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15一6※
橘の中で、もうプレイらしきものが始まっているのだろうか。
恥ずかしいから見るなと言っているのに、由宇が脱ごうとする様を瞬きもせずジッと見てきて恐怖だった。
視線に耐えながら時間を掛けて制服のスラックスと下着を脱いでしまうと、橘はニヤリと笑ってまた由宇の腕を掴んだ。
羞恥で赤面した由宇を見て、何とも嬉しそうに笑う。
「先生……恥ずかしいんだけど…」
「分かったから洗え」
「……………………」
───これが人にものを頼む態度か。
バスチェアにドカッと腰掛けた橘が、由宇に向かって三白眼を寄越し、「早く」と洗髪を急かす。
(先生に情緒ってもんはないのかよっ)
由宇一人が舞い上がって照れているのがバカらしくなり、無心で頭を洗い終えた。
橘はロン毛だった髪を切ったせいか、とても洗いやすかった。
「荒いな。 明日はもっと優しくやれ」
立ち上がった橘に見下されてドキドキしながら、今日だけではないのかとスポンジを泡立てながら面食らう。
「明日…!? 俺明日も泊まんのっ?」
「手が治るまで看病しろ」
「そんなぁぁっ」
「背中」
「……………はいはい」
ビニール袋が巻かれた左手を前腕ごと壁について背中を向けられ、由宇は背伸びをして、泡立てたスポンジで肩から背中を少しずつ丁寧に擦っていく。
荒い、と言われたので少し気を付けた。
(えーっと………)
腰まで泡が到達し、由宇の動きが止まる。
……問題の下半身はどうするのだろう。
「手止まってんぞ」
「あっ、いや、あの……下は自分で洗ってよ」
「なんで」
「じ、自分で洗えるだろっ」
「スポンジ貸せ」
「あっ…!」
モタモタしていた由宇の手からスポンジを奪った橘は、見事な手付きで自身を洗い始めた。
何の苦もなさそうなそれに、わざわざ不慣れな由宇が駆り出される事は無かったように思う。
(なーんだ。 先生、自分で洗えんじゃん)
あのゾーンを洗うなんて無理なので、自分の事は自分でしてもらおうと由宇は背を向けた。
橘をほったらかした由宇はしゃがんで、読めない英語が書かれた四種類のボトルを見比べる。
さっき橘の髪を洗うために使ったばかりなのに、どれがどれなのかもう忘れた。
(日本語で書いてほしいよなぁ、なんでこんなお洒落なもん使ってんの。 ふーすけ先生のくせにぃ)
橘は「石鹸一つで事足りる」と言いそうなキャラなので、実際に石鹸だけで全身を洗っている姿を想像して吹き出した。
「何か面白い事書いてあんの」
「へっ?」
洗い終えたらしい橘が背後から抱き竦めてきた。
濡れている体を密着させられると、否応なしに心臓がうるさくなる。
ドキドキして持っていたボトルを落としそうになった由宇の耳元で、橘がそれを指差しながらいつもの調子で囁いた。
「それ。 何て書いてあんだ」
「えぇっ? 先生、分からないで使ってたのっ?」
「あぁ。 たまにボディーソープで頭洗ったりとかしてんじゃね。 どれがどれか分かんねーし。 日本語で書けっつーの」
「う、ウケる…! 先生たまにド天然だよな!」
「あぁ?」
「ヒィっ! ごめんなさいっ、そんな恐ろしい顔しないでよ!」
「誰が恐ろしい顔だコラ」
「わっ、やぁっ……っ!」
ちょっと軽口を叩いただけで、橘の右手に由宇の性器を鷲掴まれた。
驚いた拍子にぺたんと浴室の床に尻を付けると、そのまま背後からふにふにと性器を弄ばれてしまう。
「んっ…ちょっ、先生っ…やめ、…!」
「前戯開始」
「……えっ…? き、急に…っ!?」
「性欲は突然やって来る」
「やって来ないって…! あっ、も、…っ…触んない、で……っ」
耳たぶを甘噛みしながら由宇の性器を握る橘は、ひどく楽しげだ。
顔を見なくても彼が今何を考えているか分かる。
これでもかといやらしい行為に酔わせて、由宇を存分に泣かせてやろう。
きっと、そんな意地悪な事を考えているに違いない。
「まだ扱いてねーのにビンビンじゃん。 俺に触られて喜んでんの」
「…っ! い、言わない…でよっ…そんな…! や、やば、いって……先生、…っ」
「お前一回イくと眠くなんだっけ」
「……え、…っ? わ、分かんな……あっ…」
「去年イかせた時すぐ寝ちまったろ。 て事でイくの禁止な」
「えぇぇ…っ! う、嘘……っ、もう…出そ、…なのに…っ」
射精するのが禁止なら、触るのをやめてほしい。
由宇の小ぶりな性器は、橘の長く綺麗な指で挟まれていて、しかもくにくにと動かして明らかに快感を引き出そうとしている。
(こ、これやめてくれたら、我慢出来るのにー……っっ)
「後ろ洗うか」
「んっ、…ちょっ、何…を……え、何っ? なんでそんなとこ…!」
性器への刺激が無くなって、詰めていた息を吐こうとした由宇の後孔に橘の指先が触れた。
触れられた瞬間、ヒッと喉を鳴らす。
何故そんなところを…?
訳が分からない由宇が恐る恐る橘を振り返ると、悪魔は片方の唇の端だけを上げてニヤリと笑った。
「前戯開始っつったろ。 俺も未知だし、まぁ…予習だな」
「よ、予習…? 予習って…だ、だから何でそんなとこ触って……っ!」
予習ならさっき玄関先でしたはずだ。
あの深いキスよりさらに上をいきそうな事態に、由宇の頬はたちまち熱を帯びて心が落ち着かない。
「ここに俺のを挿れるんだよ」
「──────ッッッ!?!?」
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