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第5話 その城、強大につき。
リゼエッタ帝国は3つの山と、湖と、港を2つ、更に離島も持った大変な広さの国であった。
その中央に聳える城はシンデレラ城もビックリの美しさで、
何にそんなに面積を使っているのか、自分たちの国の城の3つ分はあろうかという立派な城に唖然とした。
「ホグワーツかな?」
「動く階段とかあったらちょっとテンションあがるんですけど」
ファリスとシアーゼは魔法の国にでも入国したようにテンションを上げ、馬車を降りた。
城の入り口は赤い絨毯がひかれ、
沢山の花に囲まれ、魔法の国さながらである。
馬車を降りた所でぽかんとなっていたファリスに上等な服を着た男が近寄ってきた。
「マグルシュノワズ国のファリス様でいらっしゃいますね。お待ちいたしておりました。」
丁寧にお辞儀をされ中に案内される。
ほぼ潜り込みだったのだが把握をされていて
更に一流のもてなしをされ圧倒される。
見た目もそうなら城内も相当であった。
舞踏会仕様に派手に飾り付けられているのであろうが、高そうな調度品が並び
カーテン1つにしても上物なのが見て取れる。
使用人達の立ち居振る舞いも上品で、まるで貴族のようだ。
自国との差は歴然、むしろ世界が違うと言ったほうがいいだろう。
こんな国の王子を落とさなければならないのか。
ファリスはため息が出そうだったが、来たからにはやらねばなるまい。
「舞踏会は夕刻より行われます。
時間までこちらでお待ちください。」
案内された部屋はファリスの自室の5倍はあろうかという部屋だった。
王との謁見の間くらいある。
ピンク色の壁紙に、金縁の大きな窓。
椅子もふかふかで肌触りのいい布が張ってあった。
ファリスは案内役の男が下がった後、
部屋の中をぐるりと見回し一先ず椅子に腰を下ろした。
「すでに疲れましたわ」
低い声で呟いていると
シアーゼは部屋の中をウロウロと歩き回り置物を持ち上げたり引き出しを開いたりしている。
彼には勇者の素質があるらしい。
「緑茶セットとか無いんですかね」
「旅館じゃ無いんだから...」
ツッコミを入れながらファリスは窓の外を見やった。
城は小高い場所に立っているのか、窓からは海が臨めた。
とても豊かでいい国だ。
争う必要も無いであろう。
これから大戦に巻き込まれていくだなんてこの国の誰が予想できるだろうか。
改めて自分が大罪人だと思い知らされる。
せめて王子がすんげー意地悪なやつとかだったらいいのにと思った。
「姫、ちょっと冒険に行きたいんですが
お1人でも平気ですか?」
キャンプ場に来た小学生のような眼でシアーゼはこちらを見てきた。
ファリスは苦笑する。
「ご飯までには帰ってきなさーい」
「はーい!」
いい返事をしてシアーゼはドアに近付いた。
冒険という名の敵情調査であろう。
王の意味不明な教育方針の賜物なのか彼のスパイスキルや忍者スキルはメンインブラックも比じゃない程だ。
ファリスも隠密活動はできるがその才能は彼の方があった。
「何かあったらすぐに駆けつけますからねっ」
シアーゼは紺色の髪をなびかせ行ってしまった。
1人になったファリスはまたため息を零し、
運んでもらった荷物の中から化粧品を取り出した。
「...さて、と。世界一の女になるか」
確かに自分は弱小国家の田舎王族である。
王とは名ばかりの使いっ走りであるが
パシリはパシリなりのプライドがあり
技術もまたあった。
数々のものを犠牲にして、心も身体も自分のものではなくなった故に得られるものもある。
絶対に落とす。
そして、..殺す。
まだ見ぬ伴侶アッシュ王子とやらに思いを馳せながらファリスは化粧品を机に並べた。
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