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この状況で来なさいと言われて、ハイ分かりましたと従える人なんているのだろうか。 固まったまま動けない直人にしびれを切らしたように、伊織が左腕を引っ張る。 「うぁっ」 隣に座っていた直人はアッサリと伊織の膝に乗せられてしまう。咄嗟に逃げようと手足をバタつかせると、パチンと服の上から一つお尻を叩かれた。痛みは無い。しかし、あの温厚な叔父から手を挙げられるという衝撃は、直人の抵抗を止めるには充分だった。 怖い 怖い 怖い 直人の望み通りと言えば、その通りのシチュエーション。にも関わらず、予期していたような気持ちの高揚は一片も無かった。 好きな人を怒らせた。その事実が只々心を抉る。 「少し腰を浮かせて」 肩を震わせ沈黙する直人を気にする様子も無く、伊織は淡々と指示を出す。声色も冷たい事に気づ付き、益々恐怖する直人はその指示の意味を咀嚼出来ないまま、腰を浮かせた。 伊織の手がウエストに触れ、ハッと我に返る。 「っパンツは嫌!」 スウェットを下げようとする伊織の手を慌てて上から抑えつける。こんなシチュエーションで好きな人に下着姿を見られるなんて、耐えられない。死んだほうがマシだとさえ思う。 「そう」 必死な直人の言葉は、拍子抜けするほどあっさりと受け入れられた。と、思われホッと手を緩めた瞬間、伊織が勢いよく下着ごとスウェットを膝まで下げた。 晒された素肌が部屋の冷気に当てられるのを感じ、直人は呆然とする。パンツは確かに見られないかもしれないけど、そういう問題じゃない。慌ててズボンを直そうと手を膝にやると、先程よりも更に冷たい声が降ってくる。 「罰し方を決めるのは、直人じゃないだろう」 抵抗しても良いけどその分罰は増えるよ、と続けて言われれば、手を下ろすしかない。直人が抵抗を諦めたことを察した伊織は、淡々と罰の開始を宣告する。 「とりあえず、5ダース」 パンッという高い音が静かなリビングに響く。 「いっ」 混乱した頭に突如伝達された臀部への軽い痛み、というか衝撃。 一瞬遅れてお尻を叩かれたのだと実感した。布越しの一打とは比べものにならない強さに思わず呻き声が漏れる。いつもの伊織ならば、直人が悲鳴を上げれば何事かと駆けつけ、心配そうに声をかけてくれるが、今は悲鳴の原因が伊織だ。当然のように呻き声は無視され、次の一打が振り下ろされる。 「……っ!」 次々に降ってくる平手の嵐に、直人はただ歯を食いしばって耐えるしかない。しかし、それも20、30打続けば容易では無くなってくる。 「っああああ」 なんとか声を上げないよう耐えていたが、今まで手を出されていなかった太腿とお尻の境目に平手が飛ぶや否や、悲鳴が漏れた。しかも、次の一打も同じ場所。お尻の頭頂部に比べて明らかに脂肪が少ないその場所は、他の場所を打たれるよりも痛みが強い。伊織にしてみれば、他の部分は何回も打たれ赤く腫れ始めている為、新たなその場所を打擲しているに過ぎないが、打たれている側はたまったものではない。 「ちょっと待っ」 3打目も同じ場所へ振り下ろされ、堪らず顔の前で握っていた拳を後ろに回し、そこを隠す。 「なに。まだ半分しか終わって無いよ」 まだ半分。その言葉にくらりと目眩を覚えた。 「そこ…痛い」 「痛くしているんだから当然だろう。というか、他は痛く無いんだね」 パシンとまた、躊躇なく「そこ」に平手を振り下ろされる。 もう嫌だ。いつもの伊織さんと全然違う。分かっている筈なのに。気遣ってくれる気配が微塵もない。自分にはもはや気遣う価値も無い、ということなのか。 臀部の痛みは勿論だが、その事が無性に辛くて、とうとう直人の瞳から涙が零れ落ちた。

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