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第五章◆石ノ杜~Ⅱ
晴天下を緩 やかに流れる雲は、氷塊 の糧 となり消え失せた。
広大な樹林帯に突き刺さる氷槍 、上部より。
地上へと走る亀裂を追って崩落していく塊片 もまた、
音も無く水化 し虹を帯びる。
気圧の変化に渦巻く気流も、やがて静まった。
一時的な嵐を避 け、森に降りていた鳥の群れが一斉に飛び立つ羽音を耳にし。
まず、目覚めたのはチェシャ。
そよぐ風の穏やかさとは対照的。
先まで見ていた薄暗い夢の音声が、いつまでも耳に残る。
長らく行動を共にしていた男の人生を変えたであろう災難は、
とある娼婦から捨て子と思わしき、彼 の少年を預かった日に始まり。
血ノ奴隷を密売する何者かの奇襲を受け、命を落とすまで続いた。
『あんたさ、女、子供もいないんだろう? 私 が故郷に帰ってる間、
この子を預かってくれないかい? もちろん、タダでとは言わないからさ』
我が子のように可愛がってくれた女性とは、それきり。
保護符でもある勲章 を取り上げ、質屋に出した男の自業自得とも言える話だが。
『確かに ... 本物の魔青鋼 だね。どこで手に入れたんだい?』
『知り合いの錬金術師からだよ』
『ふぅむ。錬成には免許が必要だし、取引するにしたって
政府の発行する認証符号の刻印が必要なはず。
だが、これには無いね。どういうことだ?』
それが無いと危険だと伝えようにも、片言では理解してもらえず。
夜 ... 多くの人々が、町に群がる魔物 の餌食となったのだ。
不幸中の幸い、流浪 の傭兵だった男が勲章 を奪還するも。災難は続く。
何処 へ行くにも、人や魔物の悲鳴と躯 が付き纏 った。
《御影 ノ騎士》とは名ばかり。
勲章 を取り返した当時。
男の手に焼き付いた聖蓮 ノ印章は、彼に力を与えたが。
同時に縛りもする。彼にとっては呪いも同然なのだ。
『置き去りにすれば印章に殺されるってワケか。
クソが。一体、何者なんだ ... おい、聞いてんのか?』
--- おい ... !
名も与えずに呼びつける。
夢の中の男は、まだ人の姿をしていた。
既に懐かしい。
余韻に浸るチェシャは、遠い目を空に向けたまま。
今度こそ、失わずに済むだろうか ... ...
そんな事を鬱々 と考えていた。
だが、そこで我に返り、ヒャッ!! と飛び起きる。
そう言えば、あの空から真っ逆様に落ちたはずだが。
フェレンスとカーツェルは、どうしたのだろうかと。
あれ、でも ... ...
左右に人影があったと思い返し、恐る 々 目を向けた。
右側、フェレンス。左側、カーツェル。
見て一安心。
両者共に原型を留めているし、息もあるよう。
だ、け、ど ... ...
何で、この人、裸なの !!?
カーツェルの姿に戸惑った。
「 ウゥ ... ムゥ ... !! 」
誰も居ないはずとは思うが、つい キョロキョロ と辺りを見回してしまう。
そして、あらためて見るも。やはり全裸なのだ。当然だが。
股間の急所は、身体 の前に出された逞 しい太腿 に辛うじて隠れてはいる。
しかしコレは、こちらが少しでも顔の角度を変えたら見えちゃうやつ。
絶対、見えちゃうやつ!!
思わず二度見してからチェシャは、すっくと立ち上がり、
黙々とフェレンスのローブを脱がせはじめた。
そして、下から抜き取るついでにフェレンスの身体を寄せて並べ、
上からローブを掛けてやるのだ。
ふんわり空気を含ませ、そっと ... そっと ...
こうすれば、カーツェルが負った凍傷にも利くはず。
フェレンスが用いる治癒のローブは、折り襞 を含め、たっぷりと面積があるので余裕。
それでも、すっかりと身体が隠れるよう気を配った。
歩いては、しゃがみ込み。
隈無 く見て回るチェシャは、納得すると一言。
「 ン ! 」
よし、もう大丈夫。とでも言うように頷 いて、その場を少し離れる。
何かを探しているようだが。
木立 に入ったところ、草の合間から ジャリリ ... と音がして立ち止まった。
見ると、砕けた貝の殻かと思うような、砂利 ... だうか。
それとも生き物の骨? ... 見えなくもない。
何にしろ、森の土壌に相応 しからぬ地質と感じた。
不可思議。
見渡す樹々は幹の表面を白石で覆われ、葉ですら粉を吹いている。
それ以上、踏み入ってはいけない気がして、チェシャは振り向いた。
岩棚の影を見ると、石の捲 れた箇所から土が覗いていたので、駆け寄って探す。
日陰の湿りを好む草 ... そう、これ。
いくらか摘み取り、河の水で洗ったうえ手で揉みながら戻ったのは、
二人の肌に汁を塗ってやるためだ。
ペタペタ ... スリスリ ...
足りなくなったら、また草を摘みに行って戻るを繰り返す。
せめて、虫に喰われぬよう処置してやりたいと思ったのだ。
一行は旅慣れている。
何 れ追手を手配されようとも、目的を果たすために上手くやり過ごすのだろう。
けれども ... ...
ある人物は密かに、彼らの行く末を案じていた。
古めかしい錫色 の岩壁際に並ぶ、低めの本棚と向き合い。
スフィアの投影する国営放送を眺めているのは、老年の神父。
「帝国司法は恩赦 を撤回する事こそ無かれ。
公判中の逃亡と見做 したうえ、軍事行政面から訴追 するつもりのようですね」
短めに揃えた白髪混じりの頭髪に顎髭 。
白祭服姿が振り向くと、三角帽子を背中に垂れ下げた老人が、こう言って返す。
「やはり、情が移ってしもうたか?」
続報を待ち望んでいる様子と見て、心中を察したのだ。
木の椅子とテーブルに着き、せっせと金勘定しながらの質問。
ふさふさとした眉の下から刺すような視線を注 がれ、神父は苦笑いした。
「ご存知でしょう? 祓魔師 だった私が改 め叙階 し、修道司祭の位 を授 かったのも、
あの子に取り憑いている亡霊 が悪影響を与えぬものか、見張る必要があったからです」
「ふむ」
「ここに収容された ... あの子は、十代半ばの少年に見えましたが。
会話から受け取れる知識の広さは識者並。私が学ぶことの方が多かったのですよ。
なのに、他人の考えや行いには無関心で ... 」
「じゃろうなぁ」
尋 ねておきながら聞き流しているようだが。
勘定に余念のない老人は、椅子よりずっと短い足を プラプラ と振り、
目の前に並ぶ銀貨を手持ち袋に収めながら、こうも言った。
「とは言え、あの《人外》の事なら心配無用じゃろうて」
「さすが ... あの子の身の上、見抜いておられましたか。
《ウォルテアの秘術師》の異名は伊達 ではありませんね」
「彼奴 め。儂 が読心と催眠の秘術を継いでおる事まで、予 め知っておったのじゃ。
帝国政府や軍部の思うままになっとったのも、人目を欺 きながら行動するより
組織に属したほうが情報を得 やすいうえ、《異変》の追跡も容易である故 と。
語りはせなんだが。心中 ... 一切、隠しはせんかったよ」
「いやぁ、御見逸 れしました。あの子の友人からは
いつも釣り銭をちょろまかす、ただのチビ耄碌 ジジイだと聞かされておりましたから」
「 ブフォッッ !!!! 」
ところが、思わぬ切り返しを食らったものだから。
出されていた茶を啜 っていたところ、思い切り吹き出す。
方や神父は、老人が茶の滴 る髭 を両手で絞りながら
ブツブツ と不平を垂 れ流しているのに、見もせず聞かぬ素振り。
黙って手持ち袋から、釣りに足る硬化だけ拾ってテーブルの上に戻した。
「若造めが ... 未熟者の分際で言うてくれるわ。
次に会 うたら一捻 りにしてくれる ... 」
「返り討ちに遭 いますよ? あれでも公爵家の御子息ですし、今となっては ... 」
そして躊躇 う。
言うに堪 えない話だった。
帝都ではこう伝えられている。
異端ノ魔導師に肩入れしていた公爵第二子は魔物 と化した。
随行員 として同行した旅の末に、取り憑かれたのだと。
彼を《魔導兵》として利用すべく、異端ノ魔導師が用いたのは禁断ノ契約である。
神々ノ器と成 る代 り。
身も心も蝕 まれた彼は、超級に格付けされるような魔物へと変貌し、帝都を襲った。
飛空艦隊に搭乗する錬金術師団との対峙を避けた異端ノ魔導師は、彼を連れ立ち逃亡。
神父が振り向くと、帝国政府の見解が述べられる。
《 我々は軍を挙げ速やかに追跡し、彼等を処罰せねばなりません。 》
同様に見やる老人が無言で大福帳を差し出すと、神父もまた黙って名を記 した。
----- Lionel Welttrich
異端ノ魔導師を収容し身の回りの世話を請け負った修道士、
及び司祭は現在、謹慎中の身。
禊 に使用する霊草 の配達に訪れた老人は、特別に接触を許可されているのだ。
「私は、あの子の父になりたかった ... 。
討伐のために遠征し、多くの命を犠牲に罪を被って帰還する、
あの子を迎える度、思ったものです」
ここ、ウェルトリッヒ修道院、中庭の水場に霊草 を浮かべ。
月影の下 、清めの儀を執り行い。
あの子の白い肌を流してやっては、その身体を両腕に抱いて。
『あなたの負った汚れ、あなたに向けられる憎しみ、全て。
この私が祓 って差し上げよう。 ... そして ... 』
「いざという時は命に代えても、潔白を証明しようと」
老人は帳面を閉じ、硬化を収めた手持ち袋と共に静々と懐 にしまった。
それから ヒョイッ と椅子を飛び降りて、籠 を背負 い込むとする。
「その時が来たという訳かのぅ」
「そう。あの子は《記憶の番人》であると同時に、
《神々ノ剣》でもあるのだと。私は、そう思っています」
「じゃが ... 異端審問の場では申すな。無駄死にするつもりではなかろう?」
「そうですね。私は、無駄とは思いませんから」
「 ... ... 」
今更。止めようとする事こそ無駄と悟った。
これが親心か ... ...
一方的であろうと、真心を示さんとす。
一人の男の生き様を、せめて記憶に残しておくとしよう。
しかしあえて、別れを言わずに老人は立ち去った。
彼等を見張る役人と報道関係者で溢 れかえる修道院、表を避け。
裏手を出る際 に、許可証を広げて見せたうえ、
今一度、振り返り見上げてみたが。
先程まで居た一室には、もう ... 人の気配は無い。
異端ノ魔導師の追跡に伴 い。
参考人招致された司祭の言動が異端に問われたのは、昨日 。
聖人崇拝的思想は神教観点から異端視されているため、
神父の試みは極めて危険と言えるのだ。
だが既 に囚われの身であった彼等は、
自分達の真心を誰かの胸に留 めなくてはと考えた。
その誰かが、己の自由と引き換えにしてでも《あの子》を支えてくれるかもしれない。
都合よく行くわけも無いのに。
改 め異端審問に架けられた ...
彼をはじめとする修道士達は、如何様 な刑に処 されるだろう。
一部の人々からは、絶大な支持と信頼を向けられる。
異端ノ魔導師よ ... ...
「精々、覚悟しておくことじゃ。
お主の連れる若造が、その想いの何たるかを《記憶》に刻むことじゃろうてなぁ ... 」
ぽつり、ぽつり。
独り言を漏 らしながら、老人は思い返した。
公爵家の使いと見受ける黒服の男達が、下町の一角を物々しく取り囲んで見張る様子を。
雨天であるにも関わらず。ご苦労なことだと思い、店の窓から眺めていたのだ。
慰 めてやる気になどならなかったが、早く帰ってもらいたかったので。
とにかく話だけは聞いてやっていたのだが。
カーツェルは一晩中、泣きじゃくって ... 結局、翌日まで帰らなかった。
初めのうち、誰とは言わなかったけれども。失恋話だったと思う。
《 グスッ ... ゥゥ ... ... グズグズ ... 》
終始、カウンター席に居座り、何と言っていたか。
この気持だけ忘れたい。けど、無くしたいワケじゃない。
「だから ... 俺の心に何か暗示を掛けて欲しいんだ。金なら幾 らでも払うから ... 」
そうは言われても、別に金には困ってないし。
彼は、まだ子供。初めての失恋くらいで立ち直れないなんてことはないだろうから。
放っておくのが一番と思われる。
けれども彼はしつこく。こうも言ってきた。
「俺が傍 に居た方が、あいつの《捜し物》だって、早く見つかる ... ! 」
「ふむ ... して、その根拠は?」
「そんな気がするだけだ ... 」
「何じゃそりゃ。話にならんわ」
「でも! もし見つかったらさ!
ジジイに欠片 くらい持ち帰ってやるから! それじゃダメかよ?」
その昔、天空ノ民が保有したと伝えられる、叡智 の結晶。
賢者 の齎 した御業 と、その闇に触れた。
《禁断ノ翠玉碑 》を ... ... ?
老人の気持ちは揺らいだ。
秘術を扱 う者として、興味はある訳だから。
それにしても、そこまでして想いを封じる必要などあるのかと。
問い正しもしたのだ。すると。
「あいつが、フェレンスが忘れてくれって言うから ... !! だから ... 」
あら、びっくり。
彼は、とうとう相手の名を言ってしまう。
なるほど、へぇ ... ...
白々しい老人の反応を見て、彼は気付いたよう。
「 あっ ... ... //// 」
言っちゃった。
そんな顔をしていた。
この、うっかり者めが。
正直、呆れる。
「まぁ、何じゃ。知ってたけど」
爺 は空気を読んで一言、添えた。
だが、そこはだな。
「あえて言うんじゃねーよと !!!! 」
カーツェルは目一杯に声を張る。
両の拳を全力でカウンターに叩きつけたところ、上にある物が一斉 に飛び上がった。
人の羞恥心を弄 ぶな糞爺 が ... ... !!
見透かされていたと知り、胸の中のあらゆる想いを込めずにはいられない。
それでも彼は、俯 き半ベソをかきながら続けて言う。
「けど、さ。俺、忘れたってきっと ...
何度でも ... 惚れ ... なおす、気がする ... つーか、
... ス キ ... になる ... ... ... と、思う。 ... けど、さ ... 」
フェレンスには、きっと隠せない。
見抜かれたら、また突き放されるに決まっているのだから。
「それって、つまり、何度でも忘れなきゃならないってコトじゃん ...
でも、さっきも言ったよな。無くしたくはないんだって ... 」
だから ... だから ...
繰り返す彼との遣 り取りは、夜を徹 し。
他人事には一切、興味の無い老人の気が変わったのも、
はっきりと言ってしまえば、早く寝たい一心から。
そう、かつての彼が異端ノ魔導師に抱いた《想い》は、
ウォルテア地方に伝わる秘術により封じられたのである。
現在の彼に至 っては、知る由 もない経緯だ。
しかし、時を経 ても変わらず。
死に目を見てまで、寄り添い生きる事を望んだ彼は、やがて目覚める。
日の角度が変わり、真上を過ぎた直射を瞼 に受けたせい。
目の前には、木漏れ日の下 で眠る ... フェレンスの横顔があった。
地面に対し横向きに身体 を寝かせたまま、見ていると。
緩 やかに吹き込む風が、サラリ ... 彼の前髪を耳元まで下ろす。
カーツェルは何も考えずに手を伸ばした。
頬を擽 る毛先が眠りを妨 げぬよう、除 けてやるために。
それから、ゆっくりと上体を起こして、彼の顔の横に肘 を突く。
対 の手は、その向こう側へ。
更に顔を寄せると、鼻の先が触れる距離。
美しい銀髪 。
端正 な顔立ち。
一つ 々 確認していくように目を配っていたところ。
愛おしさが込み上げた。
何も意識せず、気を緩 めた彼が自然と見せる ...
この穏 やかな表情を見て知っているのは、もしや自分だけなのではなかろうかと。
そんな優越感もあって。高揚する。
彼は、いつも伏目 がちだから。
人々の抱く印象は冷たい。
人並み外れた、知識と力。
気品ある意識、姿勢。
それら卓越 した要素もまた、異質と認識されてしまうため。
憧れよりも、恐れや嫉妬が勝るのだろう。
孤高の民とは、よく言ったもの。
高位貴族及び上院議員 の秘密結社。
神教徒の過激派。
何 れの輩 も、利用するために彼を追い詰めてきたと言うのに。
嘆 きもせず身を委 ね、巧 みにに立ち回ってきた彼は、
近付こうとする存在が、輩にとっての人質に成 り得 る事も理解したうえ。
極力、寄せ付けぬよう努 めてきたのだ。
瞳を閉じれば浮かぶ。
常に毅然 とし。何気ない動作すら、そこはかとなく優艶 。
この目に焼き付くほど、間近で見続けてきた姿である。
そんな彼が ... ...
魔物として討伐される様を見届けるか、道連れにするか。
何 れにせよ凄惨 な死別を迎えると知りながら。
尚 も、こうして共に生きる道を選んでくれた。
これで、ずっと傍に居られる。
命ある限り、ずっと ... ずっと ...
胸が締め付けられる思いがした。
涙が滲 む瞳を開くと、
眠り続けるフェレンスの瞼 に唇の先を添え鼻筋を下る。
予 め覚悟を決めていた自分ならともかく。
長らく生き、失うばかりの彼にしてみれば、
半永久的に与えられる苦痛にも等 しいのに。
無情の選択を迫られようと、決して躊躇 わなかった。
嗚呼 、愛しい人 ... ...
貴方のためなら。
例え息絶えようとも、必ず生まれ変わって ... ... また ... ...
--- 誓いの接吻 を。
何度でも ... ...
ところがだ。唇が触れ合う間際に脳裏で弾ける閃光。
衝撃を受け、カーツェルは大きく息を吸って咄嗟 に顔を上げた。
「 クハァ ... !! ハァ ... ハァ ... !! 」
違う! 違う!
「違うだろーが!! ... 何やってんだ、俺は ... !」
一瞬にして冷や汗が溢れ出たので、両手で顔を覆 うようにしながら拭 う。
すっかりと上体を起こした彼は、少しばかり蹲 って項垂 れた。
そして深呼吸する。
溜息 に近いが。
我に返ったところで一部始終、覚えている手前。どうにもこうにも。
過去 ... グウィンという男が、どれだけフェレンスを愛していたかを思い知るばかりで。
到底、始末に負えぬのだ。
魔導兵として神々ノ器となるべく、魔人化する手段として。
騎士霊との融合を繰り返した結果、意識に焼き付いた記憶。
フェレンスは瑕疵 と ... 言っていたが。
魔導装置 での整正も効 かなかったのには、何か理由があるのだろうか。
考えられる事と言えば ... ...
何だろう。
カーツェルには想像もつかなかった。
なので、暫 し放心。
ぽかーーーん。
頭の中は真っ白け。
何とも阿呆らしい。
「 ... ... ... ああ!!!! やめだ! やめ!」
終いには情けなくなってきたので、違うことを考えたかった。
するとまた、丁度良く。
嗅 ぎ取った何かに意識を持っていかれる。
「つーか、凄 ぇ匂いだな」
片腕を顔に近付けると、草の匂いがする。
「霊草 か ... 」
真っ先に起きて処置できるのは、あのチビくらいとは思うけれども。
姿は見当たらない。
ともすれば、ここか ... ...
掛けられていたローブを捲 ってみると、案の定。
腰の上に腕を回し、フェレンスに張り付いて眠るチェシャ。
ちょいと手を取り嗅いでみたところ。
うん、臭い。
同じ草の匂いだった。
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