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いつものこと 後編

「ユ、ユリウス殿下!」  驚きで裏返った声を出したアドラー先生は頭を深々と下げてから、簡単な自己紹介をした。  誰に向かってかって言うと、僕の隣でほんのりと綺麗な笑みを浮かべてるヴィル。  はぁ、今日もカッコイイ……――って、なんでいるの!?  昨日一人で頑張ったのに、ヴィルが来たら僕の頑張り意味なくなっちゃうよ! 「マルセルの事をお願いするんだから、一度は会っておかないとと思ってね。――アドラー、マルセルの事よろしく。あの子は大人しいけど、芯をしっかり持ってて、譲れない所はしっかりと言ってくるはずだから、誤魔化さずに物事をしっかりと説明してやって欲しい」 「はっ」  わぁ…、ヴィルがしっかりお父さんしてる。  うう、カッコいいよぉ。甘いヴィルも好きだけど、きりっとしたヴィルはなかなか見れないから、目が離せなくてぼーっと見つめてしまうんだ。    会話の内容もそこそこにヴィルだけ見てるとか、アドラー子爵には失礼だとは思うんだけど、ヴィルがカッコよすぎる所為にしておこう…。    でも、後ろから向けられる視線は何だろう。  僕がちらりと振り返ると、扉の横に控えてるレオン様が原因だった。ヴィルの後頭部に突き刺さってるのが見えるぐらいの視線を送ってる。  ……多分、時間ないんじゃないかな…ヴィル…。もしかして忙しい中、様子を見に来てくれたのかな。    ヴィルとアドラー先生の談笑はちょっとの間続いて、痺れを切らしたレオン様が「殿下」と声をかけたのを見て、僕はホッとした。僕が「時間大丈夫?」って目線で訴えても、にっこり笑顔で躱されちゃったからね…。  じゃあこれで、と優雅に立ち上がったヴィルを僕は扉の所まで見送る。レオン様に目で急かされながらもヴィルはアドラー子爵を振り返った。 「――ああ、それと、薬草の栽培にも興味があるとか。|俺の伴侶(・・・・)とも話が合うとは思うけど、ほどほどに、ね?」  そうアドラー先生言ってから僕に笑顔を向けて、頬を撫でながら「行ってくるね」とチュッとキス。その一連の動作にキュンって胸がときめいて、もううっとり。  もう、ヴィル、そんな別れ際に反則だよ…。もっとぎゅーってしたくなるし、離れたくなくなるよ…。  僕はヴィルと離れたくないって思いに胸をギューギュー締め付けられながらも、凛々しい背中を見送って扉を閉めた。  ふーって息を吐いて…、うん、気持ちを入れ替えなきゃ。  静かだったし、てっきりマルセルとアドラー先生はもう勉強を始めてるのかと思ってたら、二人ともソファーに座ったまま。  アドラー先生は顔を真っ青にして固まってて、マルセルはそんな先生の顔をジーっと観察してる…。 「マ、マルセルどうしたの?」 「……こんなふうになるんだって見てるだけ」 「…見てる、だけ…?」 「僕、先生と二人で勉強できるし、母上はお仕事に戻っても大丈夫だよ」 「先生、顔色が優れないし、温かいハーブティでも…」 「大丈夫だよ、母上」  マルセルはそういうとニコリとヴィル譲りの綺麗な笑みを浮かべた。  そ、それって…、もう僕は必要ないってこと…!?  マルセルに邪魔とか思われてたらどうしよう!    でも、反抗期とか、そういうのって子供の成長には必要だっていうし、これも第一歩なんだよね。  ここは温かく見守ってあげないと、うん。 「じゃあ、お仕事に行くことにするね。何か困った事とかあれば、すぐに連絡するんだよ」 「はい、母上」  もう一度にっこり笑うマルセルと、カチコチに固まったままのアドラー先生。マルセルより先生の方がちょっと心配だけど、大丈夫かな?  ヴィルが突然来たし、きっと緊張したんだよね。僕もヴィルと初めて会ったときはあんな風になってたと思うし。  さ、今日も調合頑張んなきゃ!  気を引き締めて、僕は調合室に向かった。 「おはよー、エルちゃん。…あれ? 早かったね」  調合室のドアを開けると、木箱から薬草を取り出して振り分けてるディー様が振り返った。 「おはようございます。そうなんです。マルセルにいなくても大丈夫って言われてしまって…」 「へぇ、殿下が?」  ふーん、とディー様。 「今日はヴィルも顔を出してくれたし、マルセルも」 「えぇ? ヴィルも行ったの?」  僕が「はい」と答えると、ディー様は「今日って…」と呟いてから、考え込むように顎に手を当てて数秒固まった。 「ね、エルちゃん。殿下の家庭教師って昨日からだよね? 何かあった?」  何かあった…かな? 「昨日はごく普通に先生とお話しただけです。先生が薬学を専攻されてて、温室を案内して……そのぐらいです」 「あー、なるほどね。うん、わかった」  何が分かったんだろう。   「じゃあ、エルちゃんにアドバイス。明日からマルセル殿下の所には顔を出さずにここに直接来ることをおススメします」  と、ディー様に言われたものの、そういう訳にいかなかったのは、アドラー先生に欲しくて堪らなかったテキストをもらう予定だったからだ。  それなのに、なぜかそのテキストはヴィルが取りに来たっていうし、マルセルは深くため息をついている。  当の僕はただただ首を傾げた。    でも、それが失敗だったと気付いたのは、その日の夜だった。    ヴィルがとても綺麗な笑みを浮かべている。 「どうしたの?」  そう聞けば、ヴィルはフフと笑いを零した。 「今日、マルセルの所に行ったね?」 「うん、行ったよ…?」 「何しに行ったの?」 「えっと…テキストを貰いに…」 「それってわざわざエルが取りに行く必要ある?」  確かに僕が直接貰いに行く必要はないかもしれないけど、早く手に取って見たかったんだ。でもそれが何か問題あるの? ないよね? よね? 「もう少し自覚を持った方が良いね」 「自覚って……?」 「エルは自分が誰の伴侶か覚えてない?」    ヴィルの笑顔がキラキラと輝いてる。  え…、まさかこの展開…。    「そんな酷い子にはお仕置が必要だね、エル?」    ぎゃ――――! やっぱりぃー!   「あぁ……ヴィ…ル…ん……あ、ぁあ…」  お仕置なはずなのに、ヴィルが珍しくすんなりと中に入ってきて、僕を責め立てる。  あぁ、きもちいいっ…!  全身がジンジンと熱を持って、真っ白に蕩けてしまいそう。  甘やかされた僕の体はヴィルによって簡単に快感を引き出されてしまうんだ。   「…んぁ…ぁ、ああ…ヴィル…ぅ…あ、ああっ…」  ヴィルの熱が僕の欲しかったところを擦る。  波が頭の天辺までせり上がってきて弾けそうで、僕はギュっとヴィルにしがみ付いた。    くる…っ!    頭の中が真っ白になって宙にふわりと浮かび上がる感覚を期待した。でも、それは来なくて…。   「……っ…、?」  僕は唐突に動きを止めてしまったヴィルを窺った。そこにはいつもと変わりない笑みを浮かべたヴィル。  直前まで上り詰めていた熱がゆっくりと冷えて、物足りなさで体の奥が疼く。こんなことは初めてで、困惑を隠せなかった。    えっと…、  僕がもう達したと思ったのかな…? 「エル? どうしたの?」 「…えっと…なにもないよ…?」  そう?、と僕の額にチュッとキスをしてから、ヴィルは中のものを引き抜いて、僕の体をころんと裏返しにする。  おしりを高く上げるような格好をするのは、本当は恥ずかしくて嫌なんだけど、気持ちいいから仕方ないよね…。  おしりにヴィルのものが触れて、ゆっくりと入って来る。   「…ぁ、ぁ…ぁあっ…」  さっきのもどかしさも相まって、満たされるだけで軽く痙攣しまう。  背中にヴィルの引き締まった肉体が触れて、体温が伝わってくる。それが気持ちよくて、僕の口からはいやらしい溜息が出た。 「気持ちいい? エルの中、きつく締まって俺のこと離したくないって」 「……ゃ、あ……そんな…の…っ…ぁ…ん…」  耳元で囁かれるヴィルの声は優しいのに、意地悪さを内包していて、否が応でもゾクゾクさせられる。  それに自分でもヴィルのこと締め付けてるってわかってるんだ。その所為で、僕も気持ちよくなってしまうから。  どれだけ唇を噛んで声を抑えようとしても、顔の筋肉に力が入らなくて、口が勝手に開いちゃう。 「んー、ぁっ、…あぁ……あっ」    じんわりと汗が浮かんで、吐息が湿りを帯びる。つま先に力を入れれば背中を快感が駆け上がって、脳が痺れて——。  なのに、その瞬間、またヴィルが動きを止めた。 「……っ…」  うそ…。  どうして…?   昂った体が異常なほどの喪失感を感じる。  欲しくて欲しくて仕方ないのに…。  それが体位を変えて数回続けば、どうなるかなんてわかりきってる。頭がおかしくなりそうで、我慢できずに叫んでしまった。体の熱が解放されずに荒れ狂って、ヴィルの体に縋りついて咽び泣いた。 「ヴィル、おねがい……おねがい…止まらないで…ッ!」    みっともなく泣きながらヴィルを見上げれば、ヴィルは僕の頬を優しく撫でて、キスを落とす。 「欲しいならちゃんとおねだりしてごらん? お仕置だから、訊いてあげれるか分からないけどね?」  穏やかに細められた瞼から覗く紫の瞳は宝石のように美しくて。  でも、僕はヴィルの言うことを理解できないほど飢えていて、自ら腰を揺らめかした。はしたない姿を見せてるってわかってるのに、とめられない。 「…あ、あぁ…ヴィルっ……動いて…!」 「自分で動いて、俺にいやらしいエルを見せて?」  跨ぐようにしてヴィルを受け入れると、脳天まで快感が突き抜けていく。  欲しかった奥に当たって、僕はそこにグイグイと押し付ける様にヴィルの上で跳ねた。   「あ…ぁあ…っ…、…ん…ァッ」 「ふふ…かわいい」 「ヴィル、ヴィルっ、…きもち、ぃ……きもちよぉ…」 「上手だよ…エル」  ヴィルに見つめられて、体中が快感で満たされて、白く霞みがかる。 「…あ、……ィ、くっ―――!」  仰け反った僕をヴィルは引き倒すと、ベッドに転がした。上から圧しかかるように、痙攣をおこしている奥を深く抉られて、息もつけない。  狂いそうな快感に声にならない悲鳴を上げた僕の口をヴィルはその形のいい唇で塞ぎ、腰を打ち付ける。  ヴィルの熱に包み込まれるような真っ白な幸福感を味わいながら、僕は再び頂きへと舞い上がった。  ***   「で? 起きれないの?」 「はい…。すみません」 「もー、俺ちゃんとアドバイスしたのに」  全身筋肉痛で動けず寝込んだまま、呆れ顔のディー様に頭を下げた。お見舞いに来てくれたマルセルにもなんだか冷めた目で見られてる気がする。   「でも…ヴィルがそんなに気にしてるなんて思ってなくて…」 「まぁ、エルちゃんがヴィルしか見てない、ってことぐらい俺は分かってるけど、ヴィルはエルちゃんが可愛くて仕方ないんだから、ちゃんとわかってね?」 「……はい…」  頷いてみたけど、僕だってヴィルのこと大好きで仕方ないんだから、僕だけお仕置を受けるなんて、なんだか酷いよね? 「ん? 何か言った? エル」 「え、…」  声がする方を見てみれば、そこには僕が愛してやまないヴィルの姿。昨夜あれだけ乱れてたことが想像できないぐらいヴィルはカッコよくて……——って、いつの間に戻って来てたの!?  僕が横になってるベッドに腰掛けると、優しく髪を撫でてくれる。ヴィルはにこにこしてとっても綺麗なのに、僕はひやりとした。 「まだ足りなかった?」 「な、何にもないよ! 全然何にもないから!」  僕はお布団を頭から被ってヴィルのなんでも見透かすような紫の瞳から逃げた。  そうすれば、 「いつものことなんだから…ちょっとはさ…」  と、呆れたマルセルの声とため息が聞こえたような気がした。       

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