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バレンタイン大作戦②/共同作業で
「え! 何で祐飛いるの? 今日は夕方まで帰らなかったんじゃねえの?……それに何やってんだよ! あっ……あぁ、マジか……」
一人騒がしく、靴をほっぽり脱ぎながらバタバタと部屋に来る。
「何やってんだよは、こっちのセリフだろ。散らかし放題にして酷かったぞ」
「あーうん、ごめん……いやそれより祐飛君? だから何やってんの?」
「バレンタインのチョコ作るんだろ? ガトーショコラ作る」
俺がそう言うと、水揚げされた魚のようにぱくぱくと口を動かし、手に持っていた買い物袋を慌てて背後に隠した。
「お前わざわざ泡立て器とかケーキの型買ったの?」
「だって無かったんだもん……必要だから買うだろ」
そもそもバレンタインなんて、今までお互い何もしなかった。と言うより、直樹が女の子から貰ったチョコを二人で一緒に食べたりするくらい。
バレンタインなんて女子のためのイベントだと認識していたけど……まあ、周りで男同士でチョコを贈り合ったりしてるのも見てきたから、直樹がこういう事をし始めたのもわかるけど。
何で手作り?
「いきなりハードル高いの挑むよね」
俺が笑うと直樹は少し怒って俺を見る。
「いいじゃん……やってみたかったんだもん」
そう言って隠した袋をテーブルに置き、袋から何枚かチョコを取り出した。
「大丈夫だと思ってつまみ食いしながらチョコ溶かしてたらさ、こぼしちまって足りなくなっちゃったんだよね。ねえ、ガトーショコラって何?」
ガトーショコラが何だかわからない直樹に、スマホの画面を見せる。一緒に作るから手を洗ってこいと言うと「はいっ!」と元気よく返事をして洗面所に走っていった。
子どもかよ……
すぐに戻った直樹の手には俺のエプロン。
「祐飛、エプロンしてよ。祐飛のエプロン姿好きなんだよね」
「………… 」
黙ってエプロンを受け取る。手順を直樹にも説明をして、二人でガトーショコラを作り始めた。
「ねえ、こう電気のやつ……ブイーんっていう泡立て器なかったの? メレンゲって凄い疲れる。直樹変わって」
「電動のやつなんて必要ないと思ったからさ……ってこれ、ツノが立つまでってどんくらい? しんどい……何のトレーニングだよ」
結局男二人で慣れないことをして、頭ではきちんとレシピや手順なんかもわかってるつもりが実際やってみると思うようにできなくてドタバタとしてしまう。そこにきて不器用全開の直樹がいちいち物をこぼしたり落としたりするから余計だった。
それでも何とか生地を完成させ、型に流し込む。
「すげー! 共同作業だね、ね? 祐飛! これ美味しく焼けるかな? 楽しみだね!」
無邪気に笑う直樹がちょっと可愛い。
「口の周りチョコついてるけど、まさかこの生地舐めたの?」
「……ん?」
「腹壊しても知らねえよ」
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