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4一6

4一6 走り始めて一時間ほど経つ。 今日は安全運転で、ほとんどタバコも吸わないで運転に集中している橘の横で、由宇は心地良い揺れで眠くなってきていた。 緊張感を持っていたつもりでも、車移動でこんなに遠くまで来るなど予想外だったせいで緊張の糸が切れかかっている。 「おい、寝るなら寝ろよ。 必死で起きてよーとすんのウケるんだけど」 「うるさいなぁ……寝ちゃダメって言ってよ。 寝ろって言われたら寝たくなくなるー」 「何だよそれ。 マジで、あと30分は掛かるから」 「そんなに? もっと近場で話し合いすればいいのに」 「そうもいかねんだよ。 雲隠れ先を転々としやがるからな、アイツら」 ふーん、と言いながらも由宇はすでにうつらうつらとしていた。 (あと30分も掛かるならいっか……) 目的地に着いたら起こして、と夢の中で橘に言って、重たい瞼がいよいよ降りてきてしまい、そのまま橘の肩に寄りかかる形で眠りについた。 寝ていると30分などあっという間のようで、由宇は優しく揺り起こされてハッと目覚め、橘の姿を探した。 「……っっ、先生はっ?」 「風助さんならもう中だよ。 チワワちゃんを俺らの車に移動させとけって命令」 「……起こしてくれてもいいのに…」 「気持ち良さそうに寝てたから起こせなかったんじゃない? ほら急いで、盗聴しなきゃいけないから」 拓也の声に寝惚けながらシートベルトを外し、のんびり反応を返していた由宇だったが、「盗聴」という言葉にギョッとして目を丸くした。 「それって犯罪………!」 「シーッ。 俺ら探偵だからギリギリのライン守ってるよ」 「た、探偵…!?」 「詳しい事は車内で話すから。 早く早く」 新しい情報のインパクトが大き過ぎて、拓也から差し伸べられた手を素直に握ってワンボックスカーの方へと移動した。 すでに「チワワちゃん」と呼ばれている事に慣れてきているせいで、それも拓也の笑いを誘ったが由宇は気が付かない。 促されるままに拓也と後部座席に乗り込むと、ついさっき紹介された二人は最後尾の席に居た。 ロン毛の大和はノートパソコンを開いており、ツンツンヘアーの瞬はヘッドホンを付けて四角形の機械を睨んでいる。 二人ともが眉間に皺を寄せていて、作業に集中していると分かっていても、これから喧嘩でもしに行きそうな形相だった。 こういう風貌には橘でいくらか慣れていた由宇でも、人数が増えると慣れも通用しないらしく先程切らした緊張の糸を手繰り寄せてちょこんとおとなしく座った。 隣に腰掛けた拓也も、瞬と同じヘッドホンを嵌めて難しい顔で機械を操作し始めている。 何が起こっているのか分からないけれど、この人達は中での話し合いを盗聴して録音しようとしているのでは、と推測出来た。 車内の三人が無言なので、する事がない由宇は濃いスモーク越しに辺りを観察してみる。 ここはどうやら、山あいに立つペンションのようだ。 辺りが木々に囲まれていて、雲隠れ先を転々としているという橘の言葉通り、見付かりにくい場所を選んで二人は行動している事が分かる。 このペンション内で今、橘とその婚約者、怜の父親が話し合いをしていると思うとソワソワして落ち着かない。

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