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薬師のエルヴィン 前

 僕は薬師のエルヴィン。  王都の西城壁門の傍に佇む小さなお店の店主。  僕の日課は2階の窓から早朝に城壁沿いを走る騎士様を見て、独りこそっと「おはようございます」って挨拶をすること。  タッタッタッタッ、とリズミカルな足音が朝の静かな空間に響く。 「おはようございます」    今日も騎士様の体調は問題なし。  その騎士様を見送って、僕の1日は始まる。  朝ご飯にお気に入りのパン屋さんの丸パンに、昨夜の残りの黒鶏の肉が申し訳程度に入った野菜スープを食べて、さて、開店準備しよう。  看板を釘に引っ掛けて、掃き掃除をして、鉢に植えてある花に「おはよー」って言いながら水やり。  開店準備が終われば、後はお客様が来るまで、薬づくりだ。 「ちゃんと干せてるかな。昨日は雨だったからね」  屋根裏部屋に干している薬草たちの様子を伺い、薬の在庫を確認して、作るものを決める。 「おはよーさん」  ——お、この声は。 「おはようございます、隊長さん。ちょっと待ってくださいね」  通りに面する壁に開けられたカウンター窓から顔を覗かせてるクマさん——といってもちゃんと人間だよ——に頭を下げて、商品が閉まってある棚に手をかけた。  隊長さんは城門警備隊の隊長で常連さん。おじいちゃんがいた時からお世話になっていた人なんだ。お城からの配給される薬もあるみたいだけれど、お城に行くよりも僕の店が近いからと週に何回か利用してくれて。だからとっても助かってるんだ。へへへ。    お薬を紙袋に詰めて、うん、忘れ物なし。 「いつものですね。確認お願いします」 「おう、1000ルッツな。また、二日後に頼む」 「はい、二日後お待ちしてます。ありがとうございました」  僕の店を利用するのは兵士さんと冒険者さんが多くて、最初は体が大きい人ばかりで怖かったけれど、優しい人も多いって知ったから最近は平気なんだ。  乱暴なお客さんが来ても、すぐ近くにいる門番兵さんが駆けつけてくれるから、お店の立地としては最高かもしれない。ギルドや商店で買い忘れた、って寄ってくれる冒険者さんも多いからね。  この店はおじいちゃんの残してくれたこじんまりしているけど大切なお店。1階部分が店舗と調合場で、2階部分が居住スペース、3階は屋根裏で薬草の干場。お店を開いて、一人で住むのには十分な広さ。  おじいちゃんって言っても血が繋がってるわけじゃなくて、一緒に旅をしながら薬の事を教えてくれた師匠。家族だって周りに思わせるためにそう呼んでたんだ。    鐘が6つなって、もうお昼。これで午前中の営業は終わり。    大抵、冒険者さんは昼間に街の外へ出るから、基本的に朝と晩にかけてが忙しい。それに合わせて、お昼になるといったん店を閉めて、お昼ご飯と調合に足りない材料を買いに行くのが日課。  昼の鐘4つにお店を開けるから、それまで街に出かけるんだ。  王都には王宮のある貴族街を中心に大通りが東西南北へ十字に延びていて、街がほぼ円状に広がっている。城壁門まで続いる大通りで分けられた南東の区画にギルドや市場があって、平民街では一番賑やかな場所なんだ。  市場にある屋台で軽くご飯を済ませてギルドへ。  ギルド内の食事処で食事中の顔見知りの冒険者さんに軽く挨拶をして、向かうはカウンター。  表にある受付は冒険者さんが依頼を受ける所だから筋骨逞しい方たちがたむろってて恐ろしいんだよね。でも、ちゃんと少し奥まった場所に依頼人用のカウンターが用意されてるから大丈夫。僕はもちろん依頼人用のカウンターしか使ったことないよ。  受付にギルドカードを提示すると、職員さんが奥から依頼分の荷物を運んできてくれるから、僕は中身を確認してからサインして受け取るだけ。ここでは依頼を出さなくてもギルドに常時置いている素材の購入もできるからとっても便利なんだ。 「今日は結構量あるけど大丈夫? 二回に分けようか?」  ギルドの受付のお姉さんが心配そうに僕の腕と袋を交互に見た。 「このぐらいなら、大丈夫です。こう見えて意外に力はありますから」  とにっこり返すと、思いっきり疑わしい目で見られたけど、別に悲しくないよ。本当に腕の力だけはそれなりにあると思ってるし。薬草をゴリゴリしてるからね。粉砕するのに魔法使ってもいいけど、ここだけは譲れないんだ。  

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