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口紅-4

三人一緒に下校するのは、久しぶりだった。 僕を真ん中にし、三人肩を並べて歩く。 あの時二人は、僕を捜していたのだという…… でもナツオ、どうして…… 僕なんか、邪魔なんじゃないの……? 「……知らなかった。オレ、さくらが……」 「ナツオ!」 僕の左側にいる舞は、僕の反対側にいるナツオに睨みつける。 とほぼ同時に、指をそっと絡め僕の手を握った。ビクッと指が反応し、手を引っ込めようとしたけど………今は、そんな気力もない…… 「………」 口紅は、舞が持っていた洗顔フォームですぐに落とした。けど、唇にまだ残る、違和感…… それは単に、化粧品の顔料だけじゃなくて…… 俯いたまま、右手でそっと唇に触れる。 「ナツオには解んないの?……さくらくんの気持ち」 「……ハァ?!解るわけねーだろ」 即答するナツオを見上げれば、ナツオは僕の存在を通り越して、舞だけを見ていた。 「………」 あからさまな拒絶。冷ややかな目。 多分、口紅を塗った姿を見られた事よりも……苦しい…… ……解ってる。解ってるから……ナツオ…… 目を伏せ、視界から二人の姿も気配も消す。 「私は解るよ。……私が、ナツオだったら良かったのに……」 僕の手を握る舞の手に、力が籠もる。 「なんだよソレ……意味わかんねぇよ」 「……バカ、鈍感!」 「はぁ?」 「さくらくんが、今までどんな気持ちでいたか……ナツオは考えた事ある?」 「……って、舞はどうなんだよ!……オレの気持ち知ってんだろ?!」 舞の剣幕に、ナツオの眉尻が吊り上がり眉間に皺が寄る。そんなナツオの態度に、舞が大きな深い溜め息をついた。 「……ナツオはどうして私なの? どうして、さくらくん……じゃないの?」 真剣な眼差しのまま、舞が言い放つ。 「……え?」 驚いたような、ナツオの声。 拒絶とも偏見とも取れない、何とも他人事の様な、軽い口調…… 「……え……マジ、かよ」 だけど、直ぐに理解される。 拒絶の響き。視線。 ……希望なんて、これっぽっちもない…… 「……もぅ、やめてよっ!」 顔を伏せたまま、叫んだ。 ……おしまいだ…… ナツオに知られてしまった…… ……僕の……三人の、何もかもが………崩れていく…… 「……酷いよ舞……どうしてナツオに言っちゃうんだよ……!」 僕の中で、何かが音を立てて壊れた…… それは多分、この奇妙な関係も。 「………」 堪えきれず、僕は走り出した。 決して交わらないこの一方通行の関係から、逃げ出すかの様に…… 【一部完】

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