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出逢っちゃった 後
その翌日も回復薬の補充でたくさん買ってもらって、2日間だけで1か月分近いの売り上げが出ちゃった。ちょっとホクホク、嬉しい。
そのお陰もあって、今日は午前中も早めに店を閉めて、ただいま市場で物色中。
討伐隊がたくさん戦利品を持って帰ってきてくれて、市場が賑わってるって聞いて、いてもたってもいられずに来ちゃったよ。
討伐隊に参加するって言ってた隊長さんが心配になって門番兵さんに聞きに行ったら、市場の事を教えてくれたんだ。
隊長さんは事後処理で色々と忙しいみたい。でも怪我はしてないし、元気だって。良かった。
市場はすっごく賑わっていた。どこもかしこも人ひとヒト! 僕は埋もれ気味になりながらも、人の流れにのって、店を覗いた。
お肉屋さんでは魔物のお肉が山積みになっていて、すっごく繁盛している。種類も多いし、すごく安い。多めに買っちゃおうかな。
薬に使えそうな角、爪、牙、鱗も安い。これは買い時だ。この際新しいレシピにも挑戦してみようかな。
そんなことを考えてたら、一番混みあっているところに入ってしまった。案の定、人波に飲まれて身動きが取れなくなって、荷物もちゃんと持てているのかわからない状態。しかも足が浮きそうになって、わわ、どうしよう。
すると急にグイっと腕を引かれた。その僕の手を引いている人が盾になってくれる。そのまま人波を掻き分けて、脇の路地まで連れて行ってくれた。
痛さを感じない力加減で、でもしっかりと握ってくれる。その温かい手になんだか安心した。
「——大丈夫だった?」
「は、はい。だいじょ……う、ぶ、です」
僕は顔を上げて目を見開いた。手を放して向き直ったその方に。
艶のある少し長めの蜂蜜色の髪に宝石みたいに透き通った深みのある紫の瞳。僕がいつも日課で挨拶している騎士様その人だった。
キラキラオーラを纏っていて、かっこいいというか綺麗というか、うーん、どっちも!
「んーとなに? 俺の顔に何かついてる?」
「い、いえ、その、ありがとうございましたっ」
いけないいけない。
騎士様の顔に見とれてしまっていた。遠くから眺めてるだけの存在だったのに、手が届きそうなところにいるなんて、信じられない。僕の心臓はバクバク早鐘を打つ。
おちつけおちつけ。
胸に手を当てながら、ふうっと溜息をついて心を落ち着けていると、騎士様が僕の顎を長い指で持ち上げてきた。
って、指? 騎士様の指?
ちょっと待って、今どういう状況?
「ふーん」
意味ありげな表情で僕を探るように見てくる騎士様。僕はどこに視線をやればいいのかわからず、目をウロウロさせた。多分僕の顔は真っ赤だ。
騎士様は何事もなかったかのように手を放して、満足そうに微笑んだ。
なんて綺麗なんだろう。その柔らかい笑顔が眩しくて、僕は目を細めた。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
騎士様はひらりと手を振ると路地裏から出て、市場の人ごみの中に消えていった。
な、なんだったんだろう。心臓が止まるかと思った。
いつの間にか息もしてなかったみたいで、騎士様がいなくなってからゼーハーって必死に空気を取り入れた。僕は地面に蹲ってヘロヘロ状態。
うわー。
騎士様の声聞いちゃったよ。
騎士様とお話ししちゃったよ。
騎士様に触られちゃったよ。
徐々に実感がわいてきて、顔の筋肉がふにゃふにゃ。
僕が人波に埋もれてるのを助けてくれたんだ。こんな僕にまで気づいてくれるなんて、騎士様はとっても優しい人だった。
どんな人なのかって考えたこともなかったから、すごく不思議な感じ。
また会えたらいいのになぁ。
僕はなかなか治まらない動悸に胸を押さえた。
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