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第6話
「そうだね……その時はせいせいするね。けれど、卒業は寂しいものだよ」
「卒業式で泣かないでもっと大事な時って、なんだろうね」
「大事な人との決定的な別れじゃないかな」
「何で別れるの?」
「え?」
「どうして卒業すると別れにつながるのか、俺には解んないんだけど」」
「そうかな」
「この歌のころはわからないけど、今は連絡手段なんていくらでもあるし、その気になれば続けることはできると思う」
「色々と変わってしまうからね。自分一人の思いだけじゃどうしようもないことが出てくるんだよ」
君の顔を直視できなくて、目を伏せる。
僕は笑えているかな。
君は僕の思惑に気が付いてしまっただろうか。
「あなたも、そう思っているの?」
「え?」
「卒業したら別れるの?」
「そういうのは致し方ないと思うよ」
「いやだ」
「ねえ」
「いやだ。俺を捨てないで」
「捨てないよ。別れないよ。そんなつもりなら、こんなに張り込んで卒業祝いなんて、するわけないじゃないか」
僕の手から水の入ったコップを取り上げて、君は僕を抱きしめる。
大丈夫。
そんな縋り付くように抱きしめなくても、僕はちゃんとここにいるよ。
それにねえ、君は気が付いていないでしょう。
どんどんと変わっていくのは、君ひとりなんだよ。
僕は変わらない。
例えば昇進したり転勤になったとしたって、今までと同じように、職場と家の往復だ。
捨てられるとしたら、僕の方。
「何処にもいかないで」
「行かないよ」
「俺のそばにいて」
「いるよ」
「抱いてもいい?」
「いいよ。君の好きにしていいよ」
どれだけでも、君の好きにしていいよ。
だって、ねえ、君の卒業祝いなんだよ。
愛しい人。
君の人生に、僕を刻みつけよう。
君を抱きしめていくよ。
いつまでかはわからないけれど。
君が僕を望む限り、僕は君の手を離さないよ。
卒業、おめでとう。
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