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僕らの卒業旅行 ⑭
「……んっ、苦しい」
猛烈な息苦しさで目が覚める。今、何時なんだろう? 眠りについてからさほど経っていないと思うのだけど……枕元に置いた携帯で時間を確認しようとしたけど、全く体が動かなかった。息苦しいし、何より暑い。顔が何かに覆われて視界が悪い。寝起きで頭が回らず、僕は自分の状況を把握するのに時間がかかった。
「……? あれ? ……康介?」
周さんの腕枕で寝ていたつもりが、いつの間にやら康介に羽交い締めにされて眠っていたらしい。
「康介?……起きて、ごめん……苦しいから離して?」
修斗さんと勘違いしてるのか、それにしたってこの拘束力ったら。康介は両腕両足を絡みつけるように、そう、抱き枕をがっつりホールドするようにして僕にしがみついている。息が苦しいのはそんな康介の胸に僕の顔が押し付けられているから。
「康介〜。お願い……苦しい……起きてって」
頭の上でイビキまで聞こえてくる。康介ってば寝つき良くて熟睡するとなかなか起きないんだっけ。
「参ったな……」
気持ちよさそうに眠っている康介は僕の声には無反応。それでもすぐ気がつくと思い、僕は何とか抜け出そうと体を捩った。
少しの間そんな康介と格闘してると、不意に体が楽になる。あれ? って思い顔を上げたら、呻き声をあげてる康介とその康介を文字通り踏み付けている周さんの姿が目に飛び込んできた。
「……周さんっ!」
すごい形相。踏み付けていた足で、今度は康介のお腹を蹴り飛ばすもんだから、慌てて僕は周さんを止めた。
「お前! 何やってんだ? このクソ野郎がっ!」
周さんの怒鳴り声と康介の呻き声で流石に修斗さんも目を覚ます。康介はその場で蹲りゲホゲホと咳き込んでるから、直ぐに状況を察した修斗さんも怒りを露わに周さんの胸ぐらに掴みかかった。
「てめえ康介に何してくれてんだよ!」
寝ていたところを襲われて何が起きたかよく分かってない康介は、息が落ち着いたのか涙目でポカンと修斗さんを見つめてる。僕だって急にこんな状況、頭が追いついてない。
「何もクソも、こいつがこっちに来て竜太にちょっかい出したから、宣言通りふんずけてやっただけだ!」
「……? ちょっかいって……違うよ? 周さんっ、康介寝ぼけてこっち来ただけですよ。そんな怒ること?」
康介は相変わらずポカンとしてるし、修斗さんは怒り心頭な周さんに負けず劣らず怖い顔してるし、なんかもう泣きそう。
「あ〜ゴメンね、竜太君。康介寝てる時も力強いから……びっくりしたよね?……ちょっかいって、単に康介が寝相悪くてそっち行っちゃっただけだろ? 竜太君には迷惑かけちゃったかもだけど、何も康介に乱暴することねえじゃんかクソ周」
康介も気がついたのか、気まずそうに僕に謝る。
「はあ? 竜太に抱きついてんの見逃せってか? ふざけんな」
「周さん! 僕は何ともないよ? 康介幼馴染だし、子どもの頃なんかはしょっちゅう一緒に寝てたから。別にこんなのなんて事ないんですって」
あ……
僕の言葉に周さん、拗ねちゃった。わかりやすく「フンっ」て言ってそっぽ向いちゃった。ちょっと可愛い。
でも本当だもん。康介だって寝惚けて僕に抱きついたって何とも思わないだろうし。
「気にすること……ないんです」
「………… 」
修斗さんは康介を気遣いながら苦笑いしている。修斗さんはちゃんと分かってくれてるのか、そんなに嫌そうな顔じゃなかったから安心した。
「俺はな! お前が竜太の幼馴染だって事からしてもう気に食わないんだからな! 俺の竜太に触んな!」
周さん、子どもみたいなこと言っちゃって。まあ以前から周さんにとって康介は面白くなかったのは分かってたけど、ここまで言う事ないと思う。それだけ僕のこと好きだってことは伝わるから嬉しいけど。
「あのなあ、周。お前だって康介のこととやかく言えねえだろ。俺とお前だって幼馴染なんだし、お前の方が康介に責められたっておかしくねえ事してんだろうが」
ため息混じりに修斗さんが周さんを睨んだ。
「何で俺が康介なんかに責められなきゃなんねえんだよ。幼馴染っつたって小学校から一緒でよく二人でつるんでたってだけだろ? 意味わかんねえよ……」
「だからな、前にも言ったと思うけどお前と俺の出会いは幼稚園だかんな? そんでもって俺に最初に手を出したのは周、お前だよ」
修斗さんはそう言って、周さんの反応を楽しむようにニヤッと笑った。
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