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薬師のエルヴィン 後

 さあ、荷物は少し重いけれど家まで頑張って帰ろう。帰ったら調合の下準備をしてから少し勉強しなきゃ。  僕は学校に通っていたわけじゃないから、学校に行ってる人と比べて、基礎知識に乏しい。おじいちゃんから直接薬の調合を教わって、この店を継いだから、全ておじいちゃん流なんだ。まだまだ知識不足だから、おじいちゃんのメモ書きを集めたような薬学書とレシピと睨めっこしながら鍛錬の日々なんだよ。  店の扉を開けて中に入ろうとすると、後ろから、「すみません」と声が掛かった。振り向くと女性と男の子が困った顔で佇んでいた。 「どうしました?」 「あのね、薬屋さん、ちょっと見てもらいたいの。この子なんだけど……」  そのお母さんらしき人は男の子の袖捲って腕を僕に見せた。そこには虫に刺された様な赤い斑点があって、男の子の細い腕が可哀想なくらい腫れていた。 「わ…大変。すぐ診ますから、中にどうぞ」  玄関扉を大きく開けて二人を中に案内して、椅子を勧める。  調合場に狭いけれど、お客さんとお話する空間を設けてある。僕はあまり使ったことはないけれど、おじいちゃんはお客さんに合わせたお薬も作ってたし、よくお喋りしていたなぁ。懐かしい。  そんなことを思いつつ男の子の腕の下に小さいクッションを置く。 「ここに腕を乗せてもらって……うーん、触ると痛いかな?」 「痛いし…、ジンジンする」  患部をそっと触ると、男の子はキュッと目を瞑った。小さいのに痛いのを耐えていて、とっても偉い。 「街の外に出られましたか?」 「ええ、三日前に隣町まで」 「三日前、ですね。としたら…、甲冑毒虫ですね」 「ど、毒虫…!?」 「ええ、毒といっても強いものではありません。今回は一か所だけですから安心してください。大群で襲ってくると危険ですけど、一匹なら心配いりません」 「そ、そう。よかったわ」 「おにいちゃん、僕治るの?」 「うん、大丈夫だよ。飲み薬になるけど、頑張って飲んでね」  お母さんにお薬を渡して、様子が変わればすぐにまた来るようにお願いしてから見送った。バイバイと男の子が手を振ってくれるのが嬉しい。  僕のお店には軽い怪我や病気を診てもらいに来る人もいる。治療院にでは主に魔法を使った治療をしていて、診療費が高額だから払えない人もいるんだ。そういった層のお客さんを積極的に診て、信頼を作ってくれたおじいちゃん様様だよ。  親子を見送ってお店に入れば、ちょうど鐘4つが鳴った。開店時間だ。  日が沈んで暗くなり始めると冒険者さんたちが帰って来るから、店も混み始める。そうなると閉店の夜の鐘2つまであっという間。 「ふー、今日もお疲れ様」    看板を外して、今日は閉店。  下準備のできたお薬を仕上げて、お仕事も終わり。  いつものように晩御飯を食べて、ゆったりお風呂。おじいちゃんのこだわりでお湯に浸かっていたら、僕もくせになっちゃって、今は毎日浸からないと落ち着かない。    ほかほかになった後は座学。  一人でお店を切り盛りしてるから、きっちりとした知識も持っておかないといけない。レシピを見ながら薬学書で調べて、レシピを分析する。おじいちゃんのレシピは特殊だからきっちり理解してないと作れない。まだまだそんなレシピが山積み。  それに毒や病気の症状も頭に叩きこまないといけないからね。  目がショボショボしてきたからもう限界。これでおしまいにしよう。  ——おやすみなさい。     

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