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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅸ

      (はしら)には(ほう)()められているよう。 その(おもて)には(いん)(つづ)(あお)(ひかり)が、(あらわ)れては()え。 そこそこ体格(たいかく)()大人(おとな)男一人(おとこひとり)を、易々(やすやす)(しば)()けていたのだ。 やや見上(みあ)げるかたちで(つめ)たい視線(しせん)(おく)る少年が、 彼に(あざむ)かれたと知ったのは、つい先頃(さきごろ)のこと。 王党派(おうとうは)地下施設(ちかしせつ)(かこ)()んでいた魔薬(まやく)(はこ)()は、現在(げんざい)行方不明(ゆくえふめい)。 少年は、ウルクアが()れ出し()がしたと思っている。 それが事実(じじつ)なら、詐欺(さぎ)同然(どうぜん)。 ウルクアは遠退(とおの)意識(いしき)(つな)()め、こう釈明(しゃくめい)した。 「騒動(そうどう)最中(さなか) ... 私が到着(とうちゃく)した時 ... ... (すで)に ... 〈彼女(かのじょ)〉の姿(すがた)は、なかった ... 」 ところが少年は拒絶(きょぜつ)する。 「聞きたくありませんね。見え()いた(うそ)には、もう飽き 々 (あきあき)しました。  そもそも、フェレンスを(あざむ)必要(ひつよう)はないと言ったはずです。  あえて不合理(ふごうり)(おか)したのには何か理由(りゆう)があるのでしょう?  お(おたが)信用(しんよう)する気が無いのに、初めから無理(むり)がありましたね」 交渉(こうしょう)決裂(けつれつ)だ。 「それでも ... 貴方(あなた)は、私を ... ... 始末(しまつ)するわけにはいかない ... ... 」 「ええ。否定(ひてい)しません」 分かり切っていた。 「魔力を宿(やど)す血には瘴気(しょうき)(ともな)い、あらゆる態系(たいけい)(どく)しますから。  この(もり)例外(れいがい)ではなく、事が起きては、制御(せいぎょ)()(さわ)りが(しょう)じてしまう。  何もかも、お(さっ)しの(とお)りです」 だからこそ、一度は譲歩(じょうほ)したという理由(わけ)だ。 「しかし貴方(あなた)(のぞ)んだ交渉(こうしょう)が、目的(もくてき)ではなく手段(しゅだん)である以上(いじょう)。  貴方の生体(せいたい)(たましい)記憶(きおく)(いた)るまで警戒(けいかい)せざるを()ない」 王党派(おうとうは)魔導兵(まどうへい)(ねら)機会(きかい)と、 施設(しせつ)(はこ)び手の排除(はいじょ)をより確実(かくじつ)(おこな)(さく)は、 やはり(おとり)手引(てび)きだったよう。 「フェレンスも気付(きづ)いていたはずです。  この状況下(じょうきょうか)重要(じゅうよう)場面(ばめん)居合(いあ)わせた者の中には(かなら)ず、  精霊王(せいれいおう)から(ひとみ)(うば)った魔女ノ末裔(まじょのまつえい)()ましたから。    魔導兵(まどうへい)()(かま)えての捕縛作戦(ほばくさくせん)ばかりか。  魔薬(まやく)(はこ)()追跡(ついせき)するに(いた)るまで。  見切(みきり)応対(おうたい)()ぎる気はしますが、何か事情(じじょう)があるのでしょうね。  ... (さいわ)い、魔薬(まやく)(ほう)は魔導兵に投与(とうよ)されたようなので、問題ありませんが。  やれやれ。変わってしまった彼の機嫌(きげん)(そこ)ねないよう(ひか)えめにするのにも、(ほね)()れます。  誘導(ゆうどう)のため操作(そうさ)した擬態(ぎたい)に、招待状(しょうたいじょう)仕込(しこ)んでおいて()かった」   少年が()()け、その()(あと)にしたのは、ウルクアの(いき)(あさ)くなりはじめた(ころ)()られ下を向く彼の上半身(上半身)は、鬱血(うっけつ)()まり切っている。 浮腫(むく)みも(ひど)い。 血が(かたよ)り、このまま()(うしな)ってしまったなら、二度と目覚(めざ)めることは無い。 それが普通(ふつう)だ。 しかし彼は、()かさず(ころ)さず、(なぶ)られるだろう。 本人(ほんにん)も、分かっている。 だが、彼は笑った。 祭壇(さいだん)()こうへと消え入る少年の姿(すがた)を、(かろう)うじて見送(みおく)りながら。 意識(いしき)途絶(とだ)える間際(まぎわ)に。 「異端ノ ... 魔導師 ... 。(うわさ)(たが)わぬ ... 賢才(けんさい) ... ...  (じつ)に ... 協力的(きょうりょくてき)で、(たす)かる ... ... 」 そう、(ささや)いて。 彼が最後に思い(かえ)したのは、少年が(つら)ねた話脈(わみゃく)一部(いちぶ)。 〈 (さいわ)い、魔薬(まやく)(ほう)は魔導兵に投与(とうよ)されたようなので、問題ありませんし ... ... 〉 やがて()(うしな)った彼の身体(からだ)(しず)かに(よこ)たえるは、水か光か。 (あお)清流(せいりゅう)(ごと)飛来(ひらい)する心魂(しんこん)。 少年は気付(きづ)かなかった。 この策謀(さくぼう)(じょう)じて、人知(ひとし)れずウルクアを手助(てだす)けした者がいることに。 興味(きょうみ)衰退(すいたい)原因(げんいん)だろう。 何せ、どうでもいい。 そんな気がしていた。 〈 ()るを(さしわ)いとし、(めぐ)(もたら)しめよ ... 〉 (だれ)かが、そんなことを言っていたような気もするが。 〈 ()れにおける格言(かくげん)覚真(かくしん)智慧(ちえ)と言わしめ (さと)し、(みちび)け ... 〉 (みちび)くべき(たみ)など、もう ... ... この〈世界〉には存在(そんざい)しない。 (うば)われたのだ。 かつて豪族(ごうぞく)(ひき)いた ... 地上ノ王(ちじょうのおう)に。 今は()祖国(そこく)(おも)えば、 (まつ)わる郷愁(きょうしゅう)心性(しんせい)(にご)す。 少年について。 告知(こくち)()けたのは、作戦決行(さくせんけっこう)数日前(すうじつまえ)だった。 静かに(かた)るフェレンスの表情(ひょうじょう)は、いつにも()して(かた)いように思う。 一方(いっぽう)のクロイツは顔の前で手指(しゅし)()み、清聴(せいちょう)した。 『私が(はじ)めて(もり)息吹(いぶき)を感じ取ったのは、三世紀(さんせいき)ほど前。  帝国の専門機関(せんもんきかん)配属(はいぞく)された当初(とうしょ)は、残存(ざんぞん)する叡智(えいち)開示(かいじ)するため、  祖粒子(そりゅうし)(まつ)わる魔導理化学(まどうりかがく)境界幾何学(きょうかいきかがく)をはじめとする、  高次元学問(こうじげんがくもん)信託(しんたく)運用(うんよう)監修(かんしゅう)する立場(たちば)()かれた。  そのために。  遺物(いぶつ)探査(たんさ)参加(さんか)協力(きょうりょく)することもあって。  帝国が(おも)に、硝子ノ宮(がらすのみや)残滓(ざんし)対象(たいしょう)とし、  採掘(さいくつ)調査(ちょうさ)(すす)めてきたことを知っている。  補足(ほそく)すると。  崩壊(ほうかい)したシャンテの都市(とし)(ちゅう)散乱(さんらん)し、  そのほとんどが大陸(たいりく)()ちるか、海洋(かいよう)(しず)んだはずなので。  浮遊島(ふゆうじま)となり、この世界の(そら)彷徨(さまよ)(つづ)けているのは、ほんの一部(いちぶ)()ぎず。  崩落(ほうらく)した(のち)()もれてしまった遺跡(いせき)の方が、圧倒的(あっとうてき)に多いのが実情(じつじょう)。   ... にも(かか)わらず、何故(なぜ)か。  悪条件(あくじょうけん)と言える海洋(かいよう)での()()げに立ち()うことも、少なくなかった』 (もと)状態(じょうたい)を知るが(ゆえ)()かされたのだから、当然(とうぜん) ... 気付(きづ)きはするのだ。 いくら長い年月を()ているとは言え、見込(みこ)みに(たい)して()られる物量(ぶつりょう)(すく)なすぎると。 『先取(さきど)りされていたと言うことか』 するとクロイツが(かさ)ねて()う。 『貴様(きさま)という(やつ)は ... この()()んで、  (なお)も知らぬ素振(そぶり)りを続けてきたと言うわけだな。 ... 何故(なぜ)だ?』 フェレンスに(かぎ)って、調(しら)べる手段(しゅだん)が無かったはずは無し。 確信(かくしん)()てないなんて、生温(なまぬる)い考えに(とど)まるような(たま)でもないのだから。 (あき)らかに〈()れることを()けてきた〉 ... そう断言(だんげん)せざるを()ないのだ。 ところがクロイツは()ぐに、(たず)ねた事を後悔(こうかい)する。 両者(りょうしゃ)(ひざ)の上に(ひら)いて()いた古書(こしょ)()かい、対話(たいわ)していた。 右の(ページ)には、相手(あいて)言葉(ことば)が。 左の(ページ)には、相手(あいて)動作(どうさ)が。 それぞれ()文章(ぶんしょう)(あらわ)れる。 フェレンスの魔法(まほう)()められた古書(こしょ)だ。 ()っている(あいだ)に、(いや)予感(よかん)はしたけれど。 クロイツにしては(めずら)しく、顔に出さぬよう(つと)めていたらしい。 それなのに。 左側(ひだりがわ)墨汁(インク)(にじ)んで靄々(モヤモヤ)(ただよ)ったかと思えば。 (ページ)一面(いちめん)(てのひら)(ふさ)いだ絵図(えずら)()かぶ。 手相(てそう)でも()()しいのか ... ... ? そんなわけあるか ... ... ? 真顔(まがお)古書(こしょ)見詰(みつ)めるクロイツの様子(ようす)(うかが)っていたのは、ノシュウェル一人だけだが。 真顔なのに、そう言いたそうに見えたのだとか。 フェレンスは、どんな顔をして(こた)えたのだろう。 想像(そうぞう)()かないけれど。 クロイツが見る古書(こしょ)右側(みぎがわ)には、小さく、小さく ... こう(つづ)られた。 『 カーツェルの(そば)に ... ... ()たかった 』 見てはいけないものを見てしまった気がして。 クロイツの(うし)ろで背伸(せの)びをしていた覗き見男(ノシュウェル)早々( ス ス ス ... )()る。 終始(しゅうし)真顔(まがお)(くず)さなかったクロイツも、流石(さすが)(だま)ってしまった。 指先(ゆびさき)眉間(みけん)(つま)み、絶句(ぜっく)していると言った方が良い。 (かた)やフェレンスの見る古書(こしょ)には、文字化(もじか)した大きな、大きな ... 溜息(ためいき)が。 クロイツの立場(たちば)からすると。 存外(ぞんがい)素直(すなお)に答えられたものだから、むしろ(こま)るのだ。 これ以上(いじょう)馬鹿(ばか)らしいと思うことがあろうかと。 (あき)(かえ)ってものも言えない。 唖然(あぜん)とするを(とお)()し、幻滅(げんめつ)した。 シャンテの中枢(ちゅうすう)(つかさど)った番人(ばんにん)か何か知らないが。 これまで散々(さんざん)無感情(むかんじょう)利己主義的(りこしゅぎてき)冷血漢(れいけつかん)(よそお)ってきた男がだ。 こんな、どうしようもなく単純(たんじゅん)()質素(しっそ)(ねが)いのために。 陰謀渦巻(いんぼううずま)階級(かいきゅう)ならぬ血統社会(けっとうしゃかい)という泥沼(どろぬま)で、 必要(ひつよう)とされるままに()()め、()(なが)らえてきたと言う。 ()すべきを成す(ため)とは、あの化物(ばけもの)槍玉(やりだま)になるのを(ふせ)ぐためか。 なるほど。なるほど。 クロイツは至極(しごく)納得(なっとく)した。 やはり亡国(ぼうこく)は、(ほろ)ぶべくして(ほろ)んだのだと。 どんなに優秀(ゆうしゅう)管理者(アドミニストレーター)であろうとも。 我欲(がよく)芽生(めば)えてしまっては()わり。 何もかも、操作(そうさ)できてしまうからだ。 だがそれでは、この世界を(うら)牛耳(ぎゅうじ)奴等(やつら)と変わらないのに。 どのように見方(みかた)()え、解釈(かいしゃく)したら()いのやら。 ただでさえイカレタ野郎共(やろうども)が ... ()れた()れたなどと、 手段(しゅだん)()わずに天命(てんめい)()けるのか。 落胆(らくたん)せずにはいられない。 「 ククク ... ... ククク ク ... ... 」 (しま)いには(わら)いと(いか)りが()()げた。 なのに()()()いていく。 その時。 クロイツの()()(がお)青褪(あおざ)めて見えたので。 ノシュウェルは(おのの)き、(さら)()()がった。 罵詈雑言(ばりぞうごん)()びせるつもりと思ったのだ。 ところが。 何やら(かた)(ちから)()けていく。 古書(こしょ)を見る目が()めていく。 クロイツは思った。 女々(めめ)しく(した)()いている場合(ばあい)呆け那須(ボケナス)め ... ... 。 不意(ふい)絵柄(えがら)を変えた(ページ)の左側に見る男が。 (ひざ)の上の古書(こしょ)()()う異端ノ魔導師が。 余分(よぶん)(あご)()いているように見えたのだ。 (わず)かに視線(しせん)(そら)して。 ()ずかしがる子供(こども)のように。 (すこ)しだけ気不味(きまず)そうに。 よもや ... 元帝国魔導師(もとていこくまどうし)上級者(シニアクラス)比較(ひかく)し、 那須(ナス)失礼(しつれい)だったなどと思い(かえ)す日が来るとは思わなんだが。 気を取り(なお)すより他無(ほかな)くて。 (なさ)()くて。 言葉にならなかった。 抑々(そもそも)数世紀(すうせいき)もの(あいだ) 一貫(いっかん)黙秘(もくひ)するには、時間(じかん)理由(りゆう)()()わない。 未来(みらい)予知(よち)する能力(のうりょく)でもあるのだろうか。 いや、それは流石(さすが)()い気がする。 行くべき道、()けるべき災難(さいなん)を知る者が、 そこまで徹底(てってい)周囲(しゅうい)情報(じょうほう)()らさぬよう()()必要(ひつよう)があるのかという話だ。 (ぎゃく)都合(つごう)()いよう発信(はっしん)し、誘導(ゆうどう)するに傾倒(けいとう)する 帝国(ていこく)奴等(やつら)(ちが)って()(づら)い。 けれども。 予測(よそく)するうち、留意(りゅうい)すべき可能性(かのうせい)としては(ふた)つまで(しぼ)れた。 (いち)、そういった能力者(のうりょくしゃ)(ほか)存在(そんざい)し ... 啓示(けいじ)()けたか。 ()断定的(だんていてき)に、そうなると予測(よそく)される何らかの出来事(できごと)が ... 過去(かこ)にあったか。 するとクロイツは、ある(こと)()()いて(いき)()む。 そうか ... アレセルが奴等(やつら)(がわ)についたのは、(いち)ノ可能性に(ちか)実情(じつじょう)()ぎつけたから ... ... (かか)わる者がフェレンスに(がい)()さぬか(いな)か、場合(ばあい)によっては廃除(はいじょ)するつもりなのだ ... ... もし、そうなら。 我々(われわれ)がすべきは ... 二ノ可能性に()れ、実態(じったい)を知ること ... ... (よう)するに今、本人(ほんにん)から聞き出せば良い。 簡単(かんたん)簡単(かんたん)。 いや、(うそ)だ。 本当は ... ... (ちゅーぱー)激烈(げきれつ)面倒(めんど)くちゃい ... ... 何が(かな)しくて、 〈 訳有な番(ワケアリ カップル)関係(かんけい)(こじ)れた経緯(けいい)を聞き出す 〉 みたいな(こと)をせねばならぬのかと。 クロイツが脱力(だつりょく)項垂(うなだ)れた時。 瀬戸際(せとぎわ)(さっ)し、ノシュウェルは覚悟(かくご)する。 何しろ、あの策士(さくし)が。 あのクロイツが、眉間(みけん)(おさ)えながら白目(しろめ)()いていたのだ。 (よう)するに(こわ)れかけている。 こればっかりは見過(みす)ごすわけにはいかない。 こうなりゃ俺が一発(いっぱつ)蹴飛(けと)ばされて(まる)(おさ)めるしか ... ... しかし、どうしよう。 いざ考えると気が()いた。 異端ノ魔導師と決別(けつべつ)してしまっては、()われる立場(たちば)脱却(だっきゃく)するための(みち)()ざされてしまう。 どうにかしてクロイツを正気(しょうき)(もど)さねばならない。 すると思い立つ。 彼の手元(てもと)には、()し入れ(そこ)なった葉ノ湯(はのゆ)。 それも、すっかり()めてしまっている ... が、(かま)ってなどいられない。 意気込(いきご)むノシュウェルは颯爽(さっそう)()み出した。 けれども、いざとなると手が(ふる)える。 〈 カタカタカタカタ ... ... 〉 差し出した茶陶(ティーカップ)受皿(ソーサー)小刻(こきざ)みに()る。 ですよね。 だって怖いもん ... ... ()れど(あと)には引けぬ。 やるしかない。 クロイツがフェレンスに(たい)しブチキレてしまわないよう。 (いか)りの矛先(ほこさき)()えるために。 そう思った。 名付(なづ)けて ... ... いつか行った女中喫茶(メイドきっさ)の女の子を、全力(ぜんりょく)真似(まね)してみる作戦(さくせん)。 何のこっちゃ ... ... ノシュウェルが、自問自答(じもんじとう)しはじめたのは、 きっと、恐怖(きょうふ)(われ)(わす)れているせい。 すっかりと(やく)に入った彼は言う。 「ご注文(ちゅうもん)のお(ちゃ)を、お()ちしましたぁ!  そしてそしてぇ! 何だか元気(げんき)のな~い、ご主人様(しゅじんさま)のために~!  わたし、ノシュウェルが! 萌々(もえもえ)魔法(まほう)をかけちゃいまぁ~す!」 いや、これ、大丈夫(だいじょうぶ)か ... ... ノシュウェルの(よこ)で、フラリ ... 立ち上がるクロイツは無言(むごん)だ。 「いっくよぉ~!」 やめとけ ... ... (われ)ながら()度胸(どきょう)をしていると思うが。 中途半端(ちゅうとはんぱ)()めたところで、どうせ()められるので。 「せぇのぉ!」 やりきろう ... そう思った ... が。 (あま)かった ... ... (おに)形相(ぎょうそう)()()いたクロイツと目が合ったのは、 魔法(まほう)呪文(じゅもん)(とな)える二秒前(にびょうまえ)。 「ノシュノシュ♥ ウェルウェル♥  ミラクル ラブラ~ブ パワ~! ちゅ~~~にゅ゛う゛ふぉ゛!!」 そうして(はじ)まったのが、左鉤打(ひだりフック)と、()りの応酬(おうしゅう)だ。 〈ドスッ〉 「 ウ ザ イ !!」 〈ガシッ〉 「 長 い !!」 〈ドシッ〉 「 気  色  悪(き し ょ く わ る) い !!」 〈バキッ〉 (つづ)く。 軽快(リズミカル)(ののし)られながら何度(なんど)()(つぶ)されたことか。 気を(うしな)寸前(すんぜん)のところで(ゆか)()びているノシュウェルには、知る(よし)も無い。 ただ、どうせなら最後(さいご)まで言わせて()しかったなぁ ... ... なんて、()っすらと考えていたような。 クロイツも、そこそこ気遣(きづか)手加減(てかげん)してやったらしい。 それはそれで、とんでも作戦(さくせん)(こう)(そう)したか。 まったく ... どいつもこいつも ... ... 発散(はっさん)調子(ちょうし)()(もど)したクロイツは、 先程(さきほど)(ちゃ)一飲(ひとの)みにして、(せき)(もど)った。 すると、()げ出していた古書(こしょ)の右(ぺーじ)が ペラペラと音を()振動(しんどう)しているように見える。 まさかと思い手に取ると。 (あん)(じょう)、フェレンスが(いき)(ころ)(わら)っていた。 (ひく)く、(うな)るような声でクロイツは言う。 『 貴様( き ー さ ー ま ー ) 』 その一方(いっぽう)困惑(こんわく)したのは、それまでのやり取りを聞かされている(がわ)だ。 (もう)しわけ程度(ていど)()びるフェレンスは、それでもまだ笑い声を()らしている。 『 フ ... ああ、すまない ... ... フフ ... 』 (たい)して。 フフ じゃねーよ ... ... と、思ったのは、さて誰だろう。 「て言うか、あの人 ... 今ので笑えるってどうなの」 「うん。まぁ。良く言えば、(うつわ)が大きいってこと ... なのかな」 このところで言えば、わりと馴染(なじ)みの二人。 ノシュウェルの元部下(もとぶか)、ルースとアルウィ、両名(りょうめい)である。 彼等(かれら)のもとに(とど)くのは、解析(かいせき)必要(ひつよう)信号(しんごう)のみ。 だが、フェレンスから事前(じぜん)()()っていた魔導具(マギアムパーツ)()められた法則(コード)により、 音声(おんせい)へと変換(へんかん)し聞くことが出来た。 とは言え、本来(ほんらい)目的(もくてき)盗聴(とうちょう)などではない。 密偵(みってい)(あぶ)り出しだ。 どこに仕掛(しか)けられているかも分からない盗撮機(とうさつき)発信(はっしん)傍受(ぼうじゅ)し、分析中(ぶんせきちゅう)確認(かくにん)された特有(とくゆう)波導(はどう)は、 高度(こうど)錬金術(れんきんじゅつ)(もち)生産(せいさん)される、魔導素子(まどうそし)のそれと一致(いっち)している。 そう。 アイゼリア王党派(おうとうは)帝国(ていこく)(つな)がり、そして、 フェレンスに付きまとっていた ... あの老人(ろうじん)が、 対立派閥(たいりつはばつ)諜報員(ちょうほういん)であることを明確(めいかく)にしたのは彼等(かれら)だった。 フェレンスとクロイツの動向(どうこう)(つね)監視(かんし)されているうえ。 目を光らせているのは、ウルクアの(いき)()かった男、二人であるからして。 それらの情報(じょうほう)極内密(ごくないみつ)精査(せいさ)するためには、 目引(めひ)(やく)の他、裏方(うらかた)()てなければならず。 適任(てきにん)見做(みな)されたらしい。 ただし、フェレンスやクロイツから直接(ちょくせつ)指示(しじ)があったわけではない。 行動(こうどう)すべきと自身(じしん)判断(はんだん)し、傍受(ぼうじゅ)(こころ)みていたところ。 思いも()らぬ後押し(サポート)があったので。 まぁ、そう言うことだろうなと。 魔法の()められた古書(こしょ)(はさ)まれていた(しおり)を見たクロイツは当初(とうしょ)、 何も言わず彼等(かれら)手渡(てわた)した。 まず初めに受け取ったのはアルウィ。 彼は(あや)うく、それを()てかけたが。 咄嗟(とっさ)(ひろ)い上げたルースに、(ため)されているのだと(さと)される。 ()り取りを目で()っていたクロイツは満足気(まんぞくげ)意図(いと)(さっ)して、調(しら)べてみると。 箔押(はくお)しされた蒼金(そうごん)(かざ)模様(もよう)電磁(でんじ)()びており。 機器(きき)導通(どうつう)させるなり解析(かいせき)コードとして展開(てんかい)されたのだ。 (ねん)のため確認(かくにん)した事と言えば、ウルクア直属(ちょくぞく)部下(ぶか)であるエルジオとヴォルトについてのみ。 ところが、両者(りょうしゃ)疑惑(ぎわく)など無い。 クロイツは断言(だんげん)する。 あの二人は、何かしらと()()かせ奔放(ほんぽう)(はたら)いているだけなのだと。 (うら)(かえ)せば、体裁(ていさい)(よそおう)うのに丁度良(ちょうどよ)く。 暗幕(あんまく)のような役割(やくわり)をしているようにも()れるので。 いっそのこと併用(へいよう)するつもりなのだろうと解釈(かいしゃく)した。 つまりは、あの二人がウルクアを(しん)じて行動(こうどう)することに意味(いみ)がある ... ... フェレンスが(しず)かに、そう()げたのに(たい)し、クロイツはどう()()ったか。 適格(てきかく)指揮(しき)をとり、王党派の密偵(みってい)()らえ。 (くすり)(はこ)()存在(そんざい)を知るに(いた)る。 ウルクアの独断専行(どくだんせんこう)牽制(けんせい)するため、 紳士(アンドレイ)尋問(じんもん)するまでの流れを確定(かくてい)したのも、この時だ。 異端ノ魔導師と元帝国軍人(もとていこくぐんじん)など、 信用(しんよう)しきれるはずも無いのだから、(いた)方無(かたな)いとは思うが。 アイゼリアの二大勢力(にだいせいりょく)が、(そろ)いも揃って、 対立派閥(たいりつはばつ)よりも支援者(しえんしゃ)への警戒(けいかい)(ほう)が強いなどとは、理解(りかい)(がた)く。 (なが)らく拮抗(きっこう)してきたらしい党争(とうそう)にも違和感(いわかん)しかないため。 王党派とウルクアは、あえて(たが)いを野放(のばな)しにしていると(にら)んだよう。 そうして(むか)えた ... この日。 素知(そし)らぬ様子(ようす)(えん)じてきた(かんなぎ)装衣(そうい)()()て、()(きた)る。 彼ノ魔導師(かのまどうし)が、動き出した。      

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