何故2人が?
「その機械よ。私達にも使わせてくれない?」
「はい。今や、人間と天族は共存して平和的ですが、私達の姿が見える人間が限られていて、まるで私達天族が、神のように扱われているのです。」
「ようは、見えれば、普通に付き合えるでしょ?平等にね。」
「はい。ですので、スレイ様が、機械を手に入れたと、伝え聞いたので追いかけてきたのです。」
「成る程。もう、俺もミクリオも使ったから、持って行っていいよ。」
「まるで、自分の物みたいに言うなよ。」
「使われずに埃を被ってたんだよ?有効活用!」
機械を渡すと、それはあっさりと2人は帰って行った。
「エドナ、変わらないな!」
笑うスレイ。
「もう!ミボ、ミボ、ミボ!会う度、ミボだよ。何が私の思う壺だよ。」
ゲラゲラ笑うスレイ。楽しいけど笑いすぎ。
「行くぞ、スレイ!笑いすぎ!」
「急がなくてもいいだろ?どうせ、次の町には着かないんだし。」
まぁ、それはそうだけど・・・。
「ん?何か他に目的が?」
ニヤけてる顔が全て理解してる証。
「あ、そう。じゃ、次の町までオアズケだね。」
「あ、いや待って!やだよー!オアズケなんて~!」
「野宿だぞ。風呂も入れないのに、しません。」
夕暮れも迫り、夜営場所探ししなきゃいけないのに、じゃれ付くスレイ。
(本当に天族か?天族は性欲ほぼ無いのに。)
いうて、自分もスレイと睦み合う事を知ってからは、人間と大して変わらない欲をもっている。
街道から離れて、見晴らしのいい高台で今夜は休むことにした。
「今日は、月明かりで、焚き火要らないね。」
「あぁ、寒くもないし。星空が綺麗だ。」
2人して、敷物一枚広げて横になる。
スレイが、記憶を辿る旅の話をし、僕はスレイを待っていた間の遺跡巡りの話。尽きることが無い。話に夢中で、スレイが仕掛けてきたことも気がつかなかった。
「!ス、スレイ!さっきも言ったけど、野宿だから!こら!我慢しろって!」
「無理。数百年我慢したんだ。褒めて欲しいね。」
抵抗する唇は、情熱の塊の愛しい相手に塞がれてしまった。
~つづく
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