171 / 196

18一1

 ───全部が熱い。  熱いし、暑いし、橘がのしかかってきてるせいで息苦しいし、退けたくても指先すら動かしたくないほど何もかもが億劫だった。 「寝てもいいぞ」  荒く呼吸を吐きながら天井を眺めていると、耳元に口付けてきた橘がそう囁いた。 「………寝たい。 すんごい、寝たいんだけど、…先生が中にいたら、眠れない」 「気持ちいい…出たくねぇ」 「んんっ…! ちょっ、今日はもう、…っ」 「分かってる。 ………お前ん中ヤバ過ぎるから出たくねぇだけ」  そんな事を言いながら、腰を動かしている橘は再戦を望んでいるのかもしれないが、今の一回で由宇はヘトヘトを通り越してグッタリしていた。  奥をツン、とされて感じたとしても、もう足を上げられない。  腰も、背中も、橘の打ち付けに耐えられる気がしない。  これ以上さっきの激しいセックスを強いられると、いよいよ酸素缶を欲する事態になる。  今でさえまだ呼吸が整わない。  そんなに何時間も交わっていたわけではないし、橘もはじめはかなり加減して動いてくれていた。  本当はもっと、橘が望むだけ受け止めていたかったのだ。  文句を言っている由宇も、求めてくれる熱量や橘の色気ムンムンな瞳に見詰められる事に喜びを感じていて、これで終わりだなんて言うつもりはなかった。  けれど、尋常ではないほどの疲労感に、今の由宇には、泣きそうな顔で橘を見る事しか出来ない。 「先生……っ、苦しい…」 「落ち着いてゆっくり深呼吸しろ。 …お前マジでスタミナねーんだな。 体育祭までまだ半年近くあるし、特訓しような」 「え、……特訓……っ?」 「あぁ。 セックス一回でこれじゃいきなり走るのは無理だろ。 はぁはぁ言ってんの可愛いんだけどな、ちょっと体力なさ過ぎ」 「だからこんな、きついの…? ね、先生……特訓すれば、もっと先生と、……できるように、なる…?」  もう終わり?と残念がられたら嫌だなと思っていたのに、橘は意外や意外、とても優しく由宇の背中を撫でてくれた。  特訓すれば…という事は、橘がその「特訓」を指導してくれるのだろうか。 (先生優しい……こういうとこ好きだな…)  体力が無いのは自分でも自覚はあった。  約三年も運動とは無縁だった…と言いつつ自分から遠ざかっていたため、今日も教室から生徒指導室までのあの短距離でさえ息が上がった。 (そっか、…体力付ければ問題ないのかな)  橘ともっと長く交わっていたい。  痛くて苦しくて気持ちいいセックスというものを、もう少し余裕を持って楽しめたらいいのに。  初めてだからといって感じなかったわけではない。  もちろん戸惑いの方が大きかったのは事実だけれど、橘が意地悪で優しくて、視線や体温、触れ合った汗ばんだ肌にもずっとキュンキュンしていた。  橘が気持ちいいと言うなら、ずっと中にいてくれたっていいとすら思う。 「おいそれ……お前な………」 「やっ、なに…っ? ま、また大っきく…!」 「できるようになるか、じゃなくて、できるようになれよ。 俺まだまだ足らねーの分かんだろ」 「うっ! …が、がんばる!」  橘は苦々しい表情で由宇の腰を持つと、強度を取り戻したそれで一度グイっと深く貫き、じわじわと抜いた。  ベッド脇に腰掛けてコンドームを外している広い背中を見詰めた由宇は、そっと腕を伸ばす。  離れてしまった体温がもう恋しい。 (そんなの後回しでいいから、早くぎゅってして…)  橘の背中に指先が触れる寸前、大きく深く溜め息を吐いたのが聞こえてピタリと動きを止める。  ───溜め息は苦手だ。 「ったく…。 無意識に可愛いって何だよ。 突然煽んな、アホポメ」 (あおんな、? あおんなって何…?)  振り返って三白眼で睨んできた橘は、由宇が伸ばしていた腕を取って強く引っ張り上げ、自身の足の上に乗せた。 「わわっ…先生、汚れるよ! 俺ベトベトで、その…汚い、から…」 「汚くねーよ。 俺とお前の愛の証だろ」 「え……」 「うわ、俺キモい。 愛の証とか」 「キ、キモくないよ! 嬉しい…先生、……嬉しい…っ。 ………好き」  照れたようにそっぽを向いた橘に、勢い良く抱きついた由宇も照れていた。  橘がさり気なく「愛」という言葉を使ってくれて、心が落ち着かなくなる。  ドキドキした。  決して告白ではないにしろ、橘は由宇に「愛」を持って接してくれていると、今の言葉とこの照れた表情が証明してくれた。 (意地悪な先生……告白の前にそんな事言うんだもん…!)  それが橘という男だと、由宇はもう知っている。  抱きついた由宇の髪を撫でる橘の熱過ぎる体温が愛おしくてたまらない。  好き。 好き。 好き。  一回だけでは、言い足りなかった。 「俺は言わねーからな」 「分かってるよっ。 でも先生の「愛」はすごーく伝わった! ふーすけ先生、好き!」 「やめろ、俺を揶揄うな」 「好き!」 「やめろって」 (せ、先生が照れてる……! ほっぺた真っ赤だ!)  由宇が「好き」と告白する度に、橘は頬を染めて由宇から顔を離す。  綺麗な鼻筋に見惚れてしまいそうになるけれど、どうしても頬の赤味に目がいくのはしょうがないと思うのだ。

ともだちにシェアしよう!