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口紅-2
顎先を掴まれ、グイッと持ち上げられる。そして目が合った瞬間、山本の唇が迫った。
「………っ!」
突然落とされた、キス。
酷く荒っぽくて……強引で……
「……ゃ……」
恐怖と不安と羞恥が入り交じり、ぐちゃぐちゃになった感情が一気に押し寄せる。
……もう……何が何だか解らない……
思考がついていかないまま……山本の舌先が、僕の唇を割り、僕の咥内に侵入しようとした。
瞬間、現実が僕を襲う。
「……ぃ……いゃ……っ、」
やっとの思いで顎を引き逃れる。そして掴まれていない方の手で、山本の肩先をドンッと叩いた。
しかし、すぐにその手も掴まれ、僕の自由は簡単に奪われてしまった……
「……前から気付いてんだよ……お前がそういう人間なのも、杉浦の事を密かに想ってんのもな……」
……どう、して……
何で山本が……
「俺にしとけよ、工藤。俺ならお前の事……」
両腕を拘束したまま、山本が僕に真っ直ぐ瞳を向ける。先程とは違い、ゆっくりと山本の顔が近付く。
「………」
抵抗はしなかった。でも、視線を逸らしすぐに顔も背け、拒絶の意志を見せる。
すると山本は、僕の背を壁にドンッと叩きつけた。そして掴んだままの僕の腕を、左右に割り開く。
「……杉浦に……黙ってて欲しかったら、言う事聞けよ」
それは、紛れもなく……脅し……
両手を壁に縫い付けられ、山本の唇が再び僕の唇に迫った。
「……ゃ、めて……っ、!」
悲鳴に近い、大きな声……
それに驚いた山本の動きが、寸前で止まる。
「………」
驚いたのは、僕もだった……
あんなに大きな声を出した事なんかなくて……乱れた息も、心臓も……なかなか落ち着いてくれない……
「………」
山本の手が、外される。
掴まれていた所が、痛い……
でもそれ以上に、ファーストキスをこんな形で奪われてしまった事も
僕がナツオを好きだと知られ、脅された事も……辛くて……苦しくて……
胸が、痛い……
手首に手を添え、唇をきゅっと噛む。
そして顔を伏せたままの僕は、山本に背を向け、その場から逃げた。
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