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大事なこと忘れてる?

   日の光で意識がゆっくり浮上していく。  目を開けると、僕を包み込むように抱えながらヴィル様が、おはよう、って微笑んでくれた。   「おはようございます、ヴィル様」    う、声がガサガサだ。  昨日あんなに声――思い出すのやめとこう。恥ずかしすぎるよ。理性が飛ぶってあるんだね…。  でも、夢じゃなかったんだ。  嬉しい。  本当にヴィル様がいる。   僕はヴィル様の胸にギュっとしがみついて、ヴィル様の匂いを堪能した。二ヶ月ぶりぐらいかな。  頭の上から忍び笑いが聞こえて、髪を撫でられる。   そして僕の髪を掬って、キスして――   「あ、髪の色…」  忘れてた。  昨日からずっとこのままだったんだ。  ヴィル様にしか見られてないから大丈夫だとは思うけど。 「エルの髪、白だったんだね。こうすると人には見えなくなるかな。やっぱり混血ってわかるよ」 「そうですよね。色変えないと…」 「大丈夫。エルは俺が守るから。それに、子供の髪が白い可能性もあるし、隠すと余計にややこしくなるからね。まあ、エルを探すのに協力してくれた人たちはエルが龍との混血だって知ってるから、気にしなくて大丈夫」 「探して…」  そっか、探してくれてたんだ。嬉しい。   「僕の事、見つけてくれて、ありがとうございます。こうやってまたヴィル様に会えるなんて思わなかったから…」 「本当に…、本当に見つかってよかった。エルが行動的だって痛感したよ。まさか龍の里まで行ってるとは思わなかったからね」  皆さんに迷惑かけたのかな…。  また、お礼しに行かないと。   「僕が里にいるってなんでわかったんですか?」 「ん? エルの事なら何でも知ってるから、かな」 「ほ、本当に何でも?」  ヴィル様はにっこり微笑んで、キスしてくる。   「エルが足りない。二ヶ月も我慢したんだから、もう少し、ね」    またこの展開?  朝だよね?  え、朝から?   あ、あれ? 何か誤魔化された気がするけど、何だったっけ。  あっという間に体勢を変えられて、足を持ち上げられて、ヴィル様のものがおしりに触れる。 「ちょ、ちょっと、待って…」  僕の声なんて聞こえてないみたいに、ちょっときついかな、って言いながら香油をどこからか取り出して、少し垂らすと、ゆっくりと入ってくる。 「…ぁ……」    浄化魔法かけて綺麗にしてもらったけど、昨日受け入れ続けた内側はまだまだ解れてて、簡単にヴィル様が……。   「…あっ……ヴィルさまっ……ぁ…まって……は、んっ…」 「こんなに気持ちよさそうなのに? とめていいの?」    気持ちいいところに押し当てられて、快感を引き出されるみたいに小刻みに揺らされて。  ここまで来たら、僕だって反応しちゃうし、もう拒否なんてできないよ。き、気持ちいいから、しょうがないよね。 「エル、中、もうとろとろだよ」 「…ゃ、いわないでっ……ァ…んんっ……ぁっ、…」  気持ちいいところばっかり、当たってるのっ。    刺激が強すぎて体をずらすと、腰を掴まれて固定…。  うん、逃げるなんてできないってわかってた。  余計に奥までぐりぐりしてくる容赦ないヴィル様。    あ、そこ、そこっ、きもちいっ!  も、もう、……いいよね………… 「んぁっ…、は…ぁ…ああッ…、きもちぃの、きちゃうっ」 「いっぱい気持ちよくなっていいからね」 「あ、あ、ひぁっ、だめ、んん、ダメぇ……っ…!!」  ホントだめ。気持ちよすぎて、本当にダメ。  昨日の余裕のなさとは打って変わって余裕満々のヴィル様はニッコリ艶やかに笑いながらも、僕を責め立てて、愉しむ悪魔になりました。  そんなヴィル様も好きな僕って、もうヴィル様病に罹ってるよね。    情けないことに、行為が終わったのは、僕のお腹が鳴ったからだった。  ヴィル様にまた笑われて、もう恥ずかしくてたまらない。もう少し自重して欲しいよ…。  まあ、鳴らなかったらいつまで続くかわからなかったから、助かったのかな?  やっと服を着させてもらって、食堂に案内されたんだけど、なにからなにまで高級感溢れてて、食器に触れるのさえ怖い。  今着てる服もヴィル様が用意してくれてものなんだ。肌触りがとろとろしっとりの絞りのない足首まであるワンピース。絶対これ僕じゃ買えない代物だと思う。    テーブルマナーなんてさっぱり分からないから、全部ヴィル様に教えてもらいながらの食事。すっごく肩がこっちゃったし、すごく申し訳ない。やっぱり貴族の人って大変だね…。 「エルヴィン!」  食事が済んで、部屋に戻る廊下を歩いてる時、背後から声が掛かった。それは、本当に久しぶりに聞く声で。  僕が振り返ると同時に抱きつかれて、後ろに反り返りつつ受け止めた。 「メル様!」 「エルヴィン、久しぶり!」  メル様が元気だ!  満面の笑みを浮かべて、僕の事をぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。 「メルヒオル、ひっつきすぎ」  メル様から引きはがされて、ヴィル様に後ろから抱きしめられる。ちょ、ちょっと恥ずかしいんですけど。 「ま、いいじゃねえか。四カ月ぶりか?」  メル様の後ろから団長さん。  そっか、そんなに経ってたんだ。  お二人の表情から陰りも消えて、本当にお元気そうでよかった。 「お久しぶりです。メル様、ジェラルド様。本当にお元気になられてよかった…」 「お前さんも元気そうだな。…まあ、色んな意味で随分雰囲気は変わったが」 「うーん。余計危なっかしくなったような…」  でも一番は髪の色だよな、って言いながら、メル様が僕の髪を珍しそうにいじる。  お二人にちゃんと謝っておかないと。二ヶ月前の事。 「あ、あの……あの時は…、せっかく誘っていただいてたのに、すみませんでした」 「エルヴィン…。気にしないでいいからね。全部兄上の所為だから」 「メルヒオル、それ以上言わない」 「もう、もっと反省が必要なんじゃない?」 「メル様、違うんです。僕が…」 「エルももうお終い。デトレフの事思い出したくないんだよね。特にエルがあいつに何したとか、さ」  僕、デトレフ様に何かしたっけ…?  う、ヴィル様の目が怖い。    そうだ、薬飲ませたんだよね。薬。口移しで……。  え、もしかして、ヴィル様このこと知ってるの? 「よくもまあ、そこまで変われるもんだな。独占欲丸出しじゃねぇか」 「兄上、ちゃんとこれまでの事話したんだよな?」 「当たり前」 「それでもいいって? エルヴィン、本当にこんなに酷い人間でもいいのか?」  やっぱりヴィル様の扱いが酷い…。  それだけ荒れてたってことなんだよね、きっと。全然そんな風に見えないけど。何でも余裕で躱してるって感じだから。  それに、やっぱり僕にはヴィル様が酷い人って言うのが理解できなくて。 「酷いヴィル様を見たことがないから、逆に僕なんかでいいのかって…。それに今までそうだったとしても、ヴィル様の事信じるって決めたから、」 「エル…」  ヴィル様が痛いぐらいにぎゅーって抱きしめてくれる。    お二人は驚いたみたいに目を見開いてヴィル様の様子を見てた。やっぱり珍しいのかな、こんなヴィル様。 「そうか。お前さんがそういうなら俺たちが口出すことじゃないな」 「何か安心した。――エルヴィン。兄上の事よろしくな」 「は、はい」  なんだかすごく重要なことを任された気がする。大丈夫かな…。 「エルヴィンは俺のお義兄さん、になるんだよな。じゃあ、エルヴィン様って呼ばないと」 「ええっ、そ、そんな、今のままでお願いします。そんな恐れ多くて」 「……もしかして兄上――」 「子供が生まれたら、メルヒオルは叔父さんだね。18歳で叔父さんかー」 「あ、ああ、そうだ! いつ? いつ生まれるんだっけ?」  メル様何か言おうとしてたけど、何だったんだろう。 「多分、後一月ほどだと思います」  治癒院に行ってもう一度ちゃんと診てもらわないとね。里では長老様が代わりにしてくれてたけど、龍とは勝手が違うかもしれないし。 「そっか、俺、叔父さんになるんだ…。なんか変な感じ。ジェラルドは年相応って感じだけどさ」 「おい、そこまで老けてるつもりはないぞ」 「その格好どうにかしてからいいなよ」  うん。団長さんは相変わらず寝ぐせに無精ひげ。絶対整えたらカッコいいと思うんだけどなぁ。 「はいはい、二人で勝手にやっといて。もうエル休ませないと。もうすぐセレノアが来るし、ハイ解散」 「もうそんな時間か」  団長さんがそういうと、また夕食の時にな、ってメル様が手を振ってくれる。   「ここジェラルドの家なんだよ」 「え、」 「子供生まれるまではここに住むことになったんだ。当分はあの二人と一緒にいることになるから、よろしくね」  ヴィル様はまた悪戯っぽく微笑んだ。    実はメル様とジェラルド様の式はまだ挙げてないみたいなんだ。ヴィル様がお兄さんだし、先にした方が良いだろうって時期をずらしたんだって。申し訳なさすぎるよね…。  この子が生まれたらヴィル様と僕の式をして、その後にお二人のってことみたい。  なんだか信じられない。本当に結婚するんだ。  結婚。  本当に僕なんかでいいのかな。うう、不安だ。  今は子供の事だけ考えてって言われたけど、じっとしてると色んなことが不安になってくる。  魔道具から薬草取り出して部屋でゴリゴリしてたら、ヴィル様に驚かれちゃった。でもこうしてると安心なんだよね。  それを見かねたヴィル様が僕のために調合部屋を用意してくれて、ヴィル様がお仕事に行ってる時は調合して暇つぶし。    お休みの日には、レオンハルト様やディー様、マティアス様、それに隊長さんや焔亭のマスターまで会いに来てくれて、申し訳ないやら嬉しいやら。僕の探すを手伝ってくれたって聞いて、もう頭が上がらなかったよ。    治癒院で僕の事診てくれた治癒師さんはなんとレオンハルト様の伴侶さんだったんだ。もうびっくり。世間って狭いよね。  その伴侶さんのセレノア様が僕の主治医になってくれて、僕も安心して過ごせたんだ。    それと、おじいちゃんから継いだお店はまだ残ってるよ。  売り子さんを雇って、そこで僕の薬を売ることしてもらったんだ。    これもヴィル様の計らい。  今までお世話になってたお客さんにも変わりなくお薬を届けられるから、本当に嬉しかったんだ。    だから僕は団長さんのお屋敷で薬草採取の依頼を出して、その薬草でお薬作ってるだけ。  たまにヴィル様と街の外で採取ついでにデ、デートしたりもするよ。  この間は最初に一緒に行った丘まで連れて行ってくれて、なんだか感慨深かったな…。  こんな生活してていいのかな。  すごく甘やかされてるよね…。    でも、なんだか大事なこと忘れてるような気がするんだけど、何だろう?

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