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【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】 第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅹ (3/3更新) | 嵩都 靖一朗の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】
第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅹ (3/3更新)
作者:
嵩都 靖一朗
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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅹ (3/3更新)
昇華
(
しょうか
)
した
杖
(
つえ
)
を高く
振
(
ふ
)
り
掲
(
かか
)
げた
彼
(
かれ
)
の
指先
(
ゆびさき
)
は、 ほんの
僅
(
わず
)
かに
柄
(
え
)
を
撫
(
な
)
で、 フワリ ...
虚空
(
こくう
)
に
枝葉
(
えだは
)
でも
添
(
そ
)
えるような
動作
(
どうさ
)
で
下方
(
かほう
)
へと
放
(
はな
)
ち、
境界
(
きょうかい
)
を切り
開
(
ひら
)
く。 すると。 水のように
溢
(
あふ
)
れ
飛散
(
ひさん
)
する
液状
(
えきじょう
)
の何かを
浴
(
あ
)
びた
城
(
しろ
)
が、
街
(
まち
)
が、
地盤
(
じばん
)
が、
同質
(
どうしつ
)
の
流動態
(
りゅうどうたい
)
へと
変
(
へん
)
じ、流れ
落
(
お
)
ちる
様
(
さま
)
を
目
(
ま
)
の
当
(
あ
)
たりにした
瞬間
(
しゅんかん
)
。 思いも
寄
(
よ
)
らず、知ることとなった。 この
場
(
ば
)
に
存在
(
そんざい
)
する
者
(
もの
)
は
皆
(
みな
)
、 あたかも
実在
(
じつざい
)
するかのように
映
(
うつ
)
し出された
閃影
(
せんえい
)
と
現実
(
げんじつ
)
を
取
(
と
)
り
違
(
ちが
)
え、
錯覚
(
さっかく
)
しているに
過
(
す
)
ぎなかったのだと。
鐘楼
(
しょうろう
)
の
淵
(
ふち
)
まで歩き、
城下
(
じょうか
)
を
見下
(
みお
)
ろすクロイツの
視線
(
しせん
)
の
先
(
さき
)
では、
石ノ杜
(
いしのもり
)
が
有
(
ゆう
)
する
多
(
おお
)
くの
謎
(
なぞ
)
の
正体
(
しょうたい
)
が ...
白日
(
はくじつ
)
の
下
(
もと
)
に
晒
(
さら
)
されようとしている。
後始末
(
あとしまつ
)
を
済
(
す
)
ませ
駆
(
か
)
け
付
(
つ
)
けたノシュウェルは、
震
(
ふる
)
える
後姿
(
うしろすがた
)
を
間近
(
まぢか
)
に見るなり、立ち止まって
躊躇
(
ちゅうちょ
)
した。 あれは本当にクロイツなのだろうか。 目を
疑
(
うたが
)
うと
同時
(
どうじ
)
に、自分なんかが
肩
(
かた
)
を
並
(
なら
)
べ見ていいものか
悩
(
なや
)
む。
結局
(
けっきょく
)
のところ、
二人仲良
(
ふたりなかよく
)
く
遠
(
とおい
)
い目をして
眺
(
なが
)
める事と
相俟
(
あいま
)
ったが。
流動
(
りゅうどう
)
する
硝子
(
ガラス
)
のように
変質
(
へんしつ
)
した
建造物群
(
けんぞうぶつぐん
)
を見せられたところで、
理解
(
りかい
)
が
追
(
お
)
い
付
(
つ
)
かないのだ。 ああ、もう、何と言うか ... ... 「「帰りたい ... ... 」」 その
一言
(
ひとこと
)
に
尽
(
つ
)
きる。 何もかも
投
(
な
)
げ出して
寝台
(
ベッド
)
に
転
(
ころ
)
がり、
不貞寝
(
ふてね
)
できたら夢のよう。
珍
(
めずら
)
しく声を
揃
(
そろ
)
え、
口々
(
くちぐち
)
に
呟
(
つぶや
)
く二人にとっては
最早
(
もはや
)
、
欠
(
か
)
かせない。
現実逃避
(
げんじつとうひ
)
のお
時間
(
じかん
)
である。
沈
(
しず
)
みゆくは ... アイゼリア
首都
(
しゅと
)
、
中心部
(
ちゅうしんぶ
)
。
蒼ノ細粒
(
あおのさいりゅう
)
と
化
(
か
)
した
魔物
(
キメラ
)
の
残態
(
ざんたい
)
は、 いつしか
光媒
(
こうばい
)
を
宿
(
やど
)
す
蝶
(
ちょう
)
へと
変貌
(
へんぼう
)
し、
彼
(
か
)
ノ魔導師を
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
いた。 クロイツとノシュウェルは、ただそれを
見送
(
みおく
)
るのみ。 そう、あれは ... ...
天変地異
(
てんぺんちい
)
... いや、
奇跡
(
きせき
)
をも
掌智掌握
(
しょうちしょあく
)
し
得
(
う
)
る
異次元ノ才覚
(
いじげんのさいかく
)
を
授
(
さず
)
けられた。
無我ノ傀儡
(
むがのくぐつ
)
... ... なのに、まるで人のように笑う。 あの日、クロイツの
胸中
(
きょうちゅう
)
を
読
(
よ
)
み
取
(
と
)
った彼は、 何の
前触
(
まえぶ
)
れも
無
(
な
)
く、こう
説
(
と
)
いた。 『人の心は
可能性
(
かのうせい
)
と言う
量子的揺
(
りょうしてきゆ
)
らぎに
作用
(
さよう
)
する
意識ノ共晶
(
いしきのきょうしょう
)
。
安易
(
あんい
)
に心を
開
(
ひら
)
けば
精神世界
(
スフィラ
)
に意識が
溶出
(
ようしゅつ
)
し
兼
(
か
)
ねないので。
叡智ノ結晶
(
えいちのけっしょう
)
と
直結
(
ちょっけつ
)
した
中枢
(
ちゅうすう
)
を
治
(
おさ
)
めるには、
危険
(
リスク
)
を
伴
(
ともな
)
う。
高次元学問
(
こうじげんがくもん
)
の
信託者
(
しんたくしゃ
)
であるシャンテの
民
(
たみ
)
が、
自
(
おの
)
ずと
叡智
(
えいち
)
に
触
(
ふ
)
れようとしなかったのはそのため。
中枢ノ番人
(
ちゅうすうのばんにん
)
が
有
(
ゆう
)
する
高度
(
こうど
)
な
意識構造
(
いしきこうぞう
)
とは、 つまり ... 意識の
至
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
鍵
(
かぎ
)
をかけるかたちで
制限
(
せいげん
)
、
先鋭化
(
せんえいか
)
を
可能
(
かのう
)
にする
回路
(
かいろ
)
のようなものであり。 それらは、あらゆる
次元
(
じげん
)
の
情報
(
じょうほう
)
が
思考
(
しこう
)
を
掻
(
か
)
き
乱
(
みだ
)
すのを
防
(
ふせ
)
ぐと
同時
(
どうじ
)
に、
意識
(
いしき
)
の
耐溶媒性
(
たいようばいせい
)
を高めるため、
必要
(
ひつよう
)
だった。 そうでもしなければ、どうなるか』 はじめ
困惑
(
こんわく
)
するものの。 聞くうち
胸
(
むね
)
が
詰
(
つ
)
まるのを感じる。
辛
(
から
)
くも、クロイツは答えた。 『心が
融
(
と
)
け出し、
穴
(
あな
)
が
空
(
あ
)
いてしまうという
理由
(
わけ
)
だな』 そう。
彼等
(
かれら
)
は
元
(
もと
)
より、
集合意識
(
しゅうごういしき
)
へ
接続
(
アクセス
)
する
術
(
すべ
)
を
持
(
も
)
たない。
情緒
(
じょうちょ
)
など
理解
(
りかい
)
する
必要
(
ひつよう
)
もない
存在
(
そんざい
)
である。 人の
心
(
こころ
)
を
開
(
ひら
)
く
鍵
(
かぎ
)
など、
持
(
も
)
ち
合
(
あ
)
わせているはずがないのだ。 それでも、
吐
(
は
)
き
気
(
け
)
を
催
(
もよお
)
すほどの
憎悪
(
ぞうお
)
と
嫌悪感
(
けんおかん
)
が
薄
(
うす
)
れる
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
い。 しかしクロイツは
自身
(
じしん
)
の
感情
(
かんじょう
)
を
持
(
も
)
て
余
(
あま
)
さずして
扱
(
あつか
)
う
方法
(
ほうほう
)
を
知
(
し
)
っている。
責任
(
せきにん
)
や
感情
(
かんじょう
)
は ...
転嫁
(
てんか
)
できるのだ。 これぞ
理不尽
(
りふじん
)
。 ある意味クロイツらしい。 だが、そもそもフェレンスの
周
(
まわ
)
りに
真っ当
(
まっとう
)
な
人物
(
じんぶつ
)
がいられるはずは無いので、ご
愛敬
(
あいきょう
)
。 どうせなら、声に出して言ってやれば良かったとさえ思う。 けれど言葉にならなかった。
察
(
さっ
)
しは
付
(
つ
)
いたのに。 あらゆる
想
(
おも
)
いの
境地
(
きょうち
)
に
至
(
いた
)
る、人の心に
穴
(
あな
)
が
空
(
あ
)
く。
霧ノ病
(
きりのやまい
)
と
呼
(
よ
)
ばれる、その
症状
(
しょうじょう
)
は
人々
(
ひとびと
)
を
魔物
(
キメラ
)
へと
化
(
か
)
していった。
事
(
こと
)
の
発端
(
ほったん
)
は、心の
開放
(
かいほう
)
を
成
(
な
)
す〈
鍵
(
かぎ
)
〉を
操
(
あやつ
)
る
者
(
もの
)
の
反逆
(
はんぎゃく
)
。 さて、
誰
(
だれ
)
のことを
指
(
さ
)
しているやら。 何人か思い当たりるので
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
い。 クロイツは思った。 なるほど。つまり、この男は ... ... 鍵を
操
(
あやつ
)
る者と
接触
(
せっしょく
)
し、
既
(
すで
)
に
幾
(
いく
)
つかの
鍵
(
かぎ
)
を
外
(
はず
)
されている
不具合品
(
ポンコツ
)
なのだ。 ふざけた
話
(
はなし
)
である。
分
(
わ
)
かりきっていたとは言え。
嘲笑
(
あざわら
)
ってやるでもしなければ
気
(
き
)
が
済
(
す
)
まない。 何しろ、
相手
(
あいて
)
は
異端ノ魔導師
(
いたんのまどうし
)
。 だが、このポンコツめ ...
然
(
さ
)
も
仕方
(
しかた
)
のない
事
(
こと
)
のように
澄
(
す
)
ました
顔
(
かお
)
をしているが。
実際
(
じっさい
)
には
天変地異
(
てんぺんちい
)
をも
制
(
せい
)
する
力
(
ちから
)
の
持
(
も
)
ち
主
(
ぬし
)
である。
鍵
(
かぎ
)
を
操
(
あやつ
)
る者が
誰
(
だれ
)
かなんて
問題
(
もんだい
)
ではない。
受
(
う
)
け
入
(
い
)
れさえしなければ良かったものを ... ... !! こちとら
元軍人
(
もとぐんじん
)
でありながら、
現実逃避
(
げんじつとうひ
)
したくなるような
有様
(
ありさま
)
だと言うのに。 思い出したが
最後
(
さいご
)
、
益々腹
(
ますますはら
)
が立ってきた。 それでも
堪
(
こら
)
える。
堪
(
こら
)
えるしかないのだ。 今は
恩
(
おん
)
を
売
(
う
)
って
株
(
かぶ
)
を上げるべき時であるからして。
引
(
ひ
)
き
攣
(
つ
)
る顔で
深呼吸
(
しんこきゅう
)
をし、
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なお
)
したクロイツは
囁
(
ささや
)
く。 「
我々
(
われわれ
)
も
時機
(
じき
)
に
追
(
お
)
わねばならぬ。行くぞ」
対
(
たい
)
しノシュウェルの
方
(
ほう
)
はと言うと、聞いているのか、いないのか。 クロイツに
小突
(
こづ
)
かれ、ようやく
我
(
われ
)
に
返
(
かえ
)
った。 と言うか、
悶絶
(
もんぜつ
)
。
鳩尾
(
みぞおち
)
に
肘鉄
(
ひじてつ
)
は
流石
(
さすが
)
に
堪
(
こた
)
える。 ただでさえ
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
っているのに、きつい。 聞いてます ... 聞いてますってば ... ...
呻
(
うめ
)
くように言い
訳
(
わけ
)
するも、
前屈
(
まえかが
)
み。 クロイツは、そんな彼を
急突
(
せっつ
)
き前を歩かせた。 しかし、ノシュウェルの
足取
(
あしど
)
りは
重
(
おも
)
い。
軍師
(
ぐんし
)
として
当然
(
とうぜん
)
。 いざという時は
要人
(
ようじん
)
の
安全確保
(
あんぜんかくほ
)
に
努
(
つと
)
めるべきと。 頭では分かっているのに。 来た道を
戻
(
もど
)
るだけなのに。
狼狽
(
うろた
)
えずにはいられないと言うか。 まぁ、とにかく
恐
(
おそ
)
ろしい。 何せ、
透明
(
とうめい
)
なゼリーのように
変質
(
へんしつ
)
した
城下一帯
(
じょうかいったい
)
を目にしたばかりなので。 「 やゃゃゃゃやめて。おぉぉ
押
(
お
)
さないで」 「うるさい。
鈍間
(
のろま
)
め、さっさと
歩
(
ある
)
け!」 「そんなコト言ったって! どこから
階段
(
かいだん
)
に見える
蒟蒻
(
こんにゃく
)
かも分からないのに!」 「その時はその時と
腹
(
はら
)
を
括
(
くく
)
るのだ! どこまでも
蒟蒻
(
こんにゃく
)
を
攻略
(
こうりゃく
)
するつもりでな!」
嫌
(
いや
)
ぁあぁああぁぁぁぁ!! ぁあぁああぁぁぁぁ!! ... ぁぁぁぁ ... ... !!
木霊
(
こだま
)
するのは、ノシュウェルの
叫
(
さけ
)
び声ばかりだった。 ど こ ま で も
蒟 蒻
(
こんにゃく
)
じゃ 帰れる 気が しないもおぉおぉぉん ... ... !!
終
(
しま
)
いには
駄々
(
だだ
)
を
捏
(
こ
)
ねる
子供
(
こども
)
のような
台詞
(
せりふ
)
まで
聞
(
き
)
こえてきたけれど。 よくもこの
状況下
(
じょうきょうか
)
で、ああも
陽気
(
ようき
)
にふざけていられるものだなと思う。
不測
(
ふそく
)
の
事態
(
じたい
)
に
備
(
そな
)
え、
緊急時
(
きんきゅうじ
)
の
中継役
(
ちゅうけいやく
)
として
控
(
ひか
)
えていたヴォルトは、
鐘楼
(
しょうろう
)
の
傍
(
かたわ
)
ら ...
吸
(
す
)
い
込
(
こ
)
まれるように
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
の
下方
(
かほう
)
へと目を
向
(
む
)
けた。
城
(
しろ
)
と
共
(
とも
)
に
沈
(
しず
)
んで
消
(
き
)
えた
下町
(
したまち
)
に
残
(
のこ
)
されたのは、 まだ見ぬ
地底世界
(
ちていせかい
)
へと
通
(
つう
)
じる
大穴
(
おおあな
)
が、一つだけ。 それはそうと。 異端ノ魔導師は一人で行ってしまったのに、どのようにして
追跡
(
ついせき
)
するつもりなのだろう。 わざわざ
別動隊
(
べつどうたい
)
を
組織
(
そしき
)
した
理由
(
りゆう
)
についてもそうだが。 クロイツからは
未
(
いま
)
だ何の
説明
(
せつめい
)
もされていない。
当国
(
とうこく
)
の
偽派閥
(
にせはばつ
)
も、すっかりと
機能
(
きのう
)
を
失
(
うしな
)
った。
杜ノ主
(
もりのあるじ
)
に
取
(
と
)
り
入
(
い
)
るため。
帝国
(
ていこく
)
と
内通
(
ないつう
)
してきた
人員
(
じんいん
)
の
多
(
おお
)
くが、 本当の
意味
(
いみ
)
で
買収
(
ばいしゅう
)
され
敵対
(
てきたい
)
した
結果
(
けっか
)
。
王党派
(
おうとうは
)
、
筆頭格
(
ひっとうかく
)
であるはずの
紳士
(
しんし
)
こと、アンドレイの心が
折
(
お
)
られてしまった
現状
(
げんじょう
)
。 いつの
間
(
ま
)
にやら、
消息
(
しょうそく
)
を
絶
(
た
)
ったウルクアの
指示
(
しじ
)
など
仰
(
あお
)
ぎようもなく。
今後
(
こんご
)
の
方針
(
ほうしん
)
について、どうすべきか
悩
(
なや
)
む。
要
(
よう
)
するに。
彼
(
かれ
)
がウルクアの
密命
(
みつめい
)
を
受
(
う
)
けたのは、 それぞれが
事
(
こと
)
を
起
(
お
)
こすより
以前
(
いぜん
)
の
話
(
はなし
)
であるからして。
魔導兵
(
まどうへい
)
を
狙
(
ねら
)
う
王党派
(
おうとうは
)
と、 それを
阻止
(
そし
)
したクロイツ
一行
(
いっこう
)
が
対峙
(
む
)
き
合
(
あ
)
った ...あの時。
彼自身
(
かれじしん
)
は、あくまでもフェレンスを
見張
(
みは
)
っていたに
過
(
す
)
ぎない。
応変
(
おうへん
)
に
対処
(
たいしょ
)
せざるを
得
(
え
)
なかったのは
勿論
(
もちろん
)
。 こんな
事
(
こと
)
になるとは思ってもみなかったのだ。
剰
(
あまつさ
)
え。
偶然
(
ぐうぜん
)
、
居合
(
いあ
)
わせたにしては
出来過
(
できす
)
ぎているため。
誰
(
だれ
)
もが
事前
(
じぜん
)
に
仕組
(
しく
)
まれていたものと考えているよう。 だが、もしそうだとすると ...
彼
(
かれ
)
、ヴォルトを
誘導
(
ゆうどう
)
できた
人物
(
じんぶつ
)
は
一人
(
ひとり
)
しかいない。 彼が
脳裏
(
のうり
)
に思い
浮
(
うか
)
かべる
人物
(
じんぶつ
)
は、
謎
(
なぞ
)
めく
因果
(
いんが
)
に
呼
(
よ
)
び
寄
(
よ
)
せられた ... あの、
魔導師
(
まどうし
)
。 フェレンスは何のため、
何時
(
いつ
)
の
頃
(
ころ
)
から、ウルクアに
対
(
たい
)
し
協力的姿勢
(
きょうりょくてきしせい
)
を見せていたのだろう。 知ったところで、どうこう言える
立場
(
たちば
)
ではないが。 少なくともフェレンスは、ウルクアの
真意
(
しんい
)
を
推測
(
すいそく
)
し
加担
(
かたん
)
したはずなのだ。
単純
(
たんじゅん
)
に
興味
(
きょうみ
)
が
湧
(
わ
)
く。 あの
魔導兵
(
まどうへい
)
が
盲目
(
もうもく
)
に
付
(
つ
)
き
従
(
したが
)
い、
時
(
とき
)
に
錯乱
(
さくらん
)
するのも、
仕方
(
しかた
)
ないのではと思えてきた。 そう、ウルクアは ... ...
直属
(
ちょくぞく
)
の
部下
(
ぶか
)
であった彼、ヴォルトにすら何も知らせず。
潔白ノ盾
(
けっぱくのたて
)
として
利用
(
りよう
)
した。 知っていて
肩
(
かた
)
を
持
(
も
)
ったであろう異端ノ魔導師は、
恐
(
おそ
)
らく何かを
企
(
たくら
)
んでいる。
似
(
に
)
た
者同士
(
どうし
)
が
結託
(
けったく
)
したと言うことだろうか。
二人
(
ふたり
)
とも、
嘸
(
さぞ
)
や
都合良
(
つごうよ
)
く
事
(
こと
)
を
運
(
はこ
)
んだに
違
(
ちが
)
いない。 しかしクロイツは、
独断専行
(
どくだんせんこう
)
が
過
(
す
)
ぎると
指摘
(
してき
)
した
先頃
(
さきごろ
)
まで、 それら
不信行為
(
ふしんこうい
)
を
看過
(
かんか
)
していたと言う。 そんな
人物
(
じんぶつ
)
の
傍
(
そば
)
に
配備
(
はいび
)
された
人員
(
じんいん
)
の
筆頭
(
ひっとう
)
としては、
辛
(
かろ
)
うじて
察
(
さっ
)
せる
意図
(
いと
)
だけでも
汲
(
く
)
まねばなるまい。
複雑
(
ふくざつ
)
な
心境
(
しんきょう
)
ではあるが。 彼は
自然
(
しぜん
)
と
俯
(
うつむ
)
いた。 そして
決意
(
けつい
)
する。 今後はクロイツの
傭員
(
よういん
)
として
属
(
ぞく
)
し、
尽力
(
じんりょく
)
していくと。
自身
(
じしん
)
の
目
(
め
)
で
見据
(
みす
)
えようとせず、 ウルクアを
信
(
しん
)
じることに
精一杯
(
せいいっぱい
)
だった
自分達
(
じぶんたち
)
とは
一線
(
いっせん
)
を
画
(
かく
)
す
客観的視野
(
きゃっかんてきしや
)
の
広
(
ひろ
)
さと、
精霊王ノ瞳
(
せいれいおうのひとみ
)
の
持
(
も
)
ち
主
(
ぬし
)
。 クロイツは ...
謎多
(
なぞおお
)
き
取
(
と
)
り
引
(
ひ
)
き
相手
(
あいて
)
の
明晰化
(
めいせきか
)
をも
視野
(
しや
)
に
入
(
い
)
れ、
健闘
(
けんとう
)
している。
共
(
とも
)
に
帰
(
かえ
)
ると
誓
(
ちか
)
いあった
同志
(
どうし
)
に、もしもの
事
(
こと
)
がないよう。 異端ノ魔導師と
対等
(
たいとう
)
する
洞察
(
どうさつりょく
)
と
思慮深
(
しりょぶか
)
さを
兼
(
か
)
ね
備
(
そな
)
えた
者
(
もの
)
から
学
(
まな
)
び、
立
(
た
)
ち
回
(
まわ
)
る
必要
(
ひつよう
)
があると考えたのだ。 きっと、そう、あいつも ... ... この
期
(
ご
)
に
及
(
およ
)
んでもなお、ウルクアを
信
(
しん
)
じようとする自分に
抗
(
あらが
)
えない。
今更
(
いまさら
)
、
抗
(
あらが
)
う
気
(
き
)
も
無
(
な
)
い。
程
(
ほど
)
なくして、
地下施設中央
(
ちかしせつちゅうおう
)
への
帰路
(
きろ
)
についたヴォルトは、 あらためクロイツの
招集
(
しょうしゅう
)
を
受
(
う
)
けた
面々
(
めんめん
)
と
向
(
む
)
き
合
(
あ
)
う
事
(
こと
)
となった。
一個小隊
(
いっこしょうたい
)
と
呼
(
よ
)
ぶにも
心許
(
こころもと
)
ない。
三十余名
(
さんじゅうよめい
)
の
大半
(
たいはん
)
は
工作員
(
こうさくいん
)
である。
複数国家
(
ふくすうこっか
)
に
匹敵
(
ひってき
)
する
火力
(
かりょく
)
の
持
(
も
)
ち
主
(
ぬし
)
に
対
(
たい
)
し、
対抗馬
(
たいこうば
)
になど
成
(
な
)
り
得
(
え
)
ないのは
明白
(
めいはく
)
であるからして。
誰
(
だれ
)
もが
無口
(
むくち
)
。
何度
(
なんど
)
も
死
(
し
)
を
覚悟
(
かくご
)
し
危機
(
きき
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
え、どうにか
生
(
い
)
き
永
(
なが
)
らえてきたであろう
者達
(
ものたち
)
が。 すっかりと
腑抜
(
ふぬ
)
けてしまったようだった。
適当
(
てきとう
)
な
説明
(
せつめい
)
しかされていないにも
拘
(
かか
)
わらず、
不満
(
ふまん
)
を
口
(
くち
)
にする
者
(
もの
)
すらいない。
営利国家
(
えいりこっか
)
の
裏情勢
(
うらじじょう
)
ばかりか、 異端ノ魔導師の
素性
(
すじょう
)
など聞いてしまった日には、もう。
不利益
(
ふりえき
)
どころの
話
(
はなし
)
ではないと言わんばかりだ。
命
(
めい
)
じられた事だけやって、
運良
(
うんよ
)
く
帰
(
かえ
)
れたら、それでいい ... ...
食
(
た
)
べたいものを食べ、
温
(
あたた
)
かい
部屋
(
へや
)
で
寝
(
ね
)
られるだけの
金銭
(
きんせん
)
が
得
(
え
)
られる
仕事
(
しごと
)
を
探
(
さが
)
して。
極
(
ごく
)
ありふれた
生活
(
せいかつ
)
を
送
(
おく
)
り、
余生
(
よせい
)
を
過
(
す
)
ごしたい。 そのためだけに
行動
(
こうどう
)
しているようなものだろう。 クロイツは言う。
嘆
(
なげ
)
いても
仕方
(
しかた
)
のないことだと。
志
(
こころざし
)
を
共有
(
きょうゆう
)
できない者の
多
(
おお
)
くは、
批判
(
ひはん
)
と
銘打
(
めいう
)
ち
不服
(
ふふく
)
を
漏
(
も
)
らすばかりか、
自
(
みず
)
ら
去
(
さ
)
ろうとはしないくせに
反抗的
(
はんこうてき
)
かつ、
相手
(
あいて
)
が
悪
(
わる
)
いと
決
(
き
)
めつけるに
傾倒
(
けいとう
)
し
煩
(
わずら
)
わしい。
黙
(
だま
)
っていてくれるだけ、ありがたいが。 何かしてやる
義理
(
ぎり
)
などない。 「
我々
(
われわれ
)
は
進
(
すす
)
むのだ」 その言葉に、
一行
(
いっこう
)
は
頷
(
うなず
)
く。
実情
(
じつじょう
)
の
把握
(
はあく
)
に
勤
(
つと
)
め
意見交換
(
いけんこうかん
)
し
合
(
あ
)
う、 いつもの
面子
(
メンバー
)
さえいれば
何
(
なん
)
とでもなるはずだ。 いや。 何とか出来る。 何とかする。
陰
(
かげ
)
ながら
様子
(
ようす
)
を見ていた
側
(
がわ
)
からすると。
若年
(
じゃくねん
)
を
含
(
ふく
)
む
大人達
(
おとなたち
)
のうち、ほんの
数名
(
すうめい
)
とは
言
(
い
)
え。
芯
(
しん
)
の
強
(
つよ
)
い
者達
(
ものたち
)
がいたお
陰
(
かげ
)
で
心強
(
こころづよ
)
いなと思う。
隣接
(
りんせつ
)
する
部屋
(
へや
)
の
出入口
(
でいりぐち
)
から
覗
(
のぞ
)
いていたのは、チェシャだった。
出発
(
しゅっぱつ
)
までに聞いた
話
(
はなし
)
によると。
杜
(
もり
)
の
辺境
(
へんきょう
)
を
移動中
(
いどうちゅう
)
、フェレンスは
既
(
すで
)
に
得体
(
えたい
)
の
知
(
し
)
れない
何者
(
なにもの
)
かの
気配
(
けはい
)
を
察知
(
さっち
)
していたそう。
当時
(
とうじ
)
、
見張
(
みは
)
りに
当
(
あ
)
たらせていた
従霊
(
ファントム
)
の
役目
(
やくめ
)
は、
周囲
(
しゅうい
)
の
警戒
(
けいかい
)
ばかりではなく。
杜ノ主
(
もりのあるじ
)
と
検討付
(
けんとうづ
)
けるに
値
(
あたい
)
する
対象
(
たいしょう
)
の
注意
(
ちゅうい
)
を
引
(
ひ
)
くためでもあったのだ。 また、リテの町にて
質入
(
しちい
)
れされた
多機能小機器
(
マルチエクイップメント
)
についてだが。 どうやら
工作員
(
こうさくいん
)
を
介
(
かい
)
しウルクアの手に
渡
(
わた
)
っていたらしい。
首都
(
イシュタット
)
へ
到着後
(
とうちゃくご
)
。
宿泊先
(
しゅくはくさき
)
でカーツェルが
出身
(
しゅっしん
)
を
問
(
と
)
われたのに
対
(
たい
)
し、
答
(
こた
)
える
必要
(
ひつよう
)
はないと
伝
(
つた
)
えたフェレンスは、 アイゼリア
当局
(
とうきょく
)
を
煽
(
あお
)
る
素振
(
そぶ
)
りで、
何者
(
なにもの
)
かと
疎通
(
そつう
)
していたのかもしれない。
王党派
(
おうとうは
)
の
接触
(
せっしょく
)
を
受
(
う
)
け、
自
(
みずか
)
らの
血
(
ち
)
に
代
(
か
)
え作り上げた
魔石
(
ませき
)
を
贈
(
おく
)
った
時
(
とき
)
と
同様
(
どうよう
)
に。
暗
(
あん
)
に
伝
(
つた
)
えていたと思われる。
解析
(
かいせき
)
によって
杜
(
もり
)
の
組成
(
そせい
)
と
主
(
あるじ
)
の
正体
(
しょうたい
)
を
確信
(
かくしん
)
したと。 「しかしだ」 クロイツは言った。 「
小機器
(
エクイップメント
)
の
履歴
(
りれき
)
に
残
(
のこ
)
る
測定法
(
そくていほう
)
と、
値
(
あたい
)
の
意味
(
いみ
)
を
理解
(
りかい
)
できる
者
(
もの
)
が ... ウルクアの
傍
(
そば
)
にいたとは思えぬ」 つまる
話
(
はなし
)
。
通知
(
メッセージ
)
の
受
(
う
)
け
取
(
と
)
り手は
間違
(
まちが
)
いなく、
第一等帝国魔導師
(
だいいっとうていこくまどうし
)
と
肩
(
かた
)
を
並
(
なら
)
べる
偉才
(
いさい
)
であり。 フェレンスの
傍
(
そば
)
には、その
存在
(
そんざい
)
を
知
(
し
)
られたくない
誰
(
だれ
)
かがいたのではなかろうか。
含
(
ふく
)
みのある
言
(
い
)
い
回
(
まわ
)
しではあるものの。
聞
(
き
)
くまでもなさ
過
(
す
)
ぎて。
誰
(
だれ
)
もが、ただ、
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
いた。
傍
(
そば
)
... と言えば、あの
男
(
おとこ
)
しかいない。
集中
(
しゅうちゅう
)
する
視線
(
しせん
)
に
動揺
(
どうよう
)
し思わず サッ と
横
(
よこ
)
に
避
(
よ
)
けた
幼子
(
おさなご
)
は、
気不味
(
きまず
)
いながら
部屋
(
へや
)
の
奥
(
おく
)
へと
戻
(
もど
)
って
行
(
い
)
く。
物資
(
ぶっし
)
の
不足
(
ふそく
)
を
鑑
(
かんが
)
みて、
灯
(
あか
)
りを
分
(
わ
)
けてもらうため。 男が
眠
(
ねむ
)
る
部屋
(
へや
)
の
扉
(
とびら
)
は
開
(
あ
)
けっ
放
(
ぱな
)
しにされていた。 そしてクロイツは、その
正面
(
しょうめん
)
に
立
(
た
)
ったまま。
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かせたノシュウェルが
椅子
(
いす
)
を
持
(
も
)
ってきて
置
(
お
)
くと、
一人
(
ひとり
)
だけ
座
(
すわ
)
って
動
(
うご
)
かない。
用心
(
ようじん
)
のためだろう。
彼
(
かれ
)
が
目覚
(
めざ
)
めるまで
見張
(
みは
)
るつもりだ。 チェシャは
簡易
(
かんい
)
ベッドに
横
(
よこ
)
たえた男の
傍
(
かたわ
)
らに
居
(
い
)
て、
時々汗
(
ときどきあせ
)
を
拭
(
ふ
)
いてやっている。 クロイツの
眼光
(
がんこう
)
を
遮
(
さえぎ
)
ってやりながら。 「ツェル ... ... 」
魘
(
うな
)
されているようなので、
何度
(
なんど
)
か
愛称
(
あいしょう
)
で
呼
(
よ
)
ぶも
反応
(
はんのう
)
は
無
(
な
)
い。 カーツェル、彼は ...
自身
(
じしん
)
の
名
(
な
)
すら
忘
(
わす
)
れかけていた。 どこで、何をしているのか。
自身
(
じしん
)
という
形
(
かたち
)
を
捉
(
とら
)
える
事
(
こと
)
すら
難
(
むずか
)
しく。 まるで、水や空気と
一体化
(
いったいか
)
してしまったような
感覚
(
かんかく
)
。
藻掻
(
もが
)
こうにも、
意識
(
いしき
)
だけ
揺蕩
(
たゆた
)
うばかりなのだ。 このままでは、消えてしまいそう。 だが、どこからともなく
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えのある
声
(
こえ
)
がして、
引
(
ひ
)
き
戻
(
もど
)
される。 声の
主
(
ぬし
)
は、彼の名を
呼
(
よ
)
んでいた。 けれど、それらはの
出来事
(
できごと
)
は ...
願望
(
がんぼう
)
でしかないのかも。 あるいは。
夢
(
ゆめ
)
... ... ? そう、夢だ。 彼は次の
瞬間
(
しゅんかん
)
、ハッ ... と
短
(
みじか
)
く
息
(
いき
)
を
吸
(
す
)
い、
瞼
(
まぶた
)
を
開
(
ひら
)
く。 すると
真
(
ま
)
っ
先
(
さき
)
に目と目が
合
(
あ
)
って。
相手
(
あいて
)
は
今一度
(
いまいちど
)
、
繰
(
く
)
り
返
(
かえ
)
した。 「カーツェル ... ?」 そうして、彼の
頬
(
ほほ
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろす。 ところが
呼
(
よ
)
ばれた
当人
(
とうにん
)
はと言うと。
切
(
せつ
)
な
気
(
げ
)
な
表情
(
ひょうじょう
)
を
浮
(
う
)
かべ、
戸惑
(
とまど
)
っている
様子
(
ようす
)
。 彼の
五感
(
ごかん
)
をより
鮮明
(
せんめい
)
にしたのは、
途方
(
とほう
)
も
無
(
な
)
い
違和感
(
いわかん
)
だった。 何せ自分と
相手
(
あいて
)
、
共
(
とも
)
に。
見掛
(
みか
)
けと
年齢
(
ねんれい
)
が
一致
(
いっち
)
しない。
背丈
(
せたけ
)
からして、
随分
(
ずいぶん
)
と
縮
(
ちぢ
)
んだ
気
(
き
)
がする。 そればかりか。
伝
(
つた
)
わる
手
(
て
)
の
温
(
ぬく
)
もりも。 そよ風に
吹
(
ふ
)
かれる
草花
(
くさばな
)
の、
仄
(
ほの
)
かな
香
(
かお
)
りも。
手入
(
てい
)
れを
忘
(
わす
)
れられた
生垣
(
いけがき
)
により
隔
(
へだ
)
たる、
小さな 々 箱庭
(
ちいさな ちいさな はこにわ
)
、
当所
(
とうしょ
)
の
存在
(
そんざい
)
も。 今、
置
(
お
)
かれた
状況
(
じょうきょう
)
に
至
(
いたる
)
る
経緯
(
けいい
)
すら
記憶
(
きおく
)
に
無
(
な
)
いのに。
懐
(
なつ
)
かしくて
仕方
(
しかた
)
がないのだ。 けれど ...
顔
(
かお
)
を
寄
(
よ
)
せ
見下
(
みおろ
)
ろしてくる
相手
(
あいて
)
の
名前
(
なまえ
)
だけは、 すんなり思い出せるのだから
不思議
(
ふしぎ
)
と言うか。
謎
(
なぞ
)
でしかない。 「フェレンス ... ?」 「
分
(
わ
)
かるか?」 「そりゃあな」 でも、自分の
事
(
こと
)
に
限
(
かぎ
)
って、あまり思い出せない。
声
(
こえ
)
も、何か、いつもと
違
(
ちが
)
うような。 ああ、でも、いいのか ... ...
諄
(
くど
)
いようだが、これは夢。 いつもの夢、なのだ。 そう、これは、いつもの ... ... 「 ... あれ? でも
何
(
なん
)
か
違
(
ちが
)
くね?」 「
何
(
なに
)
かとは?」 「いや、だから ...
何
(
なん
)
かだよ」 「そうか」
分
(
わ
)
からなくもない。 フェレンスは
顔色一
(
かおいろひと
)
つ
変
(
か
)
えず。
膝
(
ひざ
)
の
上
(
うえ
)
に
転
(
ころ
)
がったまま
寝惚
(
ねぼ
)
けているらしいカーツェルの
頭
(
あたま
)
を
撫
(
な
)
でてやる。
対
(
たい
)
してカーツェルは思った。 しかも、
膝枕
(
ひざまくら
)
とか ... ... フェレンスに
撫で 々
(
なでなで
)
されるとか、今まで、こんな
事
(
コト
)
あったかと。 ただの
願望
(
がんぼう
)
なら、
懐
(
なつ
)
かしさなど
覚
(
おぼ
)
えるはずがないのに。
全
(
まった
)
くもって
意味
(
いみ
)
が
分
(
わ
)
からない。 そもそも
願望
(
がんぼう
)
って ... ... ? まさか
俺
(
オレ
)
、フェレンスに
撫で 々
(
なでなで
)
されたかったの ... ... ? され、た、かったんだ、ろう、な。 そうじゃないと
辻褄
(
つじつま
)
が
合
(
あ
)
わないのだから。 それとも、
忘
(
わす
)
れているだけ ... ... ? そんなはずはない。 そんなはず ... ... 「なぁ、フェレンス」 「どうした」 「もっと、して?」 そう、彼は、フェレンスと
触
(
ふ
)
れ
合
(
あ
)
っていたいだけだ。 「もっと、
撫
(
な
)
でて?」 それなのに。 「お前と
此処
(
ここ
)
に
来
(
く
)
ると、
い
つ
も
そう。 なので、言われる前からしてやっていたつもりだが?」
素直
(
すなお
)
に
応
(
おう
)
じて
微笑
(
ほほえ
)
むフェレンスの
言動
(
げんどう
)
が。 彼の
記憶
(
きおく
)
と
噛
(
か
)
み
合
(
あ
)
わない。
確
(
たし
)
かに、ずっと、ずっと長い
間
(
あいだ
)
、そうしていたような。
何度
(
なんど
)
も、
何度
(
なんど
)
も
繰
(
く
)
り
返
(
かえ
)
しているような。 そんな
気
(
き
)
はする。 けど ... ... 「
足
(
た
)
りない」 と言うか、してもらった
記憶
(
きおく
)
が
無
(
な
)
い。 「それにさ。いつも ... してくれてるなら、 たまには ... 良いだろ? もっと、してくれたって」 自分が何を
期待
(
きたい
)
しているのかさえ
曖昧
(
あいまい
)
なのに。
知
(
し
)
ったつもりになって
要求
(
ようきゅう
)
しているのだ。 「して ... フェレンス」 して ... ... フェレンスが
着
(
き
)
る
寛衣
(
かんい
)
の
小袖
(
こそで
)
を
摘
(
つま
)
み、
引
(
ひ
)
き
寄
(
よ
)
せると。 何を? と、
悪戯
(
いたずら
)
に
問
(
と
)
われる。 彼は言った。 「
当
(
あ
)
ててみろよ」 この
手
(
て
)
の
煽
(
あお
)
りが
通用
(
つうよう
)
する
相手
(
あいて
)
ではないのに。 「ふむ。
良
(
い
)
いだろう。では、もう
一度
(
いちど
)
だけ
説明
(
せつめい
)
するので、
今度
(
こんど
)
は
眠
(
ねむ
)
らずに
聴
(
き
)
なさい」 「え、何を?」
案
(
あん
)
の
定
(
じょう
)
、
相手
(
あいて
)
の
問
(
とい
)
いを
反復
(
はんぷく
)
する
羽目
(
はめ
)
になった。
片
(
かた
)
やフェレンスは
余裕
(
よゆう
)
の
表情
(
ひょうじょう
)
である。 「
背理
(
パラドックス
)
が
生
(
しょう
)
じた
量子
(
りょうし
)
の
縺
(
もつ
)
れの、
多次元
(
たじげん
)
に
渡
(
わた
)
る
反響
(
はんきょう
)
について。 まずは、
三次元物質界
(
さんじげんぶっしつかい
)
に
関与
(
かんよ
)
する
境界
(
きょうかい
)
の
認知法
(
イメージング
)
と。 それらが
神々ノ意識世界
(
スフィラ
)
に
及
(
およ
)
ぼす
影響
(
えいきょう
)
から ... 」 「ぁあぁぁああぁぁ゛
違
(
ちが
)
う!」 そうじゃない ... ... !
絶対
(
ぜったい
)
、わざとだ。
焦
(
じら
)
らされてる。 それだけは
分
(
わ
)
かるけど。 「
惚
(
とぼ
)
け る な !」
得体
(
えたい
)
の
知
(
し
)
れぬ
衝動
(
しょうどう
)
に
突
(
つ
)
き
動
(
うご
)
かされ、
胸
(
むね
)
が
高鳴
(
たかな
)
る。 フェレンスが、ただ、ゆっくりと
息
(
いき
)
を
吸
(
す
)
い、
吐
(
は
)
くだけの
僅
(
わず
)
かな
動作
(
どうさ
)
に
見惚
(
みと
)
れる。
気付
(
きづ
)
けば、
自
(
みずか
)
ら
身体
(
からだ
)
を
起
(
お
)
こし、
相手
(
あいて
)
の
胸
(
むね
)
に
縋
(
すが
)
り
付
(
つ
)
いていた。
早
(
はや
)
く
欲
(
ほ
)
しいくて
仕方
(
しかた
)
がないのだ。 フェンスは
相
(
あい
)
も
変
(
か
)
わらず
悠長
(
ゆうちょう
)
にしているが。
不意
(
ふい
)
を
突
(
つ
)
くように、彼の
耳元
(
みみもと
)
で
囁
(
ささや
)
く。 「ならば、
改
(
あらた
)
め
考
(
かんが
)
え
直
(
なお
)
してみよう。 お前が
私
(
わたし
)
に
対
(
たい
)
してだけ
欲張
(
よくば
)
りなのは、
何故
(
なぜ
)
なのか」 そう、
欲
(
ほ
)
しいのは、その
答
(
こた
)
え。 するとカーツェルが何かを言いたげに
口
(
くち
)
だけ
開
(
ひら
)
き、
言
(
い
)
い
留
(
とど
)
まる。 分かりかけていたはずだが、どうしてか
言葉
(
ことば
)
にしてはいけない
気
(
き
)
がして。
今度
(
こんど
)
は
逆
(
ぎゃく
)
に
煽
(
あお
)
られてしまうのだ。 「どうした。今日は言ってくれないのか?」 いつも、していた
事
(
コト
)
。 いつも、言っていた
事
(
コト
)
。
聞
(
き
)
きたいのは、こっちなのに。
教
(
おし
)
えてくれたって良いじゃないか。 彼は
唇
(
くちびる
)
を
噛
(
か
)
み
締
(
し
)
める。
少
(
すこ
)
しだけ、
悔
(
くや
)
しくて。 ところが、
瞬
(
またた
)
く
間
(
ま
)
に
動転
(
どうてん
)
する
場
(
ば
)
の空気。
背筋
(
せすじ
)
も
凍
(
こお
)
るような
殺気
(
さっき
)
と
視線
(
しせん
)
を感じ、
我
(
われ
)
に
返
(
かえ
)
る
思
(
おも
)
いがした。 そうして
咄嗟
(
とっさ
)
に
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
くと。
身体
(
からだ
)
から、すり
抜
(
ぬ
)
ける。 彼の
幻体
(
げんたい
)
は、
然
(
しか
)
るべき
形態
(
カタチ
)
を
取
(
と
)
り
戻
(
もど
)
すかのように
変
(
へん
)
じ。
音速
(
おんそく
)
の
壁
(
かべ
)
を
破
(
やぶ
)
って
一直線
(
いっちょくせん
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
される
光媒
(
こうばい
)
を
受
(
う
)
け
止
(
と
)
めた。
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嵩都 靖一朗
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