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バレンタイン大作戦①/奮闘の跡
「な……? なんだこれ?」
家に帰りドアを開けると、目の前の惨状に息を呑む。
今朝俺が出ていく時には綺麗に片付けて掃除もしたはず。同居する直樹は今日は休みだからと言いいつまでも部屋で寝ていたから、俺は直樹のために朝食兼昼食の炒飯だけテーブルに置いて出たはずだった。
「何でまたこんな事に……」
炒飯はラップがかかったまま電子レンジの上にある。まさか電子レンジの使い方がわからないなんてことはないよな?
炒飯が置いてあったテーブルの上は、小麦粉やら溶けたバターやら、ひっくり返ったボールやらが散乱している。キッチンの方はケーキの型に泡立て器。この二つにはまだ値札のシールが貼ったまま。床やテーブルに固まりかけてあちらこちらに飛んでいるチョコを見て、ピンと来た。
「何やってんだか……」
周りを見渡しても直樹本人の姿はない。大方、手作りで何かを作ろうとして失敗し、買い物にでも出たんだろうな。
一人奮闘している直樹の姿を想像したら笑えてきた。
「とりあえず片付けるか」
俺はいつ帰ってくるかわからない直樹のことも気にせずに、片付けを始めた。
ひとまず片付いたところで、携帯でバレンタイン用のレシピを検索する。初心者でも簡単に出来て、尚且つ見栄えのいいものを……
「まあ、こんなとこかな?」
目星をつけたそれを俺はメモにとり、手順を頭でイメージする。最初に流れを把握しておかないと、作ってる最中にあれが足りないだのこれがまだだの、バタつく恐れがあるからな。分量は正確に、手順も間違いなく完璧に……それさえしっかりこなせば失敗なんてする筈がない。
「よし……と、あとは材料だな」
小麦粉はあるし、卵も無事だ。バターも足りるし問題ない。あとは肝心なチョコだけど、冷蔵庫を見てもチョコは入っていなかった。
「ちっ……買いに行かなきゃかな? あ、いやいいや、俺の使うか……」
俺は自分の部屋にチョコを常備している。チョコが好きなんだよ。食べたい時に手元にないとイラつくだろ? こっそりと夜に食べているのはなんとなく恥ずかしくて、直樹には秘密にしていた。
「さてと、まずはチョコを刻むのか。湯煎にして溶かす? そっか、こうすると溶かしやすいからな……」
板チョコをまな板に乗せ包丁で刻んでいるところに、息を切らした直樹が帰ってきた。
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