「ちょっと？ 何？ 手を出したってなんだよ！ は？ 周さんどう言うこと？ 説明しろよ！ 俺の修斗さんに手ぇ出したのか？ ああ？」 今度は康介の顔色が変わる。ポカンとしてる周さんを前に、修斗さんはちょっと楽しそう。でも冷静に考えて、手を出したって幼稚園の頃の話でしょ？ 周さんといい康介といい、そんな事で怒るなんて笑っちゃう。 「何だよ修斗。変なこと言うなよ、俺何もしてねえぞ……」 「周は俺にチューしておきながら忘れちまうなんて酷い男だよね〜」 クスっと笑って僕の方を見てウインクする修斗さん。康介は目を丸くして言葉を失ってるし、周さんも康介とおんなじ顔をして固まってしまった。 ……やっと静かになった。 「修斗さん、幼稚園の時、周さんが修斗さんにキスしたの？」 うわぁ……想像したら可愛くってにやけてきちゃうし、おろおろして僕を見る周さんが新鮮で尚更可愛い。 周さんの幼少期の話、もっと聞きたい！ 「そう、俺体弱くて小ちゃかったのよ。で泣き虫でさ……でも唯一友達になってくれたのが周で、いじめっ子からいつも俺のこと助けてくれてた。こいつ幼稚園の頃からでっかいし強いし、カッコよかったんだよ」 「………… 」 周さんは呆然とした顔で修斗さんの話を聞いている。僕はもう、そんな周さんの小さな頃を想像して堪らなくなってしまった。 「修斗さんが体弱くて小ちゃかった……そんでもって泣き虫だと？ やべえ……絶対可愛い……」 康介も僕と同じに、怒ってるのも忘れてニヤつきながら修斗さんの子どもの頃を想像してる。 「康介、俺相当可愛かったと思うぞ。ちょっと髪も長かったしな。そこのポカンとしてる奴なんて、俺の事女の子だと思ってたからね今の今まで。ウケるよね」 「………… 」 固まったままの周さんがパチクリと瞬きをする。 「まさか！ お前……！」 突然思い出したのか周さんが大きな声をあげるから、僕も康介もビックリして飛び上がる。修斗さんはもうゲラゲラと声に出して笑ってるし、珍しく顔真っ赤にしちゃってる周さんは明らかに動揺していた。 「やっと思い出した？ 修学旅行の時だったよな？ 塚っちゃんと話してた時、初恋かも……なんて言ってたけどゴメンな〜、あれ俺だ！」 修斗さんは楽しそうにそう言って周さんの肩を抱く。周さんは見たこともないくらい慌てた様子で僕に謝るけど、謝られる意味がわからないし、また怒りが込み上げてきたのか康介は今にも周さんに飛びかかりそう。 「あれ、修斗だったのか……てっきり女……で体も小ちゃかったから俺より歳下かと思ってた。それに、本当に存在してたんだな」 「本当に存在してたって……なにそれウケる！ 俺いるし！」 周さん曰く、当時の修斗さんはとても可愛くて幼稚園も休みがちだったし、幼い頃の記憶が曖昧だから夢だったのかもしれないって思ってたんだって。挙句、儚い雰囲気から幻の妖精発言をして修斗さんを更に笑わせていた。とりあえず幼稚園の頃とはいえ、周さんは修斗さんにキスした事を謝りたいと言って僕に頭を下げる。キスって言ってもほっぺに軽くだって言うし、僕はそんなのなんとも思わない。寧ろそんな可愛いエピソードを聞けて感謝しかない。でも康介はそうはいかないらしく、周さんに「今すぐ俺に謝れ！」って強気で凄んだ。 「悪かったよ……怒んなって」 周さんは渋々康介に謝った。修斗さんにひっついてる康介は周さんに頭を下げてもらえて満足そう。 「だからさ、幼馴染だろうと初恋だろうとそれ以上の感情はないし、お互い大切な存在だろ？ 俺だってヤキモチは嬉しいけど度がすぎるのもどうかと思うぞ。俺にとっての周は幼馴染で人生を変えてくれた恩人だ。こう言うのシャクだけどさ、周のおかげで今の俺があるしこうして康介ともいい関係になれた」 修斗さんが康介に頬を寄せる。 「周は俺の可愛い康介をもう邪険に扱うなよ。お互い様なんだからよ」 康介の頬にチュッチュしながら修斗さんはそう言って笑った。康介はそんな修斗さんから逃げようと真っ赤になって暴れてる。いつの間にか起きてきていた直樹君も一緒になって笑っていた。思いがけず、周さんの可愛い話が聞けて良かった。帰ったら周さんに幼い頃の写真でも見せてもらおう。 結局祐飛君は起きてこなかったけど、お互いの子どもの頃の話をしながら僕らは少しだけ夜更かしをした。 翌朝皆んなで朝食を済ませチェックアウトをする。ホテル内でもお土産などを購入し、帰りはどこかに寄ることもなく、少しの渋滞につかまりながら真っ直ぐ帰った。 「周さん、運転お疲れ様でした。疲れたでしょ？」 「んにゃ、大したことねえよ。疲れてないし、気にすんな」 皆んなを送り届けた後レンタカーを返しに行き、二人で周さんのアパートに帰る。どちらともなく手を繋ぎ、互いの体温を感じながらのんびりと歩いた。今日の夕飯は途中で買ったコンビニのお弁当。今日は家に帰るつもりだったけど、やっぱり名残惜しくて周さんの部屋に泊まることにした。 卒業旅行、楽しくてあっという間だった。とうとう僕も高校生を卒業。 そして来週には入学式。この春僕は康介と一緒に大学生になる。 また新しいスタートだけど、きっとこの先もこうやって周さん達と一緒にいるんだろうな。 ── 僕らの卒業旅行　終わり ──