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第1話

 赤い色打掛を着たアザミが張見世(はりみせ)に現れると、なるほど、大輪の紅花が咲いたようで、視線を奪われた。  しかし、西園寺にとっては、道端に咲いているような控えめな可愛らしさのあるマツバツバキの方が魅力的に思え、無意識に目がそちらを向こうとする。  格子の向こうの、アザミと同じ空間に、ひっそりとマツバも佇んでいたのだった。  こころ細そうな、どこか縋るような眼差しを向けてくるマツバに、気を取られそうになって……、西園寺はそれを意志のちからで抑え込み、アザミが格子から出てくるのを待った。  西園寺がここ『淫花廓(いんかかく)』に通い詰めていることをどこからかキャッチした政財界の某大臣が、 「あの淫花廓に通っていながら、ひとりの男娼しか味わってないなんてナンセンスだ」  と訳のわからない価値観を押し付け、さらには恩着せがましい口調で西園寺へと笑いながら一方的に告げてきた。 「あすこでも指折りの男娼に、私が予約を入れておいてやろう。せっかくだ。たまには豪華なメインディッシュを味わってきたまえ」  なにがメインディッシュだ、マツバが前菜とでも言いたいのか、と西園寺は苦々しく思ったが、面の皮の厚さには自信がある。  ニッコリと笑って、頭を下げた。 「大臣のご厚意に感謝いたします」  さて、そうしたわけで今晩の相手は大臣を以って指折りと言わしめたその男娼、アザミなのであるが……。  畳敷きの和室に用意された褥に、しなやかに座ったアザミが、抜き襟のうなじを艶やかに見せつけるようにして、西園寺へとお辞儀をする。 「可愛がってくださいませ、西園寺様」  細い指先や、目の伏せ方、そして艶めかしく動く口元のホクロ。  アザミの動作のすべてに性的な匂いを感じて、西園寺はマツバとのあまりの違いに驚嘆する思いだった。 「きみはまた……ずいぶんとマツバとは雰囲気が違うな」  西園寺がアザミと向かい合って胡坐をかくと、アザミの唇が笑みの形になった。 「ふふ……マツバ、ね。西園寺様は、マツバのようなのがお好みですか?」 「俺は男娼はマツバしか知らないからな。ああいうのが普通だと思っていた」 「。なるほど。初心(うぶ)で、控えめにみえる()、ですね。西園寺様がお望みなら、アザミも、そのように」  西園寺は眉を顰めた。なにか、不愉快な言葉を聞いた気分になった。  アザミの言い方ではまるで。  マツバが西園寺の好みに沿うよう、初心で控えめな振る舞いをようではないか。 「マツバが抱きたければマツバを指名する。今日はきみが、俺を満足させてくれるんだろう?」  低い声でそう問うと、アザミが艶然と笑った。  しゅる……と帯をほどき、打掛を肩から落とすと、襦袢の前を開き、白い両膝を立ててM字に開脚する。  アザミは、下着を着けていなかった。  無毛の性器の、さらに奥まった秘部を、指で開き。 「それでは、アザミの孔で愉しんでください」  美貌の男娼が、西園寺を誘った。

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