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 魔王はゆっくり、静かに動いている。  左手はまだ握れないため、右手だけでがっしりと細い腰を掴まれて追い立てられた。  由宇の顔色や歪んだ表情を、少しも見逃すまいと凝視してくるのがやや怖い。  けれど、時折その細められる瞳が欲に濡れている事にドキドキして、背中に回した由宇の腕はいつの間にか橘の首元に移動していた。  緩やかに腰をぶつけてくる橘に、しっかりと抱き留めていてほしくて自らキスをねだったりもした。  かなり強めな橘の舌の猛攻は、由宇の狭い腹部に収まる熱をうやむやにしてくれるのだ。  口腔粘膜の刺激によって、ほんの少しだけだが熱過ぎる下腹部の摩擦も気持ちいいと思えるようになった。  ただ、自分から橘の方へ顔を寄せていくのはあり得ないほど恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。 「………っっ、……っ、っ…っ」 (どうしよ…っ、声、出なくなってきた…)  頬が火照り、全身が熱に浮かされたような状態がしばらく続いているからか、頭がボーっとして視界が歪んでいる。  動き続ける橘に揺さぶられて、意図せずとも体はゆるゆるとシーツの上を泳いだ。  なぜ、橘にしがみついて緩やかに揺れているだけなのにこんなにも息が上がるのだろうと、その理由が由宇には分からなかった。  快感を覚えたての体が、すぐにセックスの快感を知るのは不可能だ。  腹部の圧迫感と後孔の熱、押し拡げられてズルズルと擦れる内襞、大きな掌で素肌を撫で回されるいやらしくも心地良い感触……。  どれもこれも一つ一つが衝撃的で、それらが一気に襲ってくるので目が回りそうなのである。  声を我慢したいたわけではない。  橘から受け止めている諸々の情報と、神経を丸ごと持って行かれる現状の熱があまりに膨大で、処理に追い付けない由宇は瞳を閉じて逞しい体に縋るしかなかった。 「……おい、寝るなよ」 「っ? ねて、ない、…よっ……」   「意識飛ぶ寸前だったろーが」 「う、うそ…っ、寝てない…もん…っ」 「初めて繋がってんだから最後まで頑張れよ。 どこ噛んでほしい?」 「え、っ? か、噛まないで、ほしい…!」  目前の魔王は由宇の心境などそっちのけで、やたらと色気を振りまいて楽しげである。  何も考えられなくなるほど頭がぼんやりとはしているけれど、意識を失くしたりはしない。  おまけに、噛んでほしいわけでもない。 「嘘つけ。 足りねーんだろ? 遠慮しないで言えよ」  一度動きを止めた橘は、両眼を細めて片方の唇の端だけを上げる、いつもの意地悪な笑顔で由宇を射抜いたせいで、心臓が跳ね上がった。  苦手だった三白眼とこの下手くそな笑顔が、今や可憐な乙女のように由宇の頬を染める材料となる。 「遠慮なんか、して、ない…っ! 俺を、Mにするの、…っやめろ…ん!」  見詰められるとドキドキして顔を背けても、すぐに顎を取られて強引な舌がやってくる。  強くて弾力のある塊は、縮こまって引っ込んだ由宇の舌などお構いなしに口腔内を目一杯動き回った。  うまく呼吸の出来ない、鼻から抜ける由宇の甘い吐息が皮肉にも橘の熱をさらに上昇させてしまう。 「いやっ…噛むの、やめ、やめて…っ。 …んんんっ……んんっ…!」  中断していたピストンを再開させ、由宇の上唇を甘噛みした橘は胸元に痣紛いのキスマークを付けた。  それだけではない。  キスマークを付けているのかと思えば、柔らかい部分を本気で噛まれもした。  橘の唇が離れても、二の腕や脇腹がピリピリしたので恐らくそういう事だ。 (い、痛っ……いた、い…! でも、…っなんで…っ? なんで、嫌だーって、思わないんだろ…)  体を上下に揺さぶられながら乳首を甘く噛まれると、直接神経にビリビリと電気が伝わる。  浮いたお尻が震え、橘にしがみついた腕にも一瞬で力が入らなくなった。  それは危うく、「もっと強くでもいい」と口走ってしまうほどたまらない刺激だ。 「気持ちいいのは分かったから締めんなよ。 ただでさえキツいってのに」 「んんっ? …っ……っっ……」 「お前はM決定だな」 「……! …ぁっ……ぅぅっ…や、いやっ…」  痛みによる痺れから止まらない涙が、動きに沿ってこめかみへと流れる。  快感をまざまざと感じ始めた由宇の唇に、血混じりの橘の唇が合わさってソッと離れていった。 「気持ちいいか?」 「ん……っ…っ…わかんな、…っ…」 「今はそれでいい。 俺がお前に合わせてやるから何も心配するな」 「……っ? な、に……ぁぁっ」 「いきなりガツガツはやんねーって事。 我慢してやるよ。 自分の事なんか後回しでいいと思えるくらい、お前のことが可愛いからな」 「ほ、んと……っ? ふーすけ、せんせ…っ」  可愛いと言われた事も、マイペースで俺様な魔王が「自分の事なんか二の次」だと言ってくれた事も、素直に嬉しかった。  腰を打ち付けてくる激しさに負けじと、由宇も橘の背中に腕を回して離れまいとしがみつく。  俺様でも魔王でもいい。  たとえどんなに意地悪されても、橘になら何をされても──。 「ちょっ……お前、それはねーだろ」 「えっ? …待って、待って、っ早い……ってばぁ……!」 「お前がそんな呼び方するのが悪い」 「やっ、やっ……だめ、いく、いっちゃうぅぅ…っ」 「おら、いけよ。 我慢してた分、全部吐き出せ」  素早く腰を打たれ、涙を零し続けてぬるぬるになった中心部を扱かれると頭が真っ白になった。  熱い。 擦られている中だけではなく、体全体が熱くて熱くて、ついに壊れてしまうかもしれない恐怖に背中が戦慄く。  何故いきなりイラつかれているのか分からなかったが、これはもうラストスパートをかけているのだと分かると、由宇は脳内を空っぽにして橘の肩口に唇を押し付け、…小さく喉の奥で呻いた。 「んんん────っっ」

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