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高坂と志音 小旅行①

窓から入る風が気持ちいい── 窓のカーテンが揺れるのをぼんやりと眺める。 目を覚ました俺は体を起こしベッドに腰掛けた。 「先生、今何時?」 ベッドを囲むカーテンの向こう側に向かって声をかけると、ちょっと怖い顔をした先生がすぐに顔を出してくれた。 「志音さ、朝からずっとここにいるけど授業出なくちゃダメだろ? もうとっくに一時間目終わったぞ……」 顔が見れて嬉しい俺とは対照的に、呆れた様子の先生が溜め息をついた。 この学校の保健医で、俺の大切な恋人。 でも最近ちょっと冷たいんじゃない? って思ってる…… 「一時間目終わってもう二時間目始まっちゃってるね。いいや、次行くから。今日は天気もよくて気持ちいいよね。先生そんなとこいないでさ、こっちに来てよ」 俺は机に向かってしまった先生の背中に話しかけた。 「………… 」 なんだよ、返事くらいしろよ。 「ねぇ、陸也さんってば! 無視? 酷くね?」 保健室には俺しかいないから、いつもの調子で話しかける。俺の言葉にばっと振り向いた先生に睨まれてしまった。 「志音! 学校では先生だろ? 名前で呼ぶなよ……ここんとこ保健室ばっかり来てサボってるけどさ、お前そんなに仕事が忙しいわけじゃないだろ? 真雪さんだってこんなに志音が保健室でサボってるなんて思わないだろうが。ちょっとしっかりしろよ!」 なんで怒られないといけないの? いきなりの剣幕にちょっと引く。 俺、ただ先生と一緒にいたいだけなのにさ…… 言い方ってもんがあるだろ? なんかムカつく! 「なんだよ陸也さん! 保護者かよ! ムカつく! もう知らね!」 そういえば今日に始まった事じゃない。この前も保健室に来たら「またかよ……」なんて言われたのを思い出した。 俺は不貞腐れてそのままベッドに潜り込んだ。 「志音? もう知らない! って言うならさっさと保健室から出て行けよ。意地でもここにいるんだな……全く」 ベッドの端に座った先生が、俺の背中を摩りながらそう話す。 「………… 」 「志音、拗ねんなよ。最近お前ここに来る頻度増えてるしさ、他の生徒の手前贔屓するわけにもいかないだろ? それに学校は勉強するところだぞ」 言ってる事は俺だってわかるよ…… でもさ、時間が合わなくて先生なかなか俺の家に来てくんないんだもん。 ……会いたいじゃん。 でも俺ばっかり好きみたいで悔しいから言わない。 「それに志音さ……俺ばっかりじゃなくて周りの友達とかも見ろ。友達だってちゃんといるだろ?」 「……なにそれ俺ばっかりって。自惚れんなよ。もういい。帰るし!」 ……あぁ、言っちゃった。 イライラして心にもない事を口に出した。 布団から顔を出し先生の顔を見上げると、すごく寂しそうな顔をして俺の事を見ていた。 「…………」 先生ごめんなさい。 自分の発した言葉に先生が傷付いたのが容易に想像できてしまい、胸がギュッて締め付けられる…… それでも素直にごめんが言えずに、俺は黙って保健室から出て行った。

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