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第3話 公務

遡ること、 その日の昼過ぎの出来事である。 偉大なる弱小国家マグルシュノワズ国の王は申された。 「財政難です。」 「そんなのいつものことでしょう…」 ため息つきつきファリスは突っ込んだが、 王と妃は2人とも嫌に深刻な顔だった。 「違うのだ…。今回はレベチに深刻であるぞ? 実は、その、某国に借金をしておってな。 その返済期限が迫っておるのだ」 王の言葉にファリスは嫌な予感がして逃げたくなった。 しかし床に跪いたままでいなければならない地獄のような時間であった。 「それがどうもケチくさい国でのう…期限内に返さねば攻撃して侵略すると言われてしまってな〜 でも今ぶっちゃけ軍隊も弱いしそんな金もあるわけないじゃん?この前オリンピックスタジアム作ったばっかりだからのう〜 ってなわけで今超やばやばのやばじゃ国的に」 王の言葉に、ファリスは停止しそうになる思考を必死に動かした。 「…某国というと?」 「西ソマトロアム皇国じゃ!」 「戦争大好きの超絶過激派クソデカ大国じゃないですか!!! どんなとこから借りてんだよ!」 想像だにしなかった恐ろしい国の名前にファリスは叫んだが、王は口を尖らせて子どものように拗ねている。 「だから〜ワシもちょっと頑張って頭下げて借金をなかったことにできないか言ってみたわけ〜」 「…流石父上ハアト強いっすね…」 ファリスは、我が親ながらどうしてこう常識がなくボンクラなのだろうとため息が出てしまう。 恐らく大国がこんな普段相手にもしないような弱小国家に金を貸したのも どうせ払えないと踏んでのことなのだろう。 この国を最初から手に入れる気満々で、尚且つ強引ではなく正攻法で手に入れ他の国や同盟国からの反感を少なくしようという作戦なのだ。 でもそれが政治というものであり、こちらが悪いのは120%である。 「そしたらなんとチャラにしても良いと仰ってくれてな!」 「っは?」 王は嬉々とした表情をした。 ファリスはまた目を見開く。 「ただし条件つきじゃがな!」 そりゃそうだろう。 タダより怖いものはないのだ、とファリスは豊富にある嫌な経験から学んでいた。 ファリスは嫌な予感で満たされて溺れそうだった。 その条件という名の無理難題が、今にも自分に降り掛かろうとしているのだろう、と。 しかしそれを避けることは出来ないと悟り、ファリスは深く深呼吸をし、ある程度の覚悟をして口を開く。 「……その条件とは」 「リゼエッタ帝国を打ち負かすこと!」 「はぁぁぁあ!?!バッカじゃねえの!!!」 ファリスは思わず素で叫んでしまった。 リゼエッタ帝国といえば、西ソマトロアムに並ぶ大国である。 国の面積も広いし非常に緑豊かで資源も豊富にあるし、平和主義で自分から戦争などを消しかけることはないにせよ その必要がないくらい抑止力として充分すぎるような巨大な軍もあるのである。 この小さな国のような地元ヤンキー連合みたいな軍隊しか持たぬ弱小国家が勝てるわけがない。 では何故、そんな話を? ファリスは恐ろしい陰謀に気付いてしまい思わず震えてしまう。 つまり、だ。 西ソマトロアムはこの国を介して、 寧ろ犠牲にしてリゼエッタ帝国戦争を仕掛けようとしているのだ。 「…世界大戦だ……」 頭が真っ白になりそうだった。 そんな大きな争いごとにただのくだらん浪費癖のせいで巻き込まれるとは。 いや、寧ろこのボンクラさに漬け込まれたのだ。 ファリスは唇を噛んだ。 「…どうするんです…? どっちの国も敵に回すわけですか…」 唇を噛んだままファリスは喋った。 こんな考えなしがいつまでも国を治めるよりそのような国に明け渡した方が国民にとっては良いかもしれないとさえ思うくらいには。 「勿論、クライアントには従わねばならん。 でないとワシらが潰されるからのう。 しかし、大国相手に正攻法でやってもワシらの惨敗は目に見えておる。」 王はニヤリと笑った。 「近々な、リゼエッタ帝国が妃選びの舞踏会を開くらしいのじゃ」 「はあ…それはまたおとぎ話みたいですね…」 リゼエッタ帝国の王は、賢王と称されるほどの 偉大な王であるが近頃は床に伏せることも多くなり 嫡男である次期王がほぼ実権を握っていると聞く。 王子の年齢はファリスとほぼ変わらないようだったが、現国王が健在の間に世継ぎを作ろうという魂胆なのだろう。 舞踏会とはいささか乙女チックだが、立派な心がけではないか、とファリスは呆然となる頭で現実逃避的に考えていた。 「そこでじゃ、ファリスよ。 リゼエッタ帝国の王子と結婚するのじゃ」 「…へぁ?」 ファリスは素っ頓狂な声を上げた。 また何を言っているんだ、この人は、と。 自分はまごう事なき男である。 どう足掻いても男である。 世継ぎは産めない男なのである。 と。 「女装して舞踏会に潜入し王子の心を射止めるのじゃ。」 「な、何をまたそんなビーズログみたいなこと…」 射止めてどうするというのだろう。 ファリスは王の意図がわからず眉根を寄せる。 そんな耽美小説みたいにホイホイ男が結婚できるわけがない。 ましてや一国を背負う王子なんかが、だ。 そもそも女装とバレた時点で即斬首だろう。 「決行は初夜。恐らく王子が1番油断する時… 王子を殺すのじゃ。」 王の言葉に、空気が冷たく張り詰めたようだった。 「暗殺…しろと?」 ファリスは息を呑みながら王を見据えた。 バカでボンクラだと分かっていてもこの男に いつまでも従順でい続けているのはこの所為だった。 残酷なまでの無為で無垢な、王の純粋さ。 自分のためならありとあらゆるものをどれだけでも犠牲にできる。 例えそれが自らの子であっても。 「そうじゃ。」 王は、何でもないように真面目くさった顔で頷いた。 「……。」 「やってくれるな?ファリス」 「……。」 「返事は?」 「………分かりました」 ファリスは静かに頭を下げ、 謁見の間を後にした。 そして酒を飲み騒ぎ、現在に至るというわけだ。 ファリスは自室のベッドの上で膝を抱えていた。 自室は城の地下にあった。 窓も勿論あるわけがない。 ベッドも必要以上の広さはなく、質素なもので 部屋も必要最低限なものしか置いていないようなまるで奴隷が暮らすような部屋である。 壁一枚向こうにはシアーゼの部屋だった。 シアーゼの部屋は、もっと狭いのだ。 「……私は、国のために、 国民のために、働くだけだ」 ファリスは自分を洗脳するようにブツブツと呟いた。 人を殺す。 実際にファリスは国の軍隊の隊長よりも数多くの人間を手にかけてきた。 それでも慣れないものだ。 否、慣れてはいけないのだ ファリスは生まれてこの方、平和で平穏な日々というものを送った事はなかった。 国のために国民のためにと称して王のワガママを叶えてきた。 正しい事だとは思っていない。 理不尽で歪んでいると思ってはいる。 それでも自分はまだここから抜け出せない。 きっと一生抜け出せないのであろうとも思っていた。 わかっていた。 私は殺すのだろう。

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