136 / 210

僕らの卒業旅行 ①

「卒業旅行なのに何でお前らいるんだよ。関係ないよな?」 車を運転している周さん、かっこいい……じゃなくって! 周さん、運転しながらミラー越しに後部座席を睨んでる。周さんの車じゃ人数乗れないからわざわざレンタカー借りての旅行なんだよ。大きな車を運転してる周さんもかっこいいな。 「関係ないって、それ言ったら周さんも修斗さんも関係ないじゃないっすか。いいじゃん、俺が殆ど手配して計画立てたんだから! 頑張ってしおりも作ったんだよ? 褒めてよ」 後ろの席でそう言ってぶすくれてるのはひとつ歳下の直樹君。直樹君の隣には祐飛君も座ってる。その二人の後ろには康介と修斗さん。 「しおりってこれ小学生の遠足かよ。人の卒業旅行についてくるなんて図々しい。それに直樹は学校すら違うじゃんか」 「だから! 周さんだってもうとっくに卒業して関係ないじゃん! 竜太君と康介君の卒業旅行でしょ! 俺にばっか文句言わないでください」 僕と康介はつい先日高校を卒業した。そして前々から卒業旅行をどうしようかと相談してる時に直樹君に聞かれてしまって、成り行きで一緒に行くことになったんだ。まあ、みんなで行くのも楽しいから僕は全然構わないんだけどね。 「なんかすみません。直樹うるせえよ……」 ギャーギャー言ってる直樹君の隣で祐飛君が直樹くんの頭を軽く叩き静かに謝った。祐飛君、最初はつっけんどんな感じだったけど、仲良くなるにつれてだいぶ印象が変わった。天然な直樹君とちょっと真面目な祐飛君、はたから見てるとお似合いなんだけど……絶賛片思い中の直樹君の想いは伝わってるもののまだまだ現状変わらず。 「いいんだよ、大勢の方が楽しいし、ほら、僕ら忙しくって計画もままならなかったから直樹君が色々やってくれて助かったよ。ね? 周さんもそんなに怒らないでください。運転集中集中」 僕は後ろを振り返り、直樹君と祐飛君にそう言った。確かに一緒に行くって直樹君が言いだした時は驚いたけど、でも何だか楽しそうだし卒業まで忙しくて予定を立てられなかった僕らのかわりに一生懸命段取りをしてくれたりして、助かったし感謝している。 「そうだよ、周の言うことなんか気にしなくていいよ。どっちにしたって竜太君と二人っきりじゃないだけでも文句たれてんだから。な? 康介」 「そうそう、俺と竜の卒業旅行に俺も行くって最初に言いだしたの周さんだし、直樹のこと言えねえよな」 一番後ろの席で康介と修斗さんが笑った。 それ言ったら去年の周さんたちの卒業旅行に僕らも一緒に行ったのだっておかしいってことでしょ? そもそも康介だって修斗さんや周さんも一緒に行くつもりでいたんじゃん。そう、行きたい人と一緒に行ければそれでいいんだ。 「もうこの話はおしまい、誰と行ったっていいんです。楽しければそれでいいんです」 助手席に座ってる僕は、機嫌の悪い周さんに車中のおやつにと持ってきた卵焼きをこっそり食べさせてあげた。あんまり直樹君ばっか責めるのは可哀想だし、空気悪いのは楽しくないからね。 「……ナイショですよ。安全運転でお願いしますね」 周さんの耳元でみんなに聞こえないように囁くと、僕の卵焼きをモグモグしながら静かに周さんは頷いた。 ふふっ……可愛いな周さん。 「……まあ、ありがとな 直樹」 卵焼きで気持ちが晴れたのか、周さんの機嫌も良くなり直樹君に素直にお礼を言った。 さあ気を取り直して、僕らの卒業旅行の始まりだ──

ともだちにシェアしよう!