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9一4※
9一4
橘は「セックスしたい」と言っていた。
けれどその後「お前とじゃねーよ」とも確かに言った。
では今しているこれは何なのかと、橘のチグハグ発言に由宇は混乱に次ぐ混乱で頭が沸騰しそうである。
「………ちょっ、せん、せぇ…やめて、やめてってばぁ…!」
「今さらやめられるわけねーだろ。 由宇は気持ちよくねーの?」
橘は巧みに腰を動かし、由宇のお尻のすぐ下辺りを幾度も擦ってきて、しまいには背中に覆い被さって耳もとで名前を呼んできた。
まるで本当にセックスをしているかのような錯覚に陥り、唐突に名前を呼ばれた照れくささで体を捩る。
「っっ、卑怯だよ! ……っなんでこんな時だけ名前……ッ!?」
「由宇」
「も、もうっ……! やめてよっ、やめて…ッッ」
「ダメだわ、やめてって言われれば言われるほど興奮してくる」
「うぅっ……!! 先生の鬼! …悪魔!」
(これ一体何なんだよ! なんで先生は俺にこんな事すんのっ? なんで今名前呼ぶんだよーっ!?)
こんなにもいやらしい事をしておいて、背後で余裕そうに不敵な笑みを浮かべていると思うと腹が立ってきた。
まだ何も説明を受けていないし、具合が悪いと言っている相手に対してこんな破廉恥な行為をしてくるなんて、戸惑わないはずがなかった。
自分は男で、生徒で、橘も男で、教師だ。
どう考えてもこれは、越えてはならない一線である。
揺れる由宇の肩口を持った橘はさらに腰を早く動かしてきた。
「何とでも。 快楽には逆らえねー。 お前もそうだろ? 由宇」
「やっ…やめてって言ってるだろ! …あっ……」
「……………あー挿れてぇ…………」
「俺に挿れるとこなんかないよ! ……ちょっ、もうっ……離して! 離してよッッ」
橘のセックスしたい欲求を突然ぶつけられた方の身にもなってほしい。
逃げようにも逃げられない拘束力と味わった事のない快楽に、否定的な事を言いつつ由宇も翻弄され始めていた。
「あるんだな、これが。 ソコはまだ待ってやる。 お前の体が出来上がるまで」
「はぁっ!? あっ……何っ? やっ…やっ……」
それはどういう意味なのかと尋ねたところで、きっと教えてもらえない。
越えてはならない一線ではあるが、挿れたいと言われても由宇は女性ではないのだから無理だろと怒鳴りつけてやりたかった。
互いの先走りでぬるぬる感はいっそう増し、橘が腰を動かす度に粘膜の擦れ合ういやらしい音が部屋中に響いている。
橘も興奮しているらしい事が分かっても、動きに合わせて揺れていた由宇は冷静な返しが出来ないでいた。
「声たまんねーな。 そそるからもっと出せよ。 嫌とかやめてとかその辺がいい」
「……あんっ…ッ……ンッ………やっ…!」
「強めが良さそうだから甘噛みしてやろーか? それとも歯型付くくらいいっていい感じ?」
「嫌だってば…!! も、もうっ…ほんとにやめ…、やめて……っ」
「いい。 最高。 こっち向け」
「んッッ……ふ………」
ニヤリと笑った橘に顎を取られ、無理やり振り返る羽目になった。
恥ずかしい声を上げていたせいで半開きだった由宇の唇の隙間から、さっきも味わった橘の舌がにゅるっと侵入してきて瞳を瞬かせる。
由宇の舌を荒く弄った後、フッと唇の端を上げた橘に睨み付けられた。
「ほんとに手錠持ってくりゃ良かった。 お前がそんな反応するから悪りぃんだぞ。 いい反応しやがって」
(ッッ知らないよ! そんな事知らない!)
いい反応をしているつもりなど毛頭無い。
とにかくこれはどういう状況なんだと頭をフル回転させようとしても、背後から押し寄せてくる大人の悦楽をぶつけられてそれどころではなかった。
髪を撫でてくれる手のひらは優しいのに、腰使いは全然優しくない。
由宇の小さな尻と橘の腹部が派手な音を立て始めたかと思えば、動きに強弱を付け始めて背中が震えた。
「やっ……ヤダ! ……あぁッ…せんせ…っ」
こうして「嫌だ」と言えば橘が喜んでしまうと分かっていても、言わずにはいられない。
確かに気持ちいいけれど、同時にずっと由宇の心は動揺に満ちていた。
枕に顔を押し付けて声を押し殺そうとしたが、またも橘に顎を取られて上向かされる。
悪魔の三白眼が由宇を捕らえると動きが止まって、いやらしい音も止んだ。
「こういうエロい事すんのはセンセーとだけにしなさい。 いいな?」
「…何!? 嫌! ……それも嫌っ!」
「なんだと? そこは嫌って言うとこじゃねーよ。 おら、センセーだけですって言え。 言わねーと首に濃ゆーいキスマーク付けんぞ」
「なんでだよ! …っ…んッ…! あ、そこ気持ちいい、…ッ」
眉を顰めた橘がピストンを開始して、言葉の意味を考えようとしていた由宇の不意をつかれてしまう。
互いの亀頭のくぼみがぶつかると、擦られる度にゾワゾワっと全身に快感が走った。
熱を帯びた橘のものがいたずらに下腹部を刺激してくるのに、肩甲骨辺りに何度も口付けてくるからか体中が火照っている。
何も考えられないほど、由宇の頭の中が快楽に染まっていた。
「気持ちいいんだろ? じゃあ言え。 ふーすけセンセーだけだって。 マジで噛むぞ、今でも我慢してんだから」
「嫌だ! 言わない! …あっ…だってせんせ、何も話して…っくれない…!」
「優しくなんか出来ねーって言っただろ。 大体、お前が俺を誘うんじゃん。 何考えてんの?」
「…ッ!? なんで俺が、怒られるんだよっ! 怒りたいのはっ……俺の方だ!」
「あーイきそ。 由宇は? イく?」
(またはぐらかした…!!)
橘は由宇の返事を待たないまま、トロトロと先走りを零す由宇の小さなそれを握って強く扱いた。
それと同時にピストンも早まって、橘の甘い息遣いを背中に感じた瞬間、とうとう由宇の目の前は真っ暗になった。
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