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第4話 美しき暗殺者は舞踏会へ

ファリスは母親のお下がりに身を包み、 馬車に揺られていた。 あのドケチで有名な国王サマが馬車なんて出してくれるとは随分と豪勢なものである。 赤いベルベットの座席の上で足と腕を組み、ファリスは眼を閉じてシミュレーションしていた。 実は悪魔なのではという程に情報収集が素晴らしい敏腕従者シアーゼの情報によると リゼエッタ帝国のアッシュ殿下は、 文武両道容姿端麗な絵に描いたような王子様であるが 大変な堅物で女っ気の欠片もないそうだ。 隣国の姫が許嫁だったそうだが、彼女には別に思い人がいたらしくその意見を尊重し数年前に穏便に婚約解消をしたらしい。 それ以降大国という事もあり婚約の申し出はあとを絶たないが全ていい顔をしないという事であった。 だが、現国王のたっての願いという事もあり今回の舞踏会が開かれる事になったらしい。 「一部ではホモなんじゃねえかって 噂もありましたねえ」 馬の手綱引くシアーゼの声が外から聞こえてきた。 ファリスは片目を開ける。 「だったら私には落とせないなぁ」 「ドレスを脱げばいいですよ」 冗談を言い合いながら、 ファリスはいくらか心が落ち着いてきた。 シアーゼとは、幼き頃より王の意味不明な教育方針により様々な過酷な試練を共に乗り越えてきた。 暗殺の訓練は勿論、娼婦宿、乞食の真似事、見世物小屋など様々な場所で共に酷い目にあってきた中でお互いを心の支えとし、育ってきたのだ。 「そう!本当に全くその通りですよ。 俺の心の支えはファリス様なんですから。 元気出してくださいね」 更にシアーゼにはファリスも知らない特殊能力があったがそれは、多分あまり本編には関係ないので触れる事はないだろう。 「ですねえ。それがいいですね〜〜」 「大丈夫かシアーゼ...」 「あ、はい。なんでもないです」 シアーゼは時々妙な独り言を言っているが度重なる心労のせいであろう。 またしても彼を巻き込んでいる事に申し訳なさを感じながらも、ファリスは再び眼を閉じ、 静かな海のような心持ちで馬車に揺られる。 自分には夢などない。 輝かしい未来とやらもない。 戦争が始まってしまうかもしれないこんな世の中で、今更何を足掻く必要があるのだろう。 数々の罪を重ね、この手は既に真っ赤だ。 そもそもろくな死に方はしない事はわかっているではないか。 それ思うと心は穏やかになっていくようだった。 「…ファリス様……」 心配そうな声が聞こえて ファリスは眼を開け、小さく笑った。 「早まらなくても、どうせ長くはないよな」 話を聞いた時は錯乱したファリスだったが、今は怖いくらいに落ち着いていた。 王子を暗殺して、そのあと自分は無事ではいられないだろう事はわかっていた。 相手は大国だ。どう頑張ったって逃げ出す前に捕まるのがオチだ。 「…なあ、シアーゼ……お前は逃げろよな」 ぼんやりしながら呟いた。 ファリスには夢も自由も無いし、 そもそもそれがどんなものかも知らなかった。 そのまま死んでいく事はわかっていたし、 もしそうなってしまうなら、せめてシアーゼには生きて欲しかった。 「私が死ねばお前は自由になれる。 いざとなればあのバカ夫婦を殺せばいいし」 「それ、376回目ですよ」 鋭い指摘をされ、ファリスは苦笑した。 「今度はマジでやばいよ。」 「わかってますよ。 それでも俺はあなたを置いては逃げません。 どこまでもお供させて頂きますよ」 シアーゼの376回目の言葉にファリスはため息を零した。 そう言うだろうとは思っていた。 そんなやりとりは、最早儀式のように2人の間に染み付いていた。 2人を乗せた馬車は、リゼエッタ帝国の領土に入っていく。 その国で、 2人の運命が大きく変わっていく事も知らず…。 「え?なんですって…!ちょっと詳しく…!」 「シアーゼ…疲れたなら代わるぞ?」 「い、いえ大丈夫です!全然元気です!あははは…」

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