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11一2

11一2 謎の暴露会とやらが行われるという水曜の放課後。 いつものように生徒指導室へと向かう足取りは、重いどころではなかった。 行きたくないが、橘の顔は見たい。声を聞きたい。 好きになるなと言うなら、想いは由宇の中に止めておくから、卒業までは傍に居させてほしい。 (……やだやだ。 俺、めちゃくちゃ先生の事好きじゃん…) 昨日も一昨日も、冷たい橘に戻ってしまったので一緒には寝てくれなかったが、今はその方が好都合だった。 とてもじゃないが、抱き枕と称して後ろから抱き締められながら眠るなど無理だ。 平然となんてしていられない。 寝不足になるほど心臓がドキドキして、目が冴えてしまう。 家でもそんな調子で、今や橘に冷たくされる前に由宇の方から距離を取っていた。 今まで味わった事のない緊張と、橘の姿を見るだけで胸が締め付けられてしまうので、この二日は早々とベッドルームに逃げ込んでいる始末だ。 教壇に立つスーツ姿の橘など、好きだと自覚してからは彼の周囲に漫画に描かれているようなキラキラが見えてしまっている。 いけないと分かっているのに恋をしてしまった由宇の心は、ダメだと思うと余計に燃え上がってきている気さえした。 (うわーーんっ!! 先生に会いたいけど会いたくないよぉぉっ) 今日は件の暴露会のために由宇の自宅に行くからと、放課後の個人授業は三十分ほどで切り上げるとメッセージが来ていた。 ならばしなくてもいいと返事を返したのだが既読スルーされているので、由宇は仕方なく生徒指導室へ向かっている。 ゆっくりゆっくり歩を進めていて、「それにしても既読スルームカつく」と独り言を言いながら、自身の乙女思考に苦笑いが止まらない。 その時だった。 「白井由宇くん、今から生徒指導室行くの?」 「…へっ?」 背後から声を掛けられ、慌てて振り返る。 生徒は各々帰宅したり部活へと向かったりしている中で、まさか誰も居ないこの廊下で声を掛けられるとは思ってもみなかった。 振り向くとそこには、由宇と同じくらいの背丈の男子生徒がニコニコして立っていた。 「橘先生のとこ、行くんでしょ?」 「なっ……」 (何っ? この人、なんで知ってるんだ!?) 橘との個人授業の事は、もちろん誰にも話していない。 怜にもまだ打ち明けていないのに、なぜ目の前の少年のような生徒がその事を知っているのかと由宇は目を白黒させた。 生徒指導室、橘先生、このワードが出て来る事自体、何かを悟られているのではと背中に冷や汗が流れる。 「おれ、林田真琴っていうんだ。 二人の仲を知ってしまって、陰ながら見守ってたの」 「二人の仲を、って…!? な、何を言って…!」 「見ちゃったんだよね。 二人がキスしてるとこ」 「………ッッッ!?!?」 (待って待って待って待って待って!! そんな大事な事をなんでこんなサラッと言ってんだ…!?) 林田真琴は、なぜか笑みを絶やさない。 ニコニコしたまま由宇を見詰めていて、思わずその腕を掴んで廊下の隅へと移動する。 興奮して騒ぐ際の由宇の声量と林田真琴の通常時の声量が同じなようで、聞かれては困る事をそんなに大声で話さないでもらいたいとの思いからだ。 しかも、由宇よりも橘の沽券に関わる内容なので、うっかり誰かに聞かれては困る。 「あ、そんな、ヤバッ!って顔しなくていいよ。 おれ誰にも言わないから!」 「ちょちょ、ちょっと待って、俺と先生はそんなんじゃ…!!」 「隠さなくてもいいって。 この目で見ちゃったんだから、言い逃れはできないよ〜?」 「あ、あ、あ、あの…ってか君、誰!?」 「さっき自己紹介したでしょ。 林田真琴。 入学してすぐだったかな〜。 白井由宇くんのぐしゃぐしゃになったプリント、届けたの、おれ」 「あぁ!!!」 どこかで聞き覚えがあると思った。 橘の元へプリントを届けてくれたあの林田真琴が、目の前の元気そのものな少年だとは思いもせず、とりあえずその件のお礼を…と思ったが林田真琴は由宇に話す機会を与えない。 「あれ結局なんだったの? うちのクラスの市川さんが入学早々転校しちゃったのと関係ある? 学校来る度に真っ青な顔してたから絶対なんかあると思ってたんだよね! そしたら急に転校でしょ? 橘先生に問い詰められたのかな〜って思ってたんだ!」 一生懸命、瞳をキラキラさせて話す姿は本当に同学年かというほど幼い。 由宇もそれほど大人びてはいないけれど、林田真琴はそれに輪を掛けて幼く、幼稚だ。

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