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宣告

「ところで、僕は直人の趣好を責めるつもりは全く無いけれど、今回やった事に関しては凄く怒っているんだ」 「え?」 「当然だろう?見ず知らずの人に1人で会うだなんて、無用心にも程がある。怪しげな男に絡まれていたのが直人だと気づいた時は心臓が止まるかと思った」 「それは……ごめん、なさい」 危ない事をしている自覚はあったのだから、それについては謝るしかない。 「うん、素直に謝れて偉いね。でもね、直人。今回ばかりは謝罪されるのは違う気がするし、反省もうんとするべきだと思うんだ」 「え……」 そんな事は無い。 こんな事になって、伊織さんには迷惑かけて悪かったと思っているし、見ず知らずの人といきなり二人で会うのも無用心だったと反省している。 「不満そうな顔だね。でも、直人が今しているのは反省じゃなくて後悔だろう?」 あ。 「後悔」というワードに不覚にも納得してしまって、目をしばたかせる。 それを見た伊織はため息をついて膝をポン、と一つ叩いた。 「膝においで。今日は少し罰を与えようと思うから」 「バツ……?」 状況と伊織の言葉を省みれば、おのずと頭に浮かぶものは確かにある。 けど、それは…… ドクドクと心臓が煩く音をたてる。 小説でも、チャットでも、妄想の中でも、何度も恋い焦がれたその状況。 「直人は知っているだろう?悪い子のお尻はどうあるべきか」 叱られたい、お仕置きされたい、、 子供のように、お尻を叩かれたい。 でもそれは、所詮想像の域を超えない。 斎藤さんとのチャットプレイは厳密に言えば現実なのだが、直人にとってその行為は妄想と何ら変わりの無い虚構の世界だった。 生きている生身の人間とプレイしているという実感は、正直画面越しでは得られない。 だからこそ、プライドの高い直人でも足を踏み出す事が出来たのだ。 ……そう、直人はプライドが高い。 伊織は悪い子を演じられないと言ったが、その最たる要因は、良心の呵責に耐えきれなかった事では無く_____勿論その理由も間違いでは無いのだが_____周りから落ちこぼれや不良だと思われる事を直人のプライドが許さかった事にある。 「ほら、悪い子の直人はこれからどうされるの?」 だから、どれだけその行為に憧れを抱いていようとも、こんな風に現実で、自分をよく知っている人に辱しめられる行為は直人には受け入れられない。 「やだ……」 俯いたまま、顔を横にフルフルと振った。 優しい伊織さんの事だ。きっとチャットに俺が叩かれてみたいと書き込んでいたのを読んで、俺の理想のSになってあげようと無理して言っただけだろう。だから、自分が否定すればそんな事はしない筈。 「嫌とか関係無い。これはしてしまった事への罰だよ。君に拒否権は無い」 「え……」 そう踏んでいた直人の予想を裏切り、伊織は演技を続けた。 「伊織さ、そんな、無理してくれなくても……」 「無理?何の事?」 「っ!」 本当に意味が分からないと言うような声音に驚いて、つい顔を上げると、そこには真剣過ぎる伊織の顔があった。 ヒュッと息を呑み込んだ直人に、伊織が再度膝を叩いた。 「膝に来なさい。本当に反省出来るまで、お尻が真っ赤になっても叩いてあげる」

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