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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅹ (9/29更新)

      昇華(しょうか)した(つえ)を高く()(かか)げた(かれ)指先(ゆびさき)は、 ほんの(わず)かに()()で、 フワリ ... 虚空(こくう)枝葉(えだは)でも()えるような動作(どうさ)下方(かほう)へと(はな)ち、境界(きょうかい)を切り(ひら)く。 すると。 水のように(あふ)飛散(ひさん)する液状(えきじょう)の何かを()びた(しろ)が、(まち)が、地盤(じばん)が、 同質(どうしつ)流動態(りゅうどうたい)へと(へん)じ、流れ()ちる(さま)()()たりにした瞬間(しゅんかん)。 思いも()らず、知ることとなった。 この()存在(そんざい)する(もの)(みな)、 あたかも実在(じつざい)するかのように(うつ)し出された閃影(せんえい)現実(げんじつ)()(ちが)え、 錯覚(さっかく)しているに()ぎなかったのだと。 鐘楼(しょうろう)(ふち)まで歩き、城下(じょうか)見下(みお)ろすクロイツの視線(しせん)(さき)では、 石ノ杜(いしのもり)(ゆう)する(おお)くの(なぞ)正体(しょうたい)が ... 白日(はくじつ)(もと)(さら)されようとしている。 後始末(あとしまつ)()ませ()()けたノシュウェルは、 (ふる)える後姿(うしろすがた)間近(まぢか)に見るなり、立ち止まって躊躇(ちゅうちょ)した。 あれは本当にクロイツなのだろうか。 目を(うたが)うと同時(どうじ)に、自分なんかが(かた)(なら)べ見ていいものか(なや)む。 結局(けっきょく)のところ、二人仲良(ふたりなかよく)(とおい)い目をして(なが)める事と相俟(あいま)ったが。 流動(りゅうどう)する硝子(ガラス)のように変質(へんしつ)した建造物群(けんぞうぶつぐん)を見せられたところで、 理解(りかい)()()かないのだ。 ああ、もう、何と言うか ... ... 「「帰りたい ... ... 」」 その一言(ひとこと)()きる。 何もかも()げ出して寝台(ベッド)(ころ)がり、不貞寝(ふてね)できたら夢のよう。 (めずら)しく声を(そろ)え、口々(くちぐち)(つぶや)く二人にとっては最早(もはや)()かせない。 現実逃避(げんじつとうひ)のお時間(じかん)である。 (しず)みゆくは ... アイゼリア首都(しゅと)中心部(ちゅうしんぶ)蒼ノ細粒(あおのさいりゅう)()した魔物(キメラ)残態(ざんたい)は、 いつしか光媒(こうばい)宿(やど)(ちょう)へと変貌(へんぼう)し、()ノ魔導師を()()いた。 クロイツとノシュウェルは、ただそれを見送(みおく)るのみ。 そう、あれは ... ... 天変地異(てんぺんちい) ... いや、 奇跡(きせき)をも掌智掌握(しょうちしょあく)()異次元ノ才覚(いじげんのさいかく)(さず)けられた。 無我ノ傀儡(むがのくぐつ) ... ... なのに、まるで人のように笑う。 あの日、クロイツの胸中(きょうちゅう)()()った彼は、 何の前触(まえぶ)れも()く、こう()いた。 『人の心は可能性(かのうせい)と言う量子的揺(りょうしてきゆ)らぎに作用(さよう)する意識ノ共晶(いしきのきょうしょう)。  安易(あんい)に心を(ひら)けば精神世界(スフィラ)に意識が溶出(ようしゅつ)()ねないので。  叡智ノ結晶(えいちのけっしょう)直結(ちょっけつ)した中枢(ちゅうすう)(おさ)めるには、危険(リスク)(ともな)う。  高次元学問(こうじげんがくもん)信託者(しんたくしゃ)であるシャンテの(たみ)が、  (おの)ずと叡智(えいち)()れようとしなかったのはそのため。  中枢ノ番人(ちゅうすうのばんにん)(ゆう)する高度(こうど)意識構造(いしきこうぞう)とは、  つまり ... 意識の(いた)(ところ)(かぎ)をかけるかたちで制限(せいげん)、  先鋭化(せんえいか)可能(かのう)にする回路(かいろ)のようなものであり。  それらは、あらゆる次元(じげん)情報(じょうほう)思考(しこう)()(みだ)すのを(ふせ)ぐと同時(どうじ)に、  意識(いしき)耐溶媒性(たいようばいせい)を高めるため、必要(ひつよう)だった。  そうでもしなければ、どうなるか」 はじめ困惑(こんわく)するものの。 聞くうち(むね)()まるのを感じる。 (から)くも、クロイツは答えた。 「心が()け出し、(あな)()いてしまうという理由(わけ)だな」 そう。 彼等(かれら)(もと)より、集合意識(しゅうごういしき)接続(アクセス)する(すべ)()たない。 情緒(じょうちょ)など理解(りかい)する必要(ひつよう)もない存在(そんざい)である。 人の(こころ)(ひら)(かぎ)など、()()わせているはずがないのだ。 それでも、()()(もよお)すほどの憎悪(ぞうお)嫌悪感(けんおかん)(うす)れる(こと)()い。 しかしクロイツは自身(じしん)感情(かんじょう)()(あま)さずして(あつか)方法(ほうほう)()っている。 責任(せきにん)感情(かんじょう)は ... 転嫁(てんか)できるのだ。 これぞ理不尽(りふじん)。 ある意味クロイツらしい。 だが、そもそもフェレンスの(まわ)りに真っ当(まっとう)人物(じんぶつ)がいられるはずは無いので、ご愛敬(あいきょう)。 どうせなら、声に出して言ってやれば良かったとさえ思う。 けれど言葉にならなかった。 (さっ)しは()いたのに。 あらゆる(おも)いの境地(きょうち)(いた)る、人の心に(あな)()く。 霧ノ病(きりのやまい)()ばれる、その症状(しょうじょう)人々(ひとびと)魔物(キメラ)へと()していった。 (こと)発端(ほったん)は、心の開放(かいほう)()す〈(かぎ)〉を(あやつ)(もの)反逆(はんぎゃく)。 さて、(だれ)のことを()しているやら。 何人か思い当たりるので(あたま)(いた)い。 クロイツは思った。 なるほど。つまり、この男は ... ... 鍵を(あやつ)る者と接触(せっしょく)し、 (すで)(いく)つかの(かぎ)(はず)されている不具合品(ポンコツ)なのだ。 ふざけた(はなし)である。 ()かりきっていたとは言え。 嘲笑(あざわら)ってやるでもしなければ()()まない。 何しろ、相手(あいて)異端ノ魔導師(いたんのまどうし)。 だが、このポンコツめ ... ()仕方(しかた)のない(こと)のように()ました(かお)をしているが。 実際(じっさい)には天変地異(てんぺんちい)をも(せい)する(ちから)()(ぬし)である。 (かぎ)(あやつ)る者が(だれ)かなんて問題(もんだい)ではない。 ()()れさえしなければ良かったものを ... ... !! こちとら元軍人(もとぐんじん)でありながら、現実逃避(げんじつとうひ)したくなるような有様(ありさま)だと言うのに。 思い出したが最後(さいご)益々腹(ますますはら)が立ってきた。 それでも(こら)える。 (こら)えるしかないのだ。 今は(おん)()って(かぶ)を上げるべき時であるからして。 ()()る顔で深呼吸(しんこきゅう)をし、 ()()(なお)したクロイツは(ささや)く。 「我々(われわれ)時機(じき)()わねばならぬ。行くぞ」 (たい)しノシュウェルの(ほう)はと言うと、聞いているのか、いないのか。 クロイツに小突(こづ)かれ、ようやく(われ)(かえ)った。 と言うか、悶絶(もんぜつ)鳩尾(みぞおち)肘鉄(ひじてつ)流石(さすが)(こた)える。 ただでさえ(はら)()っているのに、きつい。 聞いてます ... 聞いてますってば ... ... (うめ)くように言い(わけ)するも、前屈(まえかが)み。 クロイツは、そんな彼を急突(せっつ)き前を歩かせた。 しかし、ノシュウェルの足取(あしど)りは(おも)い。 軍師(ぐんし)として当然(とうぜん)。 いざという時は要人(ようじん)安全確保(あんぜんかくほ)(つと)めるべきと。 頭では分かっているのに。 来た道を(もど)るだけなのに。 狼狽(うろた)えずにはいられないと言うか。 まぁ、とにかく(おそ)ろしい。 何せ、透明(とうめい)なゼリーのように変質(へんしつ)した城下一帯(じょうかいったい)を目にしたばかりなので。 「 やゃゃゃゃやめて。おぉぉ()さないで」 「うるさい。鈍間(のろま)め、さっさと(ある)け!」 「そんなコト言ったって! どこから階段(かいだん)に見える蒟蒻(こんにゃく)かも分からないのに!」 「その時はその時と(はら)(くく)るのだ!  どこまでも蒟蒻(こんにゃく)攻略(こうりゃく)するつもりでな!」 (いや)ぁあぁああぁぁぁぁ!! ぁあぁああぁぁぁぁ!! ... ぁぁぁぁ ... ... !! 木霊(こだま)するのは、ノシュウェルの(さけ)び声ばかりだった。 ど こ ま で も 蒟 蒻(こんにゃく) じゃ 帰れる 気が しないもおぉおぉぉん ... ... !! (しま)いには駄々(だだ)()ねる子供(こども)のような台詞(せりふ)まで()こえてきたけれど。 よくもこの状況下(じょうきょうか)で、ああも陽気(ようき)にふざけていられるものだなと思う。 不測(ふそく)事態(じたい)(そな)え、 緊急時(きんきゅうじ)中継役(ちゅうけいやく)として(ひか)えていたヴォルトは、 鐘楼(しょうろう)(かたわ)ら ... ()()まれるように()(かぜ)下方(かほう)へと目を()けた。 (しろ)(とも)(しず)んで()えた下町(したまち)(のこ)されたのは、 まだ見ぬ地底世界(ちていせかい)へと(つう)じる大穴(おおあな)が、一つだけ。 それはそうと。 異端ノ魔導師は一人で行ってしまったのに、どのようにして追跡(ついせき)するつもりなのだろう。 わざわざ別動隊(べつどうたい)組織(そしき)した理由(りゆう)についてもそうだが。 クロイツからは(いま)だ何の説明(せつめい)もされていない。 当国(とうこく)偽派閥(にせはばつ)も、すっかりと機能(きのう)(うしな)った。 杜ノ主(もりのあるじ)()()るため。 帝国(ていこく)内通(ないつう)してきた人員(じんいん)(おお)くが、 本当の意味(いみ)買収(ばいしゅう)され敵対(てきたい)した結果(けっか)王党派(おうとうは)筆頭格(ひっとうかく)であるはずの紳士(しんし)こと、アンドレイの心が()られてしまった現状(げんじょう)。 いつの()にやら、消息(しょうそく)()ったウルクアの指示(しじ)など(あお)ぎようもなく。 今後(こんご)方針(ほうしん)について、どうすべきか(なや)む。 (よう)するに。 (かれ)がウルクアの密命(みつめい)()けたのは、 それぞれが(こと)()こすより以前(いぜん)(はなし)であるからして。 魔導兵(まどうへい)(ねら)王党派(おうとうは)と、 それを阻止(そし)したクロイツ一行(いっこう)対峙()()った ...あの時。 彼自身(かれじしん)は、あくまでもフェレンスを見張(みは)っていたに()ぎない。 応変(おうへん)対処(たいしょ)せざるを()なかったのは勿論(もちろん)。 こんな(こと)になるとは思ってもみなかったのだ。 (あまつさ)え。 偶然(ぐうぜん)居合(いあ)わせたにしては出来過(できす)ぎているため。 (だれ)もが事前(じぜん)仕組(しく)まれていたものと考えているよう。 だが、もしそうだとすると ... (かれ)、ヴォルトを誘導(ゆうどう)できた人物(じんぶつ)一人(ひとり)しかいない。 彼が脳裏(のうり)に思い(うか)かべる人物(じんぶつ)は、 (なぞ)めく因果(いんが)()()せられた ... あの、魔導師(まどうし)。 フェレンスは何のため、何時(いつ)(ころ)から、ウルクアに(たい)協力的姿勢(きょうりょくてきしせい)を見せていたのだろう。      

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