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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅹ (3/3更新)

      昇華(しょうか)した(つえ)を高く()(かか)げた(かれ)指先(ゆびさき)は、 ほんの(わず)かに()()で、 フワリ ... 虚空(こくう)枝葉(えだは)でも()えるような動作(どうさ)下方(かほう)へと(はな)ち、境界(きょうかい)を切り(ひら)く。 すると。 水のように(あふ)飛散(ひさん)する液状(えきじょう)の何かを()びた(しろ)が、(まち)が、地盤(じばん)が、 同質(どうしつ)流動態(りゅうどうたい)へと(へん)じ、流れ()ちる(さま)()()たりにした瞬間(しゅんかん)。 思いも()らず、知ることとなった。 この()存在(そんざい)する(もの)(みな)、 あたかも実在(じつざい)するかのように(うつ)し出された閃影(せんえい)現実(げんじつ)()(ちが)え、 錯覚(さっかく)しているに()ぎなかったのだと。 鐘楼(しょうろう)(ふち)まで歩き、城下(じょうか)見下(みお)ろすクロイツの視線(しせん)(さき)では、 石ノ杜(いしのもり)(ゆう)する(おお)くの(なぞ)正体(しょうたい)が ... 白日(はくじつ)(もと)(さら)されようとしている。 後始末(あとしまつ)()ませ()()けたノシュウェルは、 (ふる)える後姿(うしろすがた)間近(まぢか)に見るなり、立ち止まって躊躇(ちゅうちょ)した。 あれは本当にクロイツなのだろうか。 目を(うたが)うと同時(どうじ)に、自分なんかが(かた)(なら)べ見ていいものか(なや)む。 結局(けっきょく)のところ、二人仲良(ふたりなかよく)(とおい)い目をして(なが)める事と相俟(あいま)ったが。 流動(りゅうどう)する硝子(ガラス)のように変質(へんしつ)した建造物群(けんぞうぶつぐん)を見せられたところで、 理解(りかい)()()かないのだ。 ああ、もう、何と言うか ... ... 「「帰りたい ... ... 」」 その一言(ひとこと)()きる。 何もかも()げ出して寝台(ベッド)(ころ)がり、不貞寝(ふてね)できたら夢のよう。 (めずら)しく声を(そろ)え、口々(くちぐち)(つぶや)く二人にとっては最早(もはや)()かせない。 現実逃避(げんじつとうひ)のお時間(じかん)である。 (しず)みゆくは ... アイゼリア首都(しゅと)中心部(ちゅうしんぶ)蒼ノ細粒(あおのさいりゅう)()した魔物(キメラ)残態(ざんたい)は、 いつしか光媒(こうばい)宿(やど)(ちょう)へと変貌(へんぼう)し、()ノ魔導師を()()いた。 クロイツとノシュウェルは、ただそれを見送(みおく)るのみ。 そう、あれは ... ... 天変地異(てんぺんちい) ... いや、 奇跡(きせき)をも掌智掌握(しょうちしょあく)()異次元ノ才覚(いじげんのさいかく)(さず)けられた。 無我ノ傀儡(むがのくぐつ) ... ... なのに、まるで人のように笑う。 あの日、クロイツの胸中(きょうちゅう)()()った彼は、 何の前触(まえぶ)れも()く、こう()いた。 『人の心は可能性(かのうせい)と言う量子的揺(りょうしてきゆ)らぎに作用(さよう)する意識ノ共晶(いしきのきょうしょう)。  安易(あんい)に心を(ひら)けば精神世界(スフィラ)に意識が溶出(ようしゅつ)()ねないので。  叡智ノ結晶(えいちのけっしょう)直結(ちょっけつ)した中枢(ちゅうすう)(おさ)めるには、危険(リスク)(ともな)う。  高次元学問(こうじげんがくもん)信託者(しんたくしゃ)であるシャンテの(たみ)が、  (おの)ずと叡智(えいち)()れようとしなかったのはそのため。  中枢ノ番人(ちゅうすうのばんにん)(ゆう)する高度(こうど)意識構造(いしきこうぞう)とは、  つまり ... 意識の(いた)(ところ)(かぎ)をかけるかたちで制限(せいげん)、  先鋭化(せんえいか)可能(かのう)にする回路(かいろ)のようなものであり。  それらは、あらゆる次元(じげん)情報(じょうほう)思考(しこう)()(みだ)すのを(ふせ)ぐと同時(どうじ)に、  意識(いしき)耐溶媒性(たいようばいせい)を高めるため、必要(ひつよう)だった。  そうでもしなければ、どうなるか』 はじめ困惑(こんわく)するものの。 聞くうち(むね)()まるのを感じる。 (から)くも、クロイツは答えた。 『心が()け出し、(あな)()いてしまうという理由(わけ)だな』 そう。 彼等(かれら)(もと)より、集合意識(しゅうごういしき)接続(アクセス)する(すべ)()たない。 情緒(じょうちょ)など理解(りかい)する必要(ひつよう)もない存在(そんざい)である。 人の(こころ)(ひら)(かぎ)など、()()わせているはずがないのだ。 それでも、()()(もよお)すほどの憎悪(ぞうお)嫌悪感(けんおかん)(うす)れる(こと)()い。 しかしクロイツは自身(じしん)感情(かんじょう)()(あま)さずして(あつか)方法(ほうほう)()っている。 責任(せきにん)感情(かんじょう)は ... 転嫁(てんか)できるのだ。 これぞ理不尽(りふじん)。 ある意味クロイツらしい。 だが、そもそもフェレンスの(まわ)りに真っ当(まっとう)人物(じんぶつ)がいられるはずは無いので、ご愛敬(あいきょう)。 どうせなら、声に出して言ってやれば良かったとさえ思う。 けれど言葉にならなかった。 (さっ)しは()いたのに。 あらゆる(おも)いの境地(きょうち)(いた)る、人の心に(あな)()く。 霧ノ病(きりのやまい)()ばれる、その症状(しょうじょう)人々(ひとびと)魔物(キメラ)へと()していった。 (こと)発端(ほったん)は、心の開放(かいほう)()す〈(かぎ)〉を(あやつ)(もの)反逆(はんぎゃく)。 さて、(だれ)のことを()しているやら。 何人か思い当たりるので(あたま)(いた)い。 クロイツは思った。 なるほど。つまり、この男は ... ... 鍵を(あやつ)る者と接触(せっしょく)し、 (すで)(いく)つかの(かぎ)(はず)されている不具合品(ポンコツ)なのだ。 ふざけた(はなし)である。 ()かりきっていたとは言え。 嘲笑(あざわら)ってやるでもしなければ()()まない。 何しろ、相手(あいて)異端ノ魔導師(いたんのまどうし)。 だが、このポンコツめ ... ()仕方(しかた)のない(こと)のように()ました(かお)をしているが。 実際(じっさい)には天変地異(てんぺんちい)をも(せい)する(ちから)()(ぬし)である。 (かぎ)(あやつ)る者が(だれ)かなんて問題(もんだい)ではない。 ()()れさえしなければ良かったものを ... ... !! こちとら元軍人(もとぐんじん)でありながら、現実逃避(げんじつとうひ)したくなるような有様(ありさま)だと言うのに。 思い出したが最後(さいご)益々腹(ますますはら)が立ってきた。 それでも(こら)える。 (こら)えるしかないのだ。 今は(おん)()って(かぶ)を上げるべき時であるからして。 ()()る顔で深呼吸(しんこきゅう)をし、 ()()(なお)したクロイツは(ささや)く。 「我々(われわれ)時機(じき)()わねばならぬ。行くぞ」 (たい)しノシュウェルの(ほう)はと言うと、聞いているのか、いないのか。 クロイツに小突(こづ)かれ、ようやく(われ)(かえ)った。 と言うか、悶絶(もんぜつ)鳩尾(みぞおち)肘鉄(ひじてつ)流石(さすが)(こた)える。 ただでさえ(はら)()っているのに、きつい。 聞いてます ... 聞いてますってば ... ... (うめ)くように言い(わけ)するも、前屈(まえかが)み。 クロイツは、そんな彼を急突(せっつ)き前を歩かせた。 しかし、ノシュウェルの足取(あしど)りは(おも)い。 軍師(ぐんし)として当然(とうぜん)。 いざという時は要人(ようじん)安全確保(あんぜんかくほ)(つと)めるべきと。 頭では分かっているのに。 来た道を(もど)るだけなのに。 狼狽(うろた)えずにはいられないと言うか。 まぁ、とにかく(おそ)ろしい。 何せ、透明(とうめい)なゼリーのように変質(へんしつ)した城下一帯(じょうかいったい)を目にしたばかりなので。 「 やゃゃゃゃやめて。おぉぉ()さないで」 「うるさい。鈍間(のろま)め、さっさと(ある)け!」 「そんなコト言ったって! どこから階段(かいだん)に見える蒟蒻(こんにゃく)かも分からないのに!」 「その時はその時と(はら)(くく)るのだ!  どこまでも蒟蒻(こんにゃく)攻略(こうりゃく)するつもりでな!」 (いや)ぁあぁああぁぁぁぁ!! ぁあぁああぁぁぁぁ!! ... ぁぁぁぁ ... ... !! 木霊(こだま)するのは、ノシュウェルの(さけ)び声ばかりだった。 ど こ ま で も 蒟 蒻(こんにゃく) じゃ 帰れる 気が しないもおぉおぉぉん ... ... !! (しま)いには駄々(だだ)()ねる子供(こども)のような台詞(せりふ)まで()こえてきたけれど。 よくもこの状況下(じょうきょうか)で、ああも陽気(ようき)にふざけていられるものだなと思う。 不測(ふそく)事態(じたい)(そな)え、 緊急時(きんきゅうじ)中継役(ちゅうけいやく)として(ひか)えていたヴォルトは、 鐘楼(しょうろう)(かたわ)ら ... ()()まれるように()(かぜ)下方(かほう)へと目を()けた。 (しろ)(とも)(しず)んで()えた下町(したまち)(のこ)されたのは、 まだ見ぬ地底世界(ちていせかい)へと(つう)じる大穴(おおあな)が、一つだけ。 それはそうと。 異端ノ魔導師は一人で行ってしまったのに、どのようにして追跡(ついせき)するつもりなのだろう。 わざわざ別動隊(べつどうたい)組織(そしき)した理由(りゆう)についてもそうだが。 クロイツからは(いま)だ何の説明(せつめい)もされていない。 当国(とうこく)偽派閥(にせはばつ)も、すっかりと機能(きのう)(うしな)った。 杜ノ主(もりのあるじ)()()るため。 帝国(ていこく)内通(ないつう)してきた人員(じんいん)(おお)くが、 本当の意味(いみ)買収(ばいしゅう)され敵対(てきたい)した結果(けっか)王党派(おうとうは)筆頭格(ひっとうかく)であるはずの紳士(しんし)こと、アンドレイの心が()られてしまった現状(げんじょう)。 いつの()にやら、消息(しょうそく)()ったウルクアの指示(しじ)など(あお)ぎようもなく。 今後(こんご)方針(ほうしん)について、どうすべきか(なや)む。 (よう)するに。 (かれ)がウルクアの密命(みつめい)()けたのは、 それぞれが(こと)()こすより以前(いぜん)(はなし)であるからして。 魔導兵(まどうへい)(ねら)王党派(おうとうは)と、 それを阻止(そし)したクロイツ一行(いっこう)対峙()()った ...あの時。 彼自身(かれじしん)は、あくまでもフェレンスを見張(みは)っていたに()ぎない。 応変(おうへん)対処(たいしょ)せざるを()なかったのは勿論(もちろん)。 こんな(こと)になるとは思ってもみなかったのだ。 (あまつさ)え。 偶然(ぐうぜん)居合(いあ)わせたにしては出来過(できす)ぎているため。 (だれ)もが事前(じぜん)仕組(しく)まれていたものと考えているよう。 だが、もしそうだとすると ... (かれ)、ヴォルトを誘導(ゆうどう)できた人物(じんぶつ)一人(ひとり)しかいない。 彼が脳裏(のうり)に思い(うか)かべる人物(じんぶつ)は、 (なぞ)めく因果(いんが)()()せられた ... あの、魔導師(まどうし)。 フェレンスは何のため、何時(いつ)(ころ)から、ウルクアに(たい)協力的姿勢(きょうりょくてきしせい)を見せていたのだろう。 知ったところで、どうこう言える立場(たちば)ではないが。 少なくともフェレンスは、ウルクアの真意(しんい)推測(すいそく)加担(かたん)したはずなのだ。 単純(たんじゅん)興味(きょうみ)()く。 あの魔導兵(まどうへい)盲目(もうもく)()(したが)い、 (とき)錯乱(さくらん)するのも、仕方(しかた)ないのではと思えてきた。 そう、ウルクアは ... ... 直属(ちょくぞく)部下(ぶか)であった彼、ヴォルトにすら何も知らせず。 潔白ノ盾(けっぱくのたて)として利用(りよう)した。 知っていて(かた)()ったであろう異端ノ魔導師は、 (おそ)らく何かを(たくら)んでいる。 ()者同士(どうし)結託(けったく)したと言うことだろうか。 二人(ふたり)とも、(さぞ)都合良(つごうよ)(こと)(はこ)んだに(ちが)いない。 しかしクロイツは、独断専行(どくだんせんこう)()ぎると指摘(してき)した先頃(さきごろ)まで、 それら不信行為(ふしんこうい)看過(かんか)していたと言う。 そんな人物(じんぶつ)(そば)配備(はいび)された人員(じんいん)筆頭(ひっとう)としては、 (かろ)うじて(さっ)せる意図(いと)だけでも()まねばなるまい。 複雑(ふくざつ)心境(しんきょう)ではあるが。 彼は自然(しぜん)(うつむ)いた。 そして決意(けつい)する。 今後はクロイツの傭員(よういん)として(ぞく)し、尽力(じんりょく)していくと。 自身(じしん)()見据(みす)えようとせず、 ウルクアを(しん)じることに精一杯(せいいっぱい)だった自分達(じぶんたち)とは 一線(いっせん)(かく)客観的視野(きゃっかんてきしや)(ひろ)さと、精霊王ノ瞳(せいれいおうのひとみ)()(ぬし)。 クロイツは ... 謎多(なぞおお)()()相手(あいて)明晰化(めいせきか)をも視野(しや)()れ、健闘(けんとう)している。 (とも)(かえ)ると(ちか)いあった同志(どうし)に、もしもの(こと)がないよう。 異端ノ魔導師と対等(たいとう)する洞察(どうさつりょく)思慮深(しりょぶか)さを()(そな)えた(もの)から(まな)び、 ()(まわ)必要(ひつよう)があると考えたのだ。 きっと、そう、あいつも ... ... この()(およ)んでもなお、ウルクアを(しん)じようとする自分に(あらが)えない。 今更(いまさら)(あらが)()()い。 (ほど)なくして、地下施設中央(ちかしせつちゅうおう)への帰路(きろ)についたヴォルトは、 あらためクロイツの招集(しょうしゅう)()けた面々(めんめん)()()(こと)となった。 一個小隊(いっこしょうたい)()ぶにも心許(こころもと)ない。 三十余名(さんじゅうよめい)大半(たいはん)工作員(こうさくいん)である。 複数国家(ふくすうこっか)匹敵(ひってき)する火力(かりょく)()(ぬし)(たい)し、 対抗馬(たいこうば)になど()()ないのは明白(めいはく)であるからして。 (だれ)もが無口(むくち)何度(なんど)()覚悟(かくご)危機(きき)()()え、どうにか()(なが)らえてきたであろう者達(ものたち)が。 すっかりと腑抜(ふぬ)けてしまったようだった。 適当(てきとう)説明(せつめい)しかされていないにも(かか)わらず、 不満(ふまん)(くち)にする(もの)すらいない。 営利国家(えいりこっか)裏情勢(うらじじょう)ばかりか、 異端ノ魔導師の素性(すじょう)など聞いてしまった日には、もう。 不利益(ふりえき)どころの(はなし)ではないと言わんばかりだ。 (めい)じられた事だけやって、運良(うんよ)(かえ)れたら、それでいい ... ... ()べたいものを食べ、(あたた)かい部屋(へや)()られるだけの金銭(きんせん)()られる仕事(しごと)(さが)して。 (ごく)ありふれた生活(せいかつ)(おく)り、余生(よせい)()ごしたい。 そのためだけに行動(こうどう)しているようなものだろう。 クロイツは言う。 (なげ)いても仕方(しかた)のないことだと。 (こころざし)共有(きょうゆう)できない者の(おお)くは、 批判(ひはん)銘打(めいう)不服(ふふく)()らすばかりか、 (みず)()ろうとはしないくせに反抗的(はんこうてき)かつ、 相手(あいて)(わる)いと()めつけるに傾倒(けいとう)(わずら)わしい。 (だま)っていてくれるだけ、ありがたいが。 何かしてやる義理(ぎり)などない。 「我々(われわれ)(すす)むのだ」 その言葉に、一行(いっこう)(うなず)く。 実情(じつじょう)把握(はあく)(つと)意見交換(いけんこうかん)()う、 いつもの面子(メンバー)さえいれば(なん)とでもなるはずだ。 いや。 何とか出来る。 何とかする。 (かげ)ながら様子(ようす)を見ていた(がわ)からすると。 若年(じゃくねん)(ふく)大人達(おとなたち)のうち、ほんの数名(すうめい)とは()え。 (しん)(つよ)者達(ものたち)がいたお(かげ)心強(こころづよ)いなと思う。 隣接(りんせつ)する部屋(へや)出入口(でいりぐち)から(のぞ)いていたのは、チェシャだった。 出発(しゅっぱつ)までに聞いた(はなし)によると。 (もり)辺境(へんきょう)移動中(いどうちゅう)、フェレンスは(すで)得体(えたい)()れない何者(なにもの)かの気配(けはい)察知(さっち)していたそう。 当時(とうじ)見張(みは)りに()たらせていた従霊(ファントム)役目(やくめ)は、 周囲(しゅうい)警戒(けいかい)ばかりではなく。 杜ノ主(もりのあるじ)検討付(けんとうづ)けるに(あたい)する 対象(たいしょう)注意(ちゅうい)()くためでもあったのだ。 また、リテの町にて質入(しちい)れされた多機能小機器(マルチエクイップメント)についてだが。 どうやら工作員(こうさくいん)(かい)しウルクアの手に(わた)っていたらしい。 首都(イシュタット)到着後(とうちゃくご)宿泊先(しゅくはくさき)でカーツェルが出身(しゅっしん)()われたのに(たい)し、 (こた)える必要(ひつよう)はないと(つた)えたフェレンスは、 アイゼリア当局(とうきょく)(あお)素振(そぶ)りで、何者(なにもの)かと疎通(そつう)していたのかもしれない。 王党派(おうとうは)接触(せっしょく)()け、 (みずか)らの()()え作り上げた魔石(ませき)(おく)った(とき)同様(どうよう)に。 (あん)(つた)えていたと思われる。 解析(かいせき)によって(もり)組成(そせい)(あるじ)正体(しょうたい)確信(かくしん)したと。 「しかしだ」 クロイツは言った。 「小機器(エクイップメント)履歴(りれき)(のこ)測定法(そくていほう)と、  (あたい)意味(いみ)理解(りかい)できる(もの)が ... ウルクアの(そば)にいたとは思えぬ」 つまる(はなし)通知(メッセージ)()()り手は間違(まちが)いなく、 第一等帝国魔導師(だいいっとうていこくまどうし)(かた)(なら)べる偉才(いさい)であり。 フェレンスの(そば)には、その存在(そんざい)()られたくない(だれ)かがいたのではなかろうか。 (ふく)みのある()(まわ)しではあるものの。 ()くまでもなさ()ぎて。 (だれ)もが、ただ、()()いた。 (そば) ... と言えば、あの(おとこ)しかいない。 集中(しゅうちゅう)する視線(しせん)動揺(どうよう)し思わず サッ と(よこ)()けた幼子(おさなご)は、 気不味(きまず)いながら部屋(へや)(おく)へと(もど)って()く。 物資(ぶっし)不足(ふそく)(かんが)みて、(あか)りを()けてもらうため。 男が(ねむ)部屋(へや)(とびら)()けっ(ぱな)しにされていた。 そしてクロイツは、その正面(しょうめん)()ったまま。 ()()かせたノシュウェルが椅子(いす)()ってきて()くと、 一人(ひとり)だけ(すわ)って(うご)かない。 用心(ようじん)のためだろう。 (かれ)目覚(めざ)めるまで見張(みは)るつもりだ。 チェシャは簡易(かんい)ベッドに(よこ)たえた男の(かたわ)らに()て、時々汗(ときどきあせ)()いてやっている。 クロイツの眼光(がんこう)(さえぎ)ってやりながら。 「ツェル ... ... 」 (うな)されているようなので、何度(なんど)愛称(あいしょう)()ぶも反応(はんのう)()い。 カーツェル、彼は ... 自身(じしん)()すら(わす)れかけていた。 どこで、何をしているのか。 自身(じしん)という(かたち)(とら)える(こと)すら(むずか)しく。 まるで、水や空気と一体化(いったいか)してしまったような感覚(かんかく)藻掻(もが)こうにも、意識(いしき)だけ揺蕩(たゆた)うばかりなのだ。 このままでは、消えてしまいそう。 だが、どこからともなく()(おぼ)えのある(こえ)がして、()(もど)される。 声の(ぬし)は、彼の名を()んでいた。 けれど、それらはの出来事(できごと)は ... 願望(がんぼう)でしかないのかも。 あるいは。 (ゆめ) ... ... ? そう、夢だ。 彼は次の瞬間(しゅんかん)、ハッ ... と(みじか)(いき)()い、(まぶた)(ひら)く。 すると()(さき)に目と目が()って。 相手(あいて)今一度(いまいちど)()(かえ)した。 「カーツェル ... ?」 そうして、彼の(ほほ)()()ろす。 ところが()ばれた当人(とうにん)はと言うと。 (せつ)()表情(ひょうじょう)()かべ、戸惑(とまど)っている様子(ようす)。 彼の五感(ごかん)をより鮮明(せんめい)にしたのは、途方(とほう)()違和感(いわかん)だった。 何せ自分と相手(あいて)(とも)に。 見掛(みか)けと年齢(ねんれい)一致(いっち)しない。 背丈(せたけ)からして、随分(ずいぶん)(ちぢ)んだ()がする。 そればかりか。 (つた)わる()(ぬく)もりも。 そよ風に()かれる草花(くさばな)の、(ほの)かな(かお)りも。 手入(てい)れを(わす)れられた生垣(いけがき)により(へだ)たる、 小さな 々 箱庭(ちいさな ちいさな はこにわ)当所(とうしょ)存在(そんざい)も。 今、()かれた状況(じょうきょう)(いたる)経緯(けいい)すら記憶(きおく)()いのに。 (なつ)かしくて仕方(しかた)がないのだ。 けれど ... (かお)()見下(みおろ)ろしてくる相手(あいて)名前(なまえ)だけは、 すんなり思い出せるのだから不思議(ふしぎ)と言うか。 (なぞ)でしかない。 「フェレンス ... ?」 「()かるか?」 「そりゃあな」 でも、自分の(こと)(かぎ)って、あまり思い出せない。 (こえ)も、何か、いつもと(ちが)うような。 ああ、でも、いいのか ... ... (くど)いようだが、これは夢。 いつもの夢、なのだ。 そう、これは、いつもの ... ... 「 ... あれ? でも(なん)(ちが)くね?」 「(なに)かとは?」 「いや、だから ... (なん)かだよ」 「そうか」 ()からなくもない。 フェレンスは顔色一(かおいろひと)()えず。 (ひざ)(うえ)(ころ)がったまま寝惚(ねぼ)けているらしいカーツェルの(あたま)()でてやる。 (たい)してカーツェルは思った。 しかも、膝枕(ひざまくら)とか ... ... フェレンスに撫で 々 (なでなで)されるとか、今まで、こんな(コト)あったかと。 ただの願望(がんぼう)なら、(なつ)かしさなど(おぼ)えるはずがないのに。 (まった)くもって意味(いみ)()からない。 そもそも願望(がんぼう)って ... ... ? まさか(オレ)、フェレンスに撫で 々 (なでなで)されたかったの ... ... ? され、た、かったんだ、ろう、な。 そうじゃないと辻褄(つじつま)()わないのだから。 それとも、(わす)れているだけ ... ... ? そんなはずはない。 そんなはず ... ... 「なぁ、フェレンス」 「どうした」 「もっと、して?」 そう、彼は、フェレンスと()()っていたいだけだ。 「もっと、()でて?」 それなのに。 「お前と此処(ここ)()ると、そう。  なので、言われる前からしてやっていたつもりだが?」 素直(すなお)(おう)じて微笑(ほほえ)むフェレンスの言動(げんどう)が。 彼の記憶(きおく)()()わない。 (たし)かに、ずっと、ずっと長い(あいだ)、そうしていたような。 何度(なんど)も、何度(なんど)()(かえ)しているような。 そんな()はする。 けど ... ... 「()りない」 と言うか、してもらった記憶(きおく)()い。 「それにさ。いつも ... してくれてるなら、  たまには ... 良いだろ? もっと、してくれたって」 自分が何を期待(きたい)しているのかさえ曖昧(あいまい)なのに。 ()ったつもりになって要求(ようきゅう)しているのだ。 「して ... フェレンス」 して ... ... フェレンスが()寛衣(かんい)小袖(こそで)(つま)み、()()せると。 何を? と、悪戯(いたずら)()われる。 彼は言った。 「()ててみろよ」 この()(あお)りが通用(つうよう)する相手(あいて)ではないのに。 「ふむ。()いだろう。では、もう一度(いちど)だけ説明(せつめい)するので、  今度(こんど)(ねむ)らずに()なさい」 「え、何を?」 (あん)(じょう)相手(あいて)(とい)いを反復(はんぷく)する羽目(はめ)になった。 (かた)やフェレンスは余裕(よゆう)表情(ひょうじょう)である。 「背理(パラドックス)(しょう)じた量子(りょうし)(もつ)れの、多次元(たじげん)(わた)反響(はんきょう)について。  まずは、三次元物質界(さんじげんぶっしつかい)関与(かんよ)する境界(きょうかい)認知法(イメージング)と。  それらが神々ノ意識世界(スフィラ)(およ)ぼす影響(えいきょう)から ... 」 「ぁあぁぁああぁぁ゛ (ちが)う!」 そうじゃない ... ... ! 絶対(ぜったい)、わざとだ。 (じら)らされてる。 それだけは()かるけど。 「(とぼ) け る な !」 得体(えたい)()れぬ衝動(しょうどう)()(うご)かされ、(むね)高鳴(たかな)る。 フェレンスが、ただ、ゆっくりと(いき)()い、()くだけの(わず)かな動作(どうさ)見惚(みと)れる。 気付(きづ)けば、(みずか)身体(からだ)()こし、 相手(あいて)(むね)(すが)()いていた。 (はや)()しいくて仕方(しかた)がないのだ。 フェンスは(あい)()わらず悠長(ゆうちょう)にしているが。 不意(ふい)()くように、彼の耳元(みみもと)(ささや)く。 「ならば、(あらた)(かんが)(なお)してみよう。  お前が(わたし)(たい)してだけ欲張(よくば)りなのは、何故(なぜ)なのか」 そう、()しいのは、その(こた)え。 するとカーツェルが何かを言いたげに(くち)だけ(ひら)き、()(とど)まる。 分かりかけていたはずだが、どうしてか言葉(ことば)にしてはいけない()がして。 今度(こんど)(ぎゃく)(あお)られてしまうのだ。 「どうした。今日は言ってくれないのか?」 いつも、していた(コト)。 いつも、言っていた(コト)()きたいのは、こっちなのに。 (おし)えてくれたって良いじゃないか。 彼は(くちびる)()()める。 (すこ)しだけ、(くや)しくて。 ところが、(またた)()動転(どうてん)する()の空気。 背筋(せすじ)(こお)るような殺気(さっき)視線(しせん)を感じ、 (われ)(かえ)(おも)いがした。 そうして咄嗟(とっさ)()()くと。 身体(からだ)から、すり()ける。 彼の幻体(げんたい)は、(しか)るべき形態(カタチ)()(もど)すかのように(へん)じ。 音速(おんそく)(かべ)(やぶ)って一直線(いっちょくせん)()()される光媒(こうばい)()()めた。      

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