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9一8※

9一8 アラームが鳴り響く。 何度も繰り返し鳴るそれがうるさくて、枕元にあった橘のスマホを取ろうとするが、互いの手足が絡み合っていて身動きが取れない。 悪夢は見なかったけれど息苦しかったのはこのせいだ。 強引に腕を引き抜いて手探りでスマホを手に取り、操作した。 薄目を開けて時刻を確認すると、スヌーズ機能によって六時をとうに過ぎていた。 「わっ!! ヤバッ! 先生起きて! 六時半だ!」 「…………………………」 乱れた浴衣の上から、熟睡している橘の肩をバシバシと叩く。 ん、と小さく返事は返ってくるが起きる気配がない。 橘の寝顔はどれだけ見ていても見飽きないほどに整っているけれど、今は見惚れている暇など無かった。 支度の遅い橘を早く起こさなければ、学校に遅刻してしまう。 「マジで起きろよ!! 平日の先生は日曜とは違うんだろ!」 「……朝からキャンキャン吠えるな。 うるせー…」 「足外して! 起きれない! どうなってんだよ、これ!」 複雑に絡み合う二人の足は、橘が主に力を込めているらしく簡単には振りほどけない。 由宇はジタバタと橘の腕の中でもがいた。 「お前寝起きいーなー」 「なっ……ちょっ…!? 先生! そ、それ、押し付けるなよっっ」 感心したように一本線の瞳がさらに細められ、もがく由宇の太ももに熱々の橘のものを擦り付けられた。 いやらしく腰を動かしてきて、途端に由宇は大人しくなる。 昨日のセックス紛いの行為がまざまざと蘇ってきて、寝起きで頭があまり回らないというのに卒倒しかけた。 心臓がドキドキし始めてしまい、ひとまずこのいやらしい体を離そうと橘の胸を押す。 「朝はしょうがねーだろ。 あー……ヤりてぇ」 「しみじみ呟くな!! 今晩思う存分ハメ外したらいいだろ! ったく……」 「あ? いーの? 思う存分? マジで?」 「好きにしたらいいじゃん! 先生ならよりどりみどりだろっ」 今日の夜の事まで知った事ではない。 由宇には何も説明をくれない事だし、そんなにヤりたいなら橘に言い寄ってくるであろう女性達を相手にしてほしい。 きっと、由宇の想像を遥かに越えるような場数を踏んでいるのだろうから、女性のように挿れる場所のない自分を相手にしても楽しくないはずだ。 優しく出来ない、期待はするな、そんな事を言うわりには、由宇が悪夢を見た後の橘は異常に優しかった。 そのせいで若干の狼狽えはあっても、由宇と橘の間に何かが生まれるとは考えにくく、頭を振る。 背中を撫でてくれた感触が忘れられなくて、それを思い出すとするなと言われた「期待」をしてしまうから、由宇は何気ないフリでベッドを下りた。 溜め息を溢す起き抜けの橘は、目に毒なほど色気がすごい。 「……………バカだな。 お前は超が無限に付くバカ。 いーのかよ、俺が女抱いても」 「いいよ? なんで?」 「フンッ……」 橘が女性とセックスをしようが、由宇には関係ない。 昨日してしまった事は、橘が説明をくれないせで一夜の過ちとして由宇の中で処理するしかないのだ。 まだ心は落ち着かないし、橘を見ているだけで耳まで紅潮してしまうけれどーーー。 「あ、先生!? 俺先にトイレ行かせて!」 ぼんやり突っ立っていたせいで、不機嫌で魔王な橘に先を越された。 急いで追い付くも、無情にもトイレの扉を閉められてしまうが尿意は待ってくれない。 「嫌」 「なんでだよー! も、もう漏れそうなんだってば!」 「そこでしろ」 「ど、どこで!?」 「俺抜くから何分かかるか分かんねー。 じゃあな」 (嘘だろ!? このまま先生を待ってろっていうの!?) 意識し始めるとさらに尿意が増してくる。 トイレの扉を叩いて、必死にお願いしてしまうのも仕方がない。 この歳になって漏らしたくなどなかった。 「一人で抜くならシャワー浴びながらやってよ! うぅ~っマジで漏れるぅぅ…っ」 「うるせーな。 集中できねーだろ。 昨日あんあん言ってたのくれ。 それなら抜ける」 「えっ? うわ、ちょっと…やだ…!! もうしないって…ッ」 扉を少しだけ開けてくれた橘に引きずり込まれて、すぐさまトイレ内の壁に手を付くよう促された。 そして唐突に、また昨日の行為が始まった。 太ももの付け根を橘の熱いものが行ったり来たりしている。 「んな事誰が決めたんだよ。 もうちょい屈んで足閉じろ」 「なんっ、も、離してよ! 嫌だってば! あっ……」 橘の右手が容赦なく由宇のものを握った。 左手は由宇のお尻に添えられていて、動きに合わせて窄ませようとしていたり鷲掴んだり、起き抜けとは思えないほど元気に腰も動いている。 竿同士が擦れ合い、亀頭がぶつかる生々しい感触に尿意も手伝って膝が笑うほど興奮した。 腰を動かしながら、橘が由宇の耳元で囁く。 「俺の事しか考えられなくなるようにすればいんだよな。 答えが出たぜ」 「何っ? なんて…? あっ…も、出るって…! 出るんだって…っ」 「足緩めんな、縛るぞ」 「手、……離して、っ……お願い、苦しい……! 出したいっから……! お願いっ…!」 「あー最高。 もっと言え」 もう解放させてという懇願と、いやらしい行為に対する僅かな後悔に由宇の表情は歪んだ。 気持ちいいのに、早くしないと漏れてしまうのに、橘が由宇のものをぎゅっと握っていてツラい。 (苦しいよぉ…っ、イきたいしっ…! おしっこも、漏れちゃいそうなのに……!!) 我慢のきかない液体が先端からタラタラと溢れてきても、橘はやめてくれなかった。 苦悶の表情を浮かべる由宇の顎を取って唇を奪い、舌を入れて上顎を奥の方まで舐めると離れていき……微笑まれた。 ーーーそれはそれは、魔王のように。

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