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(6)左往右往
「なんで付き合ってんの?」
「ングッッ」
口に含んでいた物を思わず吹き出しかけたがなんとか持ちこたえた。
頭を青くそめた葵という男は会話に主語やらなんやらを毎回忘れてくるので度々このような事故が起こる。知っていてもなかなか対応ができない。
「な、何が」
「右近だっけ?そいつに付き合ってるんだろ」
「ま、て待て待て勉強の話だよな?」
「うん」
「色々教えてあげてるんでしょ?」
「製図とか英語とかな!」
「うん」
「うんじゃねえよオイ…」
「大変だ左右田!」
「あ?!」
「赤髪の染料が顔に」
「赤面してんd、何言わせんだボケ!」
「はははは」
こういうくだらない軽口もよく飛ばす男でもある。
浪人と留年を繰り返しもうすぐ三十路なのにも関わらず二個下の左右田とマブでタメなのは彼のそういう性格があってだろう。
「右近クン?だってキミに顔パンするような子だろ。そもさん隣に住み続けてること自体理解できないなー」
俺だったら即引っ越す、と葵は肩をすくめた。もっともな意見だ。
子供の喧嘩ではなく少なくとも成人している男どうしの喧嘩だ。警察を読んでも呼ばれてもおかしくはない。
というか、下宿の大家にも何度も部屋かえないかということは言われていた。
しかし誘いの数だけ断ってきた。
ルーズで喧嘩早い年上と生真面目で細かい年下。
合うはずがない。
って、大家に思われてんだろーな
左右田はそう思いながら今朝つけられた青あざを撫でた。
それも嬉しそうに。
実害をもらってるのは左右田だけだと他の奴らもおもってるだろうが
実はひっそりとだがいくつか反撃の術がある。
倍で戻されるが。
この痣エトセトラは今朝戻された分だった。
といっても力では到底かなわないので地味な嫌がらせしかできない。
例えば昨日うっかり右近が買い置きしていた牛乳(ちょっと高価)を飲んでしまいその現場を持ち主に目撃された際にあまり反論しなかったのにがっつり蹴りを腹に受けた。
少し理不尽に感じたので夜になって反撃を開始した。
その反撃というのが、
右近の部屋と自分の部屋を隔てる壁にスマホを直あてしてAVを流すという嫌がらせだ。
壁が薄いので音量が低くても伝わるので他の部屋に害は出ない。右近だけ狙い撃ちできるのでこの方法は重宝している。
この嫌がらせは次の日顔を合わせるまでがセットで、毎回顔を真っ赤にして泣きそうな顔になるところを見るのが目的だ。すると不思議と気持ちがすっとするし次のシーンで顔面にこぶしをもらっても腹が立つことがない。
他にも同じような方法がいくつかあるし、なんならそれをするために隣に住み続けているといっても過言ではない。
左右田は今の部屋にとても満足している。
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