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3-49 失くせるもの

官能小説家を、辞めよう。 ナナメはいつもの仕事部屋を見回して、静かにそう思った。 「……よし。」 生きている中で命よりも大切なものなんて数えるほどだ。 自分の存在が軽すぎて、随分と大切だと思い込んでいたものが増えてしまったみたいだ。 ゴミ袋にそんなものを詰め込んで、血と汗が滲んでいるようなものもまとめて紐で縛って 全部、全部、全部。 ここ十数年間のほとんど全てといってもいいその部屋をなるべく空にしていった。 本当は全部燃やしたかったが、業者を呼んで持って行ってもらった。 すかすかの本棚に、自分のわずかな私物とパソコンだけ残った部屋は引っ越したてのようになってしまった。 「…さよなら……」 部屋の真ん中で頽れて、ぱたぱたと涙が伝っていく。 これでいい、これでよかったんだ。 俺にはヨコさんがいてくれて、 きっと官能小説家じゃなくなっても、構ってくれる人たちがいる。 多分、そのはずだから。 そのはず、だよね? 「……っ、……」 床に突っ伏して静かに泣きながら、 ありえない喪失感に溺れそうだった。 たった一つ手放しただけで、こんなにも何にもなくなってしまう俺は 一体どうなってしまうんでしょうか。 躓く度に一緒に苦しんでくれるあなたのそばで、 これからどうやって傷付けず、生きていったらいいんでしょう。 俺は、あなたを好きでいてもいいんでしょうか。 ………Next

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