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口紅-3
……早く、家に帰りたい……
惨めな気持ちのまま、ドアを開け廊下に飛び出す。
込み上げてくる涙を堪えるも、胸に広がる虚無感は、どうやっても拭えない。
このまま誰とも会わず、一人部屋に閉じ籠もり、傷付いた心を慰めたい……
あんな事、早く忘れてしまいたい……
……そう、思っていた……のに……
「さくらくんっ!」
目の前に現れたのは、舞。
それに……ナツオ。
並んで歩いていた二人が、僕に気付いてこちらへと駆け寄ってくる。
どうして……一緒に……
……どうして……ここに……?
傷付いた心が、更に深く深く抉られる。
「……さくら、ソレ」
ナツオが自身の唇を指差した後、その指先を僕に向ける。
……口紅
ハッとし、両手で口元を覆う。
……み、見られた……
ナツオにだけは……知られたくなかったのに……
「ちょっとアンタ、さくらくんに何したのよ!」
呆然と立ち尽くした僕の背後に視線を向け、腰に手を当てた舞が叫ぶ。
それに驚いて振り返れば、トイレから現れた山本がこちらを見ていた。
僕達三人の様子を傍観するように……
「………」
僕を捕らえる、山本の瞳。
威嚇する様な鋭い目……だけど憂いを奥に孕みながらも、なんの温もりのない、冷めた瞳……
瞬間、体がガクガクと震える。
それから逃れる様に、僕は背を向けた。
それに気付いた舞が僕の傍らに立ち、腕を組んで山本を睨みつける。
僕は自分自身を抱き締めるものの、震えは止まらなくて……
「オイ、大丈夫かよ」
膝から崩れ床にぺたんとお尻をついた僕に、ナツオが声を掛ける。
「……立てるか?」
そして、伸ばされた手………
「……ゃ、めて……っ!」
僕は言葉でそれを振り払った。
「僕に、触らないで……」
背中を丸め、全てから拒絶するように小さく踞る。
「……僕は、汚い……から……」
物欲しげで、寂しくて……
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