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第2話 名ばかり王子は強制労働
ファリスは久々に酒を飲んで叫びながら
城の屋根を走り回り
見張り用の塔に登って最上階の部屋に立てこもった。
「っっっっざけんなくそじじいボケがァァァァ!!!」
大声で叫んだ。
国中に響き渡りそうな程の音量であったが、
その部屋は完全防音室であり、
見張りの塔のはずが滅多に人は来ないので誰にも聞かれることはない。
この国では王子とは名ばかりで国民以上に虐げられているファリスは
自然と人の寄り付かない場所や
誰にも知られない場所を選びぶちまける術を身につけていた。
「もうええ死んでやる死んでやるぞドチクショウめ」
ファリスは沈んだ瞳で部屋の唯一の窓を開け放った。
外はすっかり夜で、月が煌々と輝いている。
彼の心とは裏腹に美しい夜だった。
「そうですよ美しい夜なんですよ!
だから早まらないでファリスさま!」
叫び声が聞こえファリスは下を見下ろした。
唯一ここまで登る手段、塔に巻きつくように
作られた螺旋階段を誰かが登ってきていた。
「うるせええ!
もう無理だもう限界だ死なせてくれ!!!」
ファリスは
その場にうずくまるようにしゃがみ込み泣いた。
階段を登る足音が早くなり、
やがて暗い部屋のドアが開け放たれる。
ぜえぜえ息を切らせながら入ってきたのは
ファリスの従者、シアーゼだった。
「その台詞....582回目ですよ」
シアーゼはため息まじりに
呟き泣き崩れるファリスに近づき、肩に手を置いた。
「もう嫌だ...いっそ殺してくれシアーゼ...」
ファリスは縋るようにシアーゼを見上げた。
彼は黒い瞳を細めて、ファリスの頭を撫でる。
「バカ言わないでください。
あなたを守るのが俺の役目なんですから。
さあ、もう部屋に戻りましょう」
優しく言われファリスはますます涙が溢れてきた。
彼は唯一の心の支えと言っても過言ではない。
国の為、王家のためと称して数々の苦行や悪事に手を染めさせられてきたファリス。
シアーゼはずっと側にいてくれた。
故に外では猫を被っているファリスのこの気性の荒さを知っているのも彼だけであった。
「うんうんもっと言ってください。
俺だって出来ることならファリス様を自由にして差し上げたいんですよ..」
シアーゼは頷き、ファリスを立ち上がらせた。
渋々彼に従いファリスはドアへと向かう。
「...分かってるよ..どうせまた私は..
父上のいいなりになんでもやってしまうんだ...」
でも理不尽は理不尽だった。
だから駄々を捏ねるくらい良いだろうと思う。
しかし最下層的精神状態で生きているファリスは既に自己嫌悪に浸っていた。
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