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クリスマスの夜/直樹&祐飛
「周さん、誰と長話してたんですか?」
やっと携帯をテーブルに置き、ソファで本を読んでいる竜太の横に腰掛ける周は面倒臭そうに溜め息を吐いた。
「直樹。祐飛とクリスマスデートしたいからおすすめスポット教えろってさ」
竜太の持つ本を取り上げると、その膝に頭を乗せ長身の体を折り曲げ窮屈そうに横になる。
「だからあの高台の公園の話してたんですね。あそこ凄く夜景も綺麗だし……僕、大好きです」
周と付き合って初めてのクリスマスに二人で行った思い出の場所。懐かしむように微笑んで、竜太は周の髪の毛を指で梳かした。
「あれでまだ付き合ってねえんだとよ。なにやってんだろうね。同棲までしてんだからやることやりゃいいのに……」
祐飛は高校を卒業して大学に進学、直樹は地元の企業に就職をした。そして一人暮らしをするという祐飛の所へ直樹が押しかけるようにして、なんだかんだと一悶着あってから、結局一緒に暮らしているらしい。
本人たち曰く「同棲」ではなく「ルームシェア」だそうだ。
「やることやりゃ……って。そこはデリケートなことなんだから、もう周さんってば言い方。でも両想いに違いないんだから、二人にとってクリスマスデートがいい方向に転べばいいですね。ところで周さん、僕らのクリスマスはどうするんですか?」
膝枕で寝そうになっている周の額にキスを落としながら竜太が聞くと、周は竜太の頭に手をやり手繰り寄せ、唇に優しくキスを返した。
「ん、夕方まで仕事入ってるから。俺ん家で待ってて。夕飯何処か食いに行こ」
「それなら僕一日暇なんで、夕飯作って待ってます。クリスマスディナーですね。あまり期待しないで……あ、でも早く帰ってきてくださいね」
竜太は周に覆いかぶさるようにしてもう一度キスをした。
クリスマス当日──
直樹は緊張気味に祐飛が来るのを待っていた。
待ち合わせの場所。張り切りすぎて三十分も早く来てしまい、寒さで手が悴んでくる。手を擦り擦りと顔の前で擦り合わせ、ハァーっと息をかけていると小走りで祐飛が走ってくるのが見えた。
「あれ? 早くね?……ゴメンな待たせて」
祐飛も約束の時間より十分も早いのに、既に寒そうに待っている直樹に向かって申し訳なさそうな顔をして謝った。
そういうところも好きだなぁ、なんて、思わずにやけてしまいながら「大丈夫」と直樹は笑った。
「それじゃ、行こっか」
直樹が祐飛に声をかけ、二人で並んで歩き始める。
最初は晩飯。いつものファミレスでいつもと同じに食事をした。直樹は祐飛の事を恋愛対象として見ているのに対し、祐飛は親友、あくまでも直樹は大切な友達……という風に見ている。それでも直樹の思いはちゃんと祐飛に伝わっているわけで、微妙な距離感でずっと二人で過ごして来た。
きっと祐飛はこういうことに関心がないから、今日のこの日がクリスマスだからといって何とも思っていないのだろう。直樹はそんな風に思いながら食事を済ませると、行きたいところがあるからと祐飛を誘った。
街の外れの高台にある公園。
あまり人も居らず、穴場スポットでもある。それでいて、展望スペースから見下ろす夜景はとても綺麗で、そこで告白をすると上手くいくというジンクスもあるらしい。
まあ告白と言っても、俺の場合はとっくの昔に告白してるから関係ないけど……と、隣を歩く祐飛の顔を見つめ考える。いつまでこの関係が続くのだろうかと考えると少し寂しく思った。
「うわ……凄いな。見てみろよ、綺麗だ……」
真っ直ぐ展望スペースまでくると、祐飛はすかさず直樹の服の裾を引き、夜景を見て感動している。
「だろ? これ……祐飛に見せたかったんだ」
服の裾を引っ張る祐飛の手を掴み、ギュッと握り恋人つなぎをする直樹に、驚いた祐飛は一瞬手を引いた。
「誰もいないから。ちょっとだけでいいからこうしてて。今日はクリスマスだから……ちょっとだけ。お願い」
逃げる手を逃すまいとギュッと強く握る直樹は、ドキドキして祐飛の顔が見られなかった。
「………… 」
二人で黙って夜景を眺める。
手袋からでも伝わる祐飛の温もりに、勇気を出して誘ってみてよかったと直樹は思った。祐飛を好きになって、今まで何度もクリスマスを迎えたけど、こうやって二人で過ごしたのは初めてのこと。
独りよがりでもいいんだ。
祐飛もちゃんと、少しずつだけど、俺の事を思って距離を縮めてくれているのがわかるから。
「ごめん。ありがとう……あのさ、これ。クリスマスプレゼント」
握った手を離し、鞄から取り出したマフラーを祐飛の首にフワッと巻く。祐飛は驚いた顔を見せ、戸惑ったようにそのマフラーに手を添えた。
「え……俺に? えっと、俺は…… 」
「あ、いいよ。俺があげたくて買ったんだし」
気まずそうな祐飛に直樹はそう言って笑い、二人で部屋へと帰った。
二人の住む部屋は、各々ちゃんと部屋がありプライバシーは確保できている。帰るなりそそくさと部屋へと入ってしまった祐飛の後ろ姿を眺めながら、少し寂しい気持ちで直樹は自分の部屋に入ろうとドアを開けた。
「直樹、待って……はい、これ。俺からのクリスマスプレゼント。悪い……被っちまった」
慌てて部屋から出てくる祐飛。手にはリボンのついた紙袋を持っている。
キョトンとしている直樹にもう一度「プレゼント」だと言って、祐飛自身が袋を開けて、中身を直樹の首に巻きつけた。
「マフラー? 祐飛が俺に? え? クリスマスプレゼント?」
首に巻かれたマフラーをギュッと握りしめ直樹は驚き何度も聞くから、祐飛はイラっとしながら、そうだと言った。
「だって、クリスマスにわざわざ待ち合わせて約束なんて……まさかファミレスで飯食うとは思ってなかったけど。長年一緒にいるのにクリスマスっぽい事した事なかったなぁって思ってね。俺からもちゃんと用意してたんだよ。ありがと」
照れ臭そうに笑いながら、祐飛は直樹の唇に軽くチュッとキスをする。
いやらしさの全く無い軽く触れるだけのキス──
祐飛はいつも、挨拶がわりのようにキスをする。こんなキスなら出来るのに、それ以上には進まない。
友達以上恋人未満。
でも直樹にとってこのキスは、いつもとは違った特別なキスに感じていた。
── クリスマスの夜 直樹&祐飛 終わり──
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