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3一6
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最近は常に怜と行動を共にしているため、一人の時間が少ない。
橘を嫌う怜の前ではそうそう話しかけられないし、ほとんど由宇の隣には怜が居るのでタイミングも計れなかった。
怜の家庭の事だからとあまり気乗りはしなくても、あの橘がと思うとどうしても納得がいかなくて。
由宇のモヤモヤと怜のために、真実を知りたい一心で意を決する。
会話をするとまたイラつくかもしれないけれど辛抱するぞ、と決意して、回れ右した由宇のすぐ後ろに橘はすでに迫っていた。
「わっっ!? 痛いなー! なんで追い掛けてきてんの!?」
橘達からは少し距離があったはず。
立ち止まって数秒で、橘は由宇の背後に気配無く走り寄って来たという事になる。
駆け出そうとしていたので思いっきり橘の胸元に顔面をぶつけ、恨みがましく見上げて文句を言うと悪魔がニヤリと笑んだ。
「お前が立ち止まったからだろ。 なんか話あんじゃないの」
「だとしたら先生めちゃくちゃ足早いね!」
「おー、俺、足自慢」
「そういえばあの時、蹴りが飛ぶぞとか言ってたよな」
勢い良くぶつかったので鼻がつぶれてやしないかと顔を触りながら、橘を見上げる。
「見たい? 回し蹴り得意なんだよ。 おい、お前ら誰か俺の回し蹴り受けろよ」
「嫌っすよ!」
「んな気絶もんの回し蹴り誰が受けると思うんすか!」
由宇は見たいなど一言も言っていないのに、橘が振り返って取り巻き達を指先で呼んだ。
だが一斉に首を振って拒否した事で、橘の眉間に縦皺が何本も現れている。
その表情をコソッと盗み見た由宇は、「こわっ」と小さく呟いた。
「肝の小せぇ野郎ばっかだな。 じゃあお前受けてみる? ぷんぷん丸」
「風助さん、やめてやって下さいよ!」
「その子確実に骨折れますって!」
近付くと回し蹴りを受ける羽目になると思ってなのか、遠くから取り巻き達は橘を止めにかかっている。
まったく寄ってこない彼らを一瞥し、由宇に視線を戻した橘が薄ら笑いを浮かべていて、本当に恐ろしい。
「加減すっから」
「嫌だよ! 何で俺が回し蹴り受けなきゃなんないの!? 骨折れるのもう二度とごめんなんだから!」
「あぁ、足? 事故ったんだっけ」
「なんで知って…!?」
担任と怜にしか事故の話はしていないのに、なぜ由宇とは関係ない橘がその事を知っているのかと大きな目を瞠った。
教師同士、どうやら筒抜けのようだ。
「体育祭サボってたじゃん。 ほんとは走れるのになーぷんぷん丸」
知ってんだぞ、とその瞳で語られ、罰の悪い由宇はこの場から逃げ出したくなった。
息巻いていた由宇がすっかり大人しくなった事で、橘の取り巻き達は少しずつ歩み寄ってきている。
「で? 話って何?」
腕を組んだ橘が憮然と由宇を見下ろす。
取り巻き達の前で言っていいものか悩んだが、早く怜の家に行かないと心配するかもしれないので、由宇は一つだけ小さく深呼吸して橘の瞳を見た。
「橘先生の婚約者…………」
「あぁ、その話な」
「まだ何も…!」
由宇がたった一言呟いただけで、橘が二の句を告げさせないよう遮ってきた。
その瞬間、橘はすべて知っているのだと悟った。
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