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第5話

君が選んだラジオ局は、僕にとっては慣れ親しんだ雰囲気のもの。 ゆったりとした話し声と、ハガキの紹介と曲の紹介。 そして時期的なものなんだろう。 流れてくる、卒業ソング。 それも、ホントに僕にとっては懐かしい、昭和のころのものばかり。 あの頃は、携帯電話もスマホもなくて、パソコンは大きくて高価で、通信サービスはややこしくて。 基本的に連絡は家の固定電話だった。 卒業して別の道に進めば、余程お互いが望まない限り……互いに望んで努力しない限り、年単位での音信不通なんてよくある話だった。 だから、卒業は、本当に別れで、旅立ちだった。 机にイニシャルを刻むように、何かに自分の存在を刻んだり。 胸のボタンを欲しがったり。 万感の思いで握手をしたり。 できない約束を微笑みで断ったり。 それが僕たちの感覚での、卒業だった。 今はどうなのかな。 最近の曲は君と一緒の時にテレビで見るくらいだけれど、とてもさわやかだよね。 前向きで寂しさは少しだけで、新たな生活に向かっていこうって、そういう心意気にあふれている。 そんな気がするよ。 今の君も、そんな卒業を終えてきたのだって、そういうすがすがしい感じがするよ。 いざ、旅立ちの時、だね。 「変なの」 「何が?」 「そんなに寂しがらなくてもいいのにって思うんだけど……」 ほらね。 君は耳で拾った歌詞に不思議そうな顔をする。

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