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再会 前

 僕はじゃあ、とメル様のひんやりとした手を握った。    まずはどこが悪いのか探らないと。  僕はゆっくりと魔力を送り込んだ。 「どうですか?」 「うーん、温かい? 怠さは治まったかな」 「痛みは?」 「あ、うん、痛みも…。…すごい……」  僕は感嘆の声に微笑み返して、目を瞑った。  手から肩へ。そして胸とお腹を通って脚へ。ゆっくりと魔力を循環させて、病の源を探す。  睡眠時のようなゆっくりとした深い呼吸音がメル様から聞こえて、僕もホッとした。    結局、全身に魔力を巡らせたけれど、内側に悪いところはなかった。って言うことは病気じゃない。  ――外から?  一つ思い当たるものがあった。  メル様に言うのは団長さんに確認してからの方が良いかもしれない。   でも一応間違いがあってはいけないしと、もう一度魔力を循環させた。 「メル様、気分はどうですか?」 「…ん、すごく気持ちいい。心地よすぎて、眠いよ」 「よかった」  そのまま寝てしまいそうなのを必死で我慢してるメル様がとてもかわいらしくて、ドキドキしてしまった。団長さんが骨抜きにされてしまうのもわかる気がする。  こんなに楽なの久しぶりだ、とメル様は自力で起き上がれるぐらい快復していて、僕は自分の力を少し誇りに思った。おじいちゃんには使うなって言われてたけど、やっぱりこの力は誰かのために使うべきものだよね。さすがに誰彼構わずっていう訳にはいかないけど。 「一時的に良くなっているだけなので、夜になればまた症状が出てくると思います。症状を和らげる効果のあるお薬をお渡ししておきますね。この薬の事も内密にお願いします」  このお薬はただの回復薬。でも僕の魔力入り。以前に問題を起こしたお薬と同じ効果があるはず。 「わかった。厳重に扱うよ。飲むのは症状が出てからでも?」 「大丈夫です。それと魔道具をこの部屋に置いていてもいいですか?」 「どういう効果が?」 「防壁魔術と同じです。それ以上はちょっと…」 「わかった。俺には言えないことなんだな」 「すみません……。その、確認したいことがあるので、明日の昼またお会いできますか?」 「もちろん! エルヴィンならいつでも大歓迎だよ」  顔色が良くなったメル様はとても溌溂としてる。もともとは明るくて気概のある方なんだ、きっと。  輝くような笑顔がとても魅力的で、僕も団長さんに次いで、メル様の熱烈な信者になってしまいそう。 『メルヒオル。入るよ』  メル様の返事も待たずに扉を開けて、誰かが入ってきて、驚いた僕は薬をメル様に押し付けるように渡した。それを受け取ったメル様もすぐにナイトテーブルの引き出しにしまってくれる。 「兄上、入ってくるのは返事をしてからって言ってるじゃないか。もう毎回毎回……」  少し怒っているような呆れているような顔でメル様がその入ってきた人物に声をかける。  メル様のお兄様?   僕は興味津々で振り返って、その人を見て固まってしまった。  だって、だって……。 「弟の事が心配でこうして見舞いに来てるのにその言い方は酷くない? ――あれ……顔色良くなってる?」 「うん。そう、この子が薬師で、今診てもらってたんだ。な、エルヴィン。……エルヴィン?」  メル様の呼びかけに、はっと我に返り、僕は勢いよく立ち上がった。どう見ても不審な動きだよね。二人は僕の様子を訝しげに見ている。 「あ、あ、あの、先日はありがとうございました!」  そう、騎士様。あの、騎士様。いつもの騎士様。そして市場で助けてもらった騎士様。メル様のお兄様なんて!  騎士様は覚えてないかもしれないけど、僕は深々と頭を下げた。 「え、っと、……どこかで……あ、もしかして、人ごみに押しつぶされそうになってた?」 「はいっ。あの時は本当に助かりました」  メル様は騎士様と僕の顔を忙しなく交互に見ている。 「二人とも会った事あるんだ?」 「うん、市場で人に流されて青くなってたから、ちょっと手を貸しただけだよ。そっか、薬師だったんだ」  メル様が、本当?、と僕の方を向いたので、僕はこくこくと頷いた。 「こんにちは。ヴィルって言うんだ。よろしくね。弟の事もよろしく」 「は、はいっ。薬師のエルヴィンといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」    メル様とよく似てるけど、少し大人っぽい余裕のある笑顔。手を差し出されて、断れるわけがない。僕は迷いながらもそろっとその手を握った。節のあるしっかりとした大きな手にドキドキするしかない。  き、騎士様、じゃなかった、ヴィル様と握手……。恥ずかしくて顔が上げられないよ。 「エルヴィン。今日はありがとう。もう帰ってくれていいよ」  メル様の少し冷めた声に僕はびくっとして、メル様を見た。とっても複雑な表情をしていて、メル様が何を考えているかわからなかった。  ただ、メル様の機嫌を損ねてしまったことは確実で、冷や汗が止まらなかった。 「もう帰るの?」  メル様とは対照的にヴィル様は和やかな笑顔を全く崩してなくて、メル様の様子なんか歯牙にもかけない、といった感じだった。 「お店の休憩時間に来てもらったんだ。ほら、エルヴィン、行って。また明日な」    急かされるように言われて、僕は、はい、と返事をしてから、メル様の部屋を出た。  

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