11 / 14

口紅-2

顎先を掴まれ、グイッと持ち上げられる。そして目が合った瞬間、山本の唇が迫った。 「………っ!」 突然落とされた、キス。 酷く荒っぽくて……強引で…… 「……ゃ……」 恐怖と不安と羞恥が入り交じり、ぐちゃぐちゃになった感情が一気に押し寄せる。 ……もう……何が何だか解らない…… 思考がついていかないまま……山本の舌先が、僕の唇を割り、僕の咥内に侵入しようとした。 瞬間、現実が僕を襲う。 「……ぃ……いゃ……っ、」 やっとの思いで顎を引き逃れる。そして掴まれていない方の手で、山本の肩先をドンッと叩いた。 しかし、すぐにその手も掴まれ、僕の自由は簡単に奪われてしまった…… 「……前から気付いてんだよ……お前がそういう人間なのも、杉浦の事を密かに想ってんのもな……」 ……どう、して…… 何で山本が…… 「俺にしとけよ、工藤。俺ならお前の事……」 両腕を拘束したまま、山本が僕に真っ直ぐ瞳を向ける。先程とは違い、ゆっくりと山本の顔が近付く。 「………」 抵抗はしなかった。でも、視線を逸らしすぐに顔も背け、拒絶の意志を見せる。 すると山本は、僕の背を壁にドンッと叩きつけた。そして掴んだままの僕の腕を、左右に割り開く。 「……杉浦に……黙ってて欲しかったら、言う事聞けよ」 それは、紛れもなく……脅し…… 両手を壁に縫い付けられ、山本の唇が再び僕の唇に迫った。 「……ゃ、めて……っ、!」 悲鳴に近い、大きな声…… それに驚いた山本の動きが、寸前で止まる。 「………」 驚いたのは、僕もだった…… あんなに大きな声を出した事なんかなくて……乱れた息も、心臓も……なかなか落ち着いてくれない…… 「………」 山本の手が、外される。 掴まれていた所が、痛い…… でもそれ以上に、ファーストキスをこんな形で奪われてしまった事も 僕がナツオを好きだと知られ、脅された事も……辛くて……苦しくて…… 胸が、痛い…… 手首に手を添え、唇をきゅっと噛む。 そして顔を伏せたままの僕は、山本に背を向け、その場から逃げた。

ともだちにシェアしよう!