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皆知ってたの? 

 どのぐらい抱きしめあってたんだろう。  ヴィル様の腕の力が緩んで、お互いの顔を見合わせると、自然と笑みがこぼれる。  そのときにはいつものヴィル様に戻ってた。残念。 「エル、そろそろ行かないと。長老と話がしたいから、案内してくれる?」  長老様に何か用事あるのかな。  ちょっとヴィル様と合わせるのが恥ずかしい。噂の高貴な人だからね…。  ヴィル様に里を案内しながらも、まだここにいるヴィル様は幻影か何かじゃないかって、ずっとちらちら見てたけど、その度に呆れずににっこりと微笑んでくれる。    皆、まるでヴィル様が来ることを知ってたみたいに里の広場に集まって待っていた。  そこにラルスもニヤニヤしながら立って、こっちを見てて…。  もしかして、ヴィル様が来ること知ってたの?  もしかして、皆知ってた?! 「よく来てくれたねぇ。こんな辺鄙んとこまで」  長老様が皺を濃くしながら、にっこり笑う。ヴィル様はそれに応えるように長老様の前まで足を運んで、片膝を地面に付いて礼をした。  二人が小さな声で話してる所為で、何話してるか聞こえないよ。  うーん、気になる。  そう思ってると、長老様がパンパンと手を叩いて、注目を集めると、話し出した。 「ま、皆も知っとろうが、エルヴィンの番のヴィルフリートじゃ。|今は(・・)騎士をしておるらしい。エルヴィンと添い遂げるには適任じゃからな、輿入れさせようと思う。エルヴィンもそれでいいんじゃな?」  ふぇっ、僕!?  こしいれって、なんだろう。  こんな雰囲気で聞けない…。  添い遂げるって言ってたし、伴侶になることでいいのかな。それなら、 「はい。もちろんです」  ふむ、と長老様は僕の答えに頷いて、ヴィル様を見て、何か促した。  ヴィル様はゆっくりと僕の方に歩を進めて、跪いて、僕の手を取った。その動作が余りにも優雅で僕はぽーっと見惚れてしまって、目の前で何が起きてるのか、頭に入ってこなかった。 「エル。エルヴィン、一生大切にすると誓う。俺と結婚してくれないか」    けっこん。けっこん。けっこん。    けっこんって、けっこんって。    さっきやっと収まったばっかりの涙が、ぶわって、ぶわって。 「ぼく、ぼくけっこん。ヴィルさまのこといっしょうけんめいたいせつにするからっ。ぼくとけっこんしてくださいぃ」  自分で何言ってるかわからなかったけど、ヴィル様は優しい眼差しで涙でぐちゃぐちゃの僕を見上げてにこりと微笑んでくれる。けれど、すぐに俯いてしまう。  その肩は震えてて、もしかして泣いてるの?、って思うと僕の涙はぴたりと止まった。 「ヴィル様…?」  肩の震えがどんどん大きくなって、終いには、くくっ、って聞こえた。  くくっ、って笑ってるのヴィル様!? 「あー、だめ、耐えられない……ふ、っく…」  周りにいる皆まで忍び笑いして。全然忍んでないけど…。  僕、なんか変なこと言った?  すっごくいい感じの雰囲気だった気がするんだけど、吹き飛んじゃったのって僕の所為?   「やっぱりエルはエルだね」  って言いながら、僕の事を抱き寄せてくれるけど、堪えきれずにまた噴き出した。  う、ひどいヴィル様。 「すごく嬉しいよ、エル。俺の事、貰ってくれるんだね」    また、くくって笑うヴィル様。  ごめんごめんって言いながら、おでこにちゅってキスされて、やっぱり許してしまうんだ。  もう僕って…。   「まあ、こんな子だけど、頼んだよ」 「はい、長老。――また、子供が生まれたら、お披露目に来ます」 「わしもまた顔を見れるのを楽しみにしておるよ。生まれた折にはあんたのことちゃんと教えてやりな」 「はい、そのつもりです。今はお腹の子に障りますし、また逃亡する可能性もありますから。それまでにしっかり外堀を埋めておきます」  話について行けないけど、ヴィル様と長老様はなんだか仲が良さそう。前から顔見知りみたいに見えるけど、どうなんだろう? 「エル、またすぐに戻ってこれるけど、皆に挨拶しておいで。もう時間がないから、できるだけ早くね」  僕はそうヴィル様に急かされて、広場に集まった皆と軽く言葉を交わした。 「ラルス、知ってたんだね。ヴィル様が来るの」 「そりゃあ、長老が祝い事だからって言いふらしてたし。知らないのはエリーだけだよ」 「う……」 「まあ、あいつもなかなか面倒な運命背負ってるし、ちゃんと支えてやれよ」 「うん、できる限り頑張るよ」  なんだかラルスまでヴィル様と知り合いみたいなんだけど…。なんで?  ラルスと別れを惜しんで、長老に挨拶して、「幸せにおなりよ」って言われて、また目が潤んじゃった。  最後はヴィル様に抱っこ…うん、抱っこされながら、皆に手を振って、感無量。  涙ながらも、どうやって帰るんだろうと思ってると、ぐわんって視界が揺れた。 「ほら、着いたよ」  ってゆっくり降ろされたところは、ヴィル様の豪勢な部屋と似た作りの部屋だった。 「ヴィル様って……」 「うん。転移魔法使えるから」  やっぱり…!?  転移魔法って、え?、転移魔法!?  転移を使えるのって、   「賢者、さま……?」    ヴィル様は悪戯が成功した子供みたいに満足そうな笑みを浮かべて、 「まだ卵だけどね」  と言いながら、僕を押し倒してきた。  もう少し、ヴィル様が賢者の卵だったってことに驚かせてほしいんだけど。    えーっと、この展開って…。  ゆっくりヴィル様の端正な顔が近付いてきて、紫の瞳に射すくめられて、僕はもう動けなくなる。 「……ぅ、んん……ふ、ぁ……」  ヴィル様の唇が触れてる。舌を吸われて、甘噛みされて、もうダメ。一気にヴィル様から与えられてた快感を思い出して、体が疼いてしまう。  熱い。熱くて堪らないよ。 「…ン、…ヴィルさ、……んぅ……っ…」  何度も何度も唇が降ってきて、息継ぎする時間さえも与えられなくて、苦しさと気持ちよさがごっちゃになって頭がおかしくなりそう。  ちゅっちゅ、って啄むようなキスをしてヴィル様が離れた時にはもう、ぐったり。新鮮な空気を求めて、全速力で走った時みたいな呼吸になってた。   「抱いていい?」  耳元で囁かれたその声に、心臓が跳ね上がる。僕が頷くと、ヴィル様は服のボタンを外し始めて。  久しぶりでとっても緊張する。なんだか初めての時よりもドキドキしてるかも。  開けた所にヴィル様の唇が触れて、徐々に降りてきて、体中にぞくぞくって気持ちいい波が広がる。  ヴィル様にまた触られてるんだ。  もう会えないと思ってたのに。  嬉しくて、嬉しくて、ヴィル様をもっと求めてしまう。  ヴィル様の唇も指も肌も、触れるところ全部が気持ちよくて、もう感情が抑えられない。 「ヴィルさま、はやく、はやくほしいよぉっ……んんっ…」  噛みつかれた、って思うぐらい激しいキス。  求められてる。  ヴィル様に求められてる、そう思うと我慢できなくて、腰が揺れる。  はしたないってわかるけど、もうほとんど理性が効かなくて、だだ目の前にあるヴィル様の躰を抱きしめて、欲しがった。  慣らしもそこそこに香油が垂らされて、宛がわれた熱に涙が溢れだして止まらない。  エル、入れるよ、って焦りを帯びた掠れた声に全身が粟立つ。    ヴィル様、ヴィル様!  与えられる刺激が全部快感になる。もうおかしくなる。   「ごめん、優しくできない」  必死に頷くと、一気に奥まで入ってきて、頭の天辺からつま先まで電気が走ったみたいに快感に埋め尽くされる。 「…っ…ぁああっ…」  熱い。  熱い。 「あ…あっ…んぁ」  感じる奥を叩きつけられるみたいに何度も激しく突かれて、一気に頭の中が真っ白になる。 「も…くるっ…あ、ぁ…、ぃ、ぁああぁァっ!」  揺さぶられて、キスされて、僕ができることはヴィル様にしがみいて、恥ずかしい声を上げることだけ。  肩口にかかる荒い息。  時折落ちてくる汗。  余裕のない獰猛な眼差し。  何もかもが愛しくて、何もかもが刺激になる。 「ヴィルさま…すき、すきっ…」 「エル…愛してる、エル」    こんなに誰かを求めたのは初めて。    何度か達して、興奮が収まってきても、ずっと繋がった状態で抱き合って、キスをして。  襲ってくる興奮の波に身を委ねて、再開する。    世界に二人しかいないみたいに、お互いだけ見つめて、求めて。  そのままお互いを抱きしめ合ったまま眠りにつく至福の時。  ヴィル様、  大好き、ヴィル様。

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