109 / 196

11一9

11一9 チョコチップミントのアイスは、ほのかに橘がいつも噛んでいるガムの味がする。 最後に口移しでもらったガムもミント味だったからか、食べているうちにだんだん目頭が熱くなってきて涙が滲んできた。 清涼感が鼻から抜けて目がしみるだけだとさっきから何度も言っているのに、怜はしつこく由宇がうるうるしている理由を聞き出そうとしてくる。 「……ふっ………うっ…」 「由宇? 話してよ。 俺には言えない?」 「うぅっ……っ、しみるだけだってば…!」 「ミントのアイスでそんなしみるはずないじゃん…。 さっき言ってた恋愛相談って、由宇がしてるんじゃないの? 違う?」 「それは違う!」 「ん、…それは? それはって言ったね?」 「えっ……」 アイスクリーム専門店は帰宅途中の女子高生が多く、居るだけで注目を集める怜と一緒にアイスを食べていると、由宇までビシビシ視線を感じる。 そんな中、小さな丸テーブルを挟んだ向こう側で、マスクメロンのアイスをスプーンですくって上品に口へと運ぶ怜の瞳が、きらりと光った。 肩肘を付き、無言で数秒ジッと見てきて居心地が悪く、溢れ出そうだった涙はいつの間にか乾いてしまった。 「どう責めようか。 ……林田くんから恋愛相談受けてるのは事実だけど、実は由宇も相談したい事がある、って受け止めていい? 俺の推測間違ってる?」 「……………………なんで……」 「俺、検事目指してんだよね。 人の目の動き、話し方、言葉尻、観察してる。 由宇の事は特に」 「そっか……怜、検事志望なんだ」 「由宇の事は特にって言ったのはスルー?」 「あっ、スルーってわけじゃないけど…! 怜はほとんど俺としか喋んないから自然とそうなるだろうなって」 「あー…そうなるか。 まぁいいや。 …で? 由宇が相談したい事って何? 最近はご両親も落ち着いてるんでしょ?」 「うっ……! あ、真琴からLINEだっ」 「こら、逃げたね」 怜の優しい尋問により、ポロポロと橘の事を喋ってしまいそうになった。 その時ちょうどポケットの中で振動を感じて、スプーンを咥えたまま慌ててスマホを起動させる。 やはり相手は真琴からであった。 「………あ! 真琴、いま駅前に居るんだって! ちょうどいいから会っちゃおうか!」 「ちょうどいいって何? …あ。 ちょっと、由宇!」 由宇は今、真琴の恋愛相談に乗ってやれるほど余裕がない。 怜が検事志望だと知れば、由宇が黙っていられるのもあと数日な気がして、このまま二人の板挟みはやっていけないと判断した。 自分のと怜のアイスが入ったカップを持って早々と店外へ出て、駅前へと早歩きで向かう。 あれ以上尋問されたら、橘への恋心まで根掘り葉掘り言わされていたかもしれない。 この想いは胸に秘めておくんだと決意しているのだから、出来れば誰にも悟られないうちに気持ちを消化していきたい。 追い掛けてきた怜が由宇に追い付く前に駅前で真琴の姿を発見し、大きな声でその名を呼んだ。 「真琴!」 「お〜! 由〜宇〜! …っヒッッ!? そ、園田怜様!!」 元気に両手をブンブン振ってきた真琴は、由宇の背後に見えた怜の姿に固まってしまった。 満面の笑顔から途端に緊張した面持ちになったのを見て、由宇はようやく真琴の気持ちが本気なのだと知る。 恥ずかしいからまだ紹介しないでと言っていた言葉通り、真琴は目を丸くして、由宇ではなく怜を凝視していた。 「ぷっ、怜様? 俺達あそこでアイス食べてたんだ。 ちょうどいいからもう挨拶しとこ?」 「あ、ああ、あ、挨拶って…っ!!」 「怜、こちら林田真琴くん。 真琴、こちらが怜な」 「…………よろしく」 「…………………よ、よろしく、おね、がいしま、す…!」 「由宇、この人いつもこんなに挙動不審なの?」 「ううん、いつもは元気いっぱいだよ。 テンション上がった時の俺が、いつもの真琴って感じ」 「マジで? それはすごいね。 由宇は橘先生の前じゃないとあんな風にならないもんな」 「あ! 怜様も二人の事をご存知でしたか!!」 「…………え? 二人の事?」 「ま、真琴!!! 俺まだ怜には…!」 由宇の、やめてよ!という悲痛な叫びはすでに怜の耳に入った後で、「あーあ…」である。 こういう小学生のノリのようなところが真琴の難点で、本当に空気が読めない。 由宇は怜の視線を痛いほど感じていたが、真琴が頭を抱えてしゃがみ込んでしまったのでそちらの対応を優先した。 「うわぁ! ごめん! 俺いっつもこんなんなんだよ〜!! ごめ〜ん!!」 「由宇〜? どういう事かなぁ? さっき俺に秘密にしようとしてた事とは別件だったら、さすがに怒るよ〜? 隠し事し過ぎだ…って」 「怜様…っ!! なんと美しい叱り方…!」 「由宇ー?」 真琴の存在はまるで無視な怜に、片手で両方のほっぺたをグイと掴まれて振り向かせられる。 おまけに、視線が合うよう屈まれて僅かな怒りを宿した瞳がスッと細められた。 (も、もう怒ってる…! あの怜が怒ってる……!!) 「〜〜っ分かったよっ。 言うから! で、でも、こんなとこでは話せない!!」 「じゃあ俺ん家行こ。 今日は泊まりな」 「え、え、え、え、由宇、怜様の家に泊まるの!? ダメだよ!!」

ともだちにシェアしよう!