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3一7
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「お前ら車どこ停めてる?」
愕然とする由宇を前に、橘が再度取り巻き達を振り返った。
「すぐそこのコンビニっす」
「俺のは?」
「同じとこっす」
「行くぞ、ぷんぷん丸」
「え、行くってどこに…」
「こんなとこで話せる内容じゃねーだろ」
橘は戸惑う由宇の右腕を掴んでスタスタと歩き始め、取り巻き達も引き連れてコンビニの駐車場へとやって来た。
何も知らない買い物客は橘達の様相に「ヒッ」と声を上げて早足で遠ざかっていき、その様子を見ていた由宇は「俺どう見えてんだろ」と苦笑してしまう。
か弱そうな由宇が親玉に右腕を掴まれ、悪人面した四人の仲間達と共に今まさに車に乗せられようとしているので、下手したら警察に通報されかねない。
取り巻き達の車は黒のワンボックスカーで、橘の車はこちらも真っ黒の高そうなセダンだった。
二台とも黒光りしていてピカピカで、窓には濃いスモークを貼っているためか、やはりそっちの人なのかもしれないと分かると非常に乗りたくない。
「乗れ」
「………嫌だ」
「は? 乗れ」
「ヤダってば! 痛いことすんだろ、どうせ! ぶん殴ったり得意の回し蹴りしたり!」
「車ん中でどうやったら回し蹴り出来んだよ。 いいから乗れ」
橘の車の横で言い合う由宇と橘を見て、取り巻き達はまたゲラゲラ笑っている。
由宇が余計な首を突っ込もうとしたために、この車に乗ったら最後、生きて帰れないかもしれないと死への恐怖でドキドキだというのに、呑気なものだ。
助手席を開けたまま押し問答する由宇に、橘が珍しく優しげな声を出した。
「俺仮にもセンセーだからな? 取って喰いはしねーよ。 俺の事どんな奴だと思ってんの」
「…………ヤの付く人」
「ウケる!! 風助さん、この子マジでウケる!」
「ホントの事言ってマジだったらどうすんの、チワワ君!」
「っるせーな。 お前ら笑い過ぎ」
ゲラゲラ笑いまくる取り巻き達に眉を顰めて、橘は強引に助手席へと由宇を詰め込んだ。
「こいつと話してくっから、お前らあっち頼むわ。 一時間後にここな」
「はい、分かりました」
運転席に乗った橘は、シートベルトを嵌めると二度空吹かしして荒っぽい運転でコンビニの駐車場から由宇を連れ出した。
一時間後にここで、と言っていたという事は、確実に怜の家に行くのが遅くなる。
駅に着いたとメッセージを送ってからすでに怜の家に着いていないとおかしい時間なので、そろそろ心配の連絡がありそうだ。
「やっぱり」
と、思ったらやはり怜から着信がきた。
「何が」
「怜から電話。 出ていい?」
「どーぞ」
駅までの迎えを断っているので、こうして少しでも遅くなると、迷ったのではないかとか知らない人に声を掛けられているのではないかとか、様々な心配要素を怜はぶつけてくる。
いつもはデザートを買っていて遅くなる事が多いが、橘を毛嫌いし、その婚約者を憎んでいる怜に、今のこの状況は絶対に知られてはいけない。
どう嘘を吐こうかと悩んでいると、橘がフッと笑った気配がして、横顔をチラ見する。
「お前って考えてること全部顔に出るよな」
「うるさいなぁ。 だって言えないじゃん、その……橘先生といるだなんて」
「………ま、そうだな。 ぷんぷん丸はどんな嘘を吐くのか見ものだ」
「腹立つー!! ………あ、もしもし、怜?」
ちょうど信号待ちだったせいで、横から伸びてきた手に由宇のスマホを操作され、通話状態になってしまったため慌てて耳にあてる。
努めて普段通りを装った。
運転席で悪魔のように笑う橘を睨み付けながら。
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