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5一4
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触れられてからものの数分の出来事だった。
ジェットコースターに乗ってるような、あっという間の衝撃。
(……はぁ、…何だったんだよ、今の……)
今何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
橘が上体を起こしてティッシュで掌を拭い、由宇のものも拭ってくれたが、されるがままだ。
自慰すらまともにしないせいで、こんなにも強い快感を感じた事のない由宇は脱力しきっていた。
「これで寝れるだろ」
「どういう理屈だよ! …っ何なんだよ、もう…」
「嫌じゃなかったろーが」
そう言われれば嫌では無かったけれど、教師である橘にあんなに不埒な事をされるとは思ってもみなくて、とにかく訳が分からない。
この戸惑いをどうぶつけたらいいかも定かではないし、たった一回のあの数分だけで心臓がドキドキしてうるさいので、由宇は力なく橘の腕枕に沈んだ。
またさっきの抱き枕をされても、あれ以上の何かが起きる事はないだろうと大人しく橘の腕に収まる。
由宇の腰辺りに何やら硬いものが当たっているのに気付いたのは、その直後だった。
「……せ、先生…あの……」
「何だよ。 いいから早く寝ろ。 何時まで起きてるつもりなんだ」
「だって先生も……」
「だから何だって。 ハッキリ言え」
(言えないから濁してんじゃん〜! 先生の鬼! 悪魔!)
さっきの行為の非難も混じえて少しだけ振り返ると、無表情の橘と目が合った。
「なんか悪口聞こえたんだけど」
「え!? 俺口に出してた!?」
「て事は心ん中で思ってたっつー事か」
「なっ? え、カマかけたのかよ!」
こういう人だと分かっていながら、素直な性分に付け込まれた。
唇の端を上げた橘のニヤリ顔にハッとして、また彼の手の上で転がされている事に気付き奥歯を噛む。
背後でフッと笑った気配がしたけれど、もう振り向かなかった。
「こんだけ単純な奴ばっかだと世界は平和になんのになー」
「キィィ…っっ」
「うるせーから鳴くな。 抱っこしてやってんだからマジで早く寝ろ」
「そんなの頼んでない!」
「頼まれてねーけど。 人肌恋しい時はこれが一番だ」
減らず口も飽き飽きだ。
どうせ口では勝てないのだから黙っていればいいのだろうが、言わずにもいられない由宇の勝ち気さを存分に引き出してくれる悪魔顔の教師。
由宇の親が揉めていると知るや否や泊まれと言ってくれた橘は、今日の事を話すでもなく、ただ由宇をイライラさせていやらしい事をしただけだ。
だが確かに人肌というのはこんなにも温かいものなのかと思ってはいた。
背後の橘とは何やかんやで遠慮ナシでものが言える関係になっているから、それに免じてこれ以上歯向かうのはやめておこう。
「……優しいんだか優しくないんだか…」
「あ? 俺はヤサシイだろ」
「先生、言い慣れてないせいで片仮名に聞こえたよ」
「うるせーマジうるせー」
(やった、一つ俺の勝ち)
言い返してこない橘が「うるせー」としか言わない時は返す言葉が無い時だ。
何故か突然に不埒な事を仕掛けてきたのも、疲れさせて眠気を誘うためなのだろうと由宇はとてもポジティブに捉えていた。
もっと言えば、寂しさを紛らわすためなのだろう、と。
「………先生、…きっと意味があったんだよね、さっきの。 …………ありがと」
「センセーはもう寝ました」
「あはは…! おやすみ、……ふーすけ先生」
橘との言い合いは疲れるが、相変わらずすべてを忘れさせてくれる。
由宇は世間を知らな過ぎて、すでに橘の図中にある事にも気が付けないでいた。
抱える問題が大きくて重たくて、まだ知らない事の方が多い世の中で生きてきた由宇にとっては、橘は怜と同じ逃げ場にすらなっている。
(先生の事もっと知りたいな…。 怜の家族の事が解決したら、いっぱい話をしてみたい)
すでに橘への「嫌い」という感情はほぼ無くなっていたが、今日一日でそれは一転した。
誰かのために時間を割いて、解決しようとひた走る橘の背中は、単純な由宇にはとてもかっこよく見えた。
「……………ふーすけ先生、か」
規則正しい寝息が聞こえ始めた事で、橘はその華奢な体を思いっきり自身の体と密着させた。
うるさいガキんちょだが、時折ひどく切ない顔を見せる由宇の内側に入り込めたらしいと分かる橘への愛称に、知らず笑みを浮かべてしまう。
密着させた体に自身の半勃ちのものを押し付けて、少しばかり変態染みた。
仕方がない。
「コイツが気付くまでは挿れらんねーしな」
由宇はまだ子ども過ぎる。
さっきはほんのイタズラ心のつもりで触っただけなのだが、あまりに良い反応を見せるので思わずイかせてしまった。
小さく丸まって唐突な快感に悶える様子や、変声期直後の不安定な喘ぎ声は驚くほど橘の欲を駆り立てた。
だからといって、橘の中での感情もハッキリしないうちから体を繋げることなど出来ない。
そこら辺で橘に媚を売るような軽い女達とは訳が違う。
桜舞うあの日、ひとりぼっちで歩く由宇の後ろ姿は「寂しくてたまらない、誰か助けて」そう言っているかのようだった。
橘は理由あってここに新任としてやって来たので、解決したら長居は無用とばかりにさっさと辞めてしまうつもりでいた。
だが辞められなくなってしまった。
助けて、と背中で橘に訴えてきた由宇を、三年間見届けなければならない。
どうやら由宇の家庭環境も劣悪なようだから、園田家の事と同時進行でどうにかしてやりたいが…。
何分、時間が足りない。
正義の暴走族、「裁判之女神」副総長だった橘 風助は、これまでにないほどたくさんの思いと案件を抱えていて、現在、とても忙しいのだ。
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