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【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】 第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅸ | 嵩都 靖一朗の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】
第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅸ
作者:
嵩都 靖一朗
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第六章◆精霊王ノ瞳~Ⅸ
柱
(
はしら
)
には
法
(
ほう
)
が
込
(
こ
)
められているよう。 その
表
(
おもて
)
には
印
(
いん
)
を
綴
(
つづ
)
る
蒼
(
あお
)
い
光
(
ひかり
)
が、
現
(
あらわ
)
れては
消
(
き
)
え。 そこそこ
体格
(
たいかく
)
の
良
(
い
)
い
大人
(
おとな
)
の
男一人
(
おとこひとり
)
を、
易々
(
やすやす
)
と
縛
(
しば
)
り
付
(
つ
)
けていたのだ。 やや
見上
(
みあ
)
げるかたちで
冷
(
つめ
)
たい
視線
(
しせん
)
を
送
(
おく
)
る少年が、 彼に
欺
(
あざむ
)
かれたと知ったのは、つい
先頃
(
さきごろ
)
のこと。
王党派
(
おうとうは
)
が
地下施設
(
ちかしせつ
)
に
囲
(
かこ
)
い
込
(
こ
)
んでいた
魔薬
(
まやく
)
の
運
(
はこ
)
び
手
(
て
)
は、
現在
(
げんざい
)
、
行方不明
(
ゆくえふめい
)
。 少年は、ウルクアが
連
(
つ
)
れ出し
逃
(
に
)
がしたと思っている。 それが
事実
(
じじつ
)
なら、
詐欺
(
さぎ
)
も
同然
(
どうぜん
)
。 ウルクアは
遠退
(
とおの
)
く
意識
(
いしき
)
を
繋
(
つな
)
ぎ
留
(
と
)
め、こう
釈明
(
しゃくめい
)
した。 「
騒動
(
そうどう
)
の
最中
(
さなか
)
... 私が
到着
(
とうちゃく
)
した時 ... ...
既
(
すで
)
に ... 〈
彼女
(
かのじょ
)
〉の
姿
(
すがた
)
は、なかった ... 」 ところが少年は
拒絶
(
きょぜつ
)
する。 「聞きたくありませんね。見え
透
(
す
)
いた
嘘
(
うそ
)
には、もう
飽き 々
(
あきあき
)
しました。 そもそも、フェレンスを
欺
(
あざむ
)
く
必要
(
ひつよう
)
はないと言ったはずです。 あえて
不合理
(
ふごうり
)
を
犯
(
おか
)
したのには何か
理由
(
りゆう
)
があるのでしょう? お
互
(
おたが
)
い
信用
(
しんよう
)
する気が無いのに、初めから
無理
(
むり
)
がありましたね」
交渉
(
こうしょう
)
は
決裂
(
けつれつ
)
だ。 「それでも ...
貴方
(
あなた
)
は、私を ... ...
始末
(
しまつ
)
するわけにはいかない ... ... 」 「ええ。
否定
(
ひてい
)
しません」 分かり切っていた。 「魔力を
宿
(
やど
)
す血には
瘴気
(
しょうき
)
が
伴
(
ともな
)
い、あらゆる
態系
(
たいけい
)
を
毒
(
どく
)
しますから。 この
杜
(
もり
)
も
例外
(
れいがい
)
ではなく、事が起きては、
制御
(
せいぎょ
)
に
差
(
さ
)
し
障
(
さわ
)
りが
生
(
しょう
)
じてしまう。 何もかも、お
察
(
さっ
)
しの
通
(
とお
)
りです」 だからこそ、一度は
譲歩
(
じょうほ
)
したという
理由
(
わけ
)
だ。 「しかし
貴方
(
あなた
)
が
望
(
のぞ
)
んだ
交渉
(
こうしょう
)
が、
目的
(
もくてき
)
ではなく
手段
(
しゅだん
)
である
以上
(
いじょう
)
。 貴方の
生体
(
せいたい
)
、
魂
(
たましい
)
、
記憶
(
きおく
)
に
至
(
いた
)
るまで
警戒
(
けいかい
)
せざるを
得
(
え
)
ない」
王党派
(
おうとうは
)
が
魔導兵
(
まどうへい
)
を
狙
(
ねら
)
う
機会
(
きかい
)
と、
施設
(
しせつ
)
や
運
(
はこ
)
び手の
排除
(
はいじょ
)
をより
確実
(
かくじつ
)
に
行
(
おこな
)
う
策
(
さく
)
は、 やはり
囮
(
おとり
)
の
手引
(
てび
)
きだったよう。 「フェレンスも
気付
(
きづ
)
いていたはずです。 この
状況下
(
じょうきょうか
)
、
重要
(
じゅうよう
)
な
場面
(
ばめん
)
に
居合
(
いあ
)
わせた者の中には
必
(
かなら
)
ず、
精霊王
(
せいれいおう
)
から
瞳
(
ひとみ
)
を
奪
(
うば
)
った
魔女ノ末裔
(
まじょのまつえい
)
が
居
(
い
)
ましたから。
魔導兵
(
まどうへい
)
を
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
えての
捕縛作戦
(
ほばくさくせん
)
ばかりか。
魔薬
(
まやく
)
の
運
(
はこ
)
び
手
(
て
)
を
追跡
(
ついせき
)
するに
至
(
いた
)
るまで。
見切
(
みきり
)
り
応対
(
おうたい
)
が
過
(
す
)
ぎる気はしますが、何か
事情
(
じじょう
)
があるのでしょうね。 ...
幸
(
さいわ
)
い、
魔薬
(
まやく
)
の
方
(
ほう
)
は魔導兵に
投与
(
とうよ
)
されたようなので、問題ありませんが。 やれやれ。変わってしまった彼の
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねないよう
控
(
ひか
)
えめにするのにも、
骨
(
ほね
)
が
折
(
お
)
れます。
誘導
(
ゆうどう
)
のため
操作
(
そうさ
)
した
擬態
(
ぎたい
)
に、
招待状
(
しょうたいじょう
)
を
仕込
(
しこ
)
んでおいて
良
(
よ
)
かった」 少年が
背
(
せ
)
を
向
(
む
)
け、その
場
(
ば
)
を
後
(
あと
)
にしたのは、ウルクアの
息
(
いき
)
が
浅
(
あさ
)
くなりはじめた
頃
(
ころ
)
。
吊
(
つ
)
られ下を向く彼の
上半身
(
上半身
)
は、
鬱血
(
うっけつ
)
で
染
(
そ
)
まり切っている。
浮腫
(
むく
)
みも
酷
(
ひど
)
い。 血が
偏
(
かたよ
)
り、このまま
気
(
き
)
を
失
(
うしな
)
ってしまったなら、二度と
目覚
(
めざ
)
めることは無い。 それが
普通
(
ふつう
)
だ。 しかし彼は、
生
(
い
)
かさず
殺
(
ころ
)
さず、
弄
(
なぶ
)
られるだろう。
本人
(
ほんにん
)
も、分かっている。 だが、彼は笑った。
祭壇
(
さいだん
)
の
向
(
む
)
こうへと消え入る少年の
姿
(
すがた
)
を、
辛
(
かろう
)
うじて
見送
(
みおく
)
りながら。
意識
(
いしき
)
が
途絶
(
とだ
)
える
間際
(
まぎわ
)
に。 「異端ノ ... 魔導師 ... 。
噂
(
うわさ
)
に
違
(
たが
)
わぬ ...
賢才
(
けんさい
)
... ...
実
(
じつ
)
に ...
協力的
(
きょうりょくてき
)
で、
助
(
たす
)
かる ... ... 」 そう、
囁
(
ささや
)
いて。 彼が最後に思い
返
(
かえ
)
したのは、少年が
連
(
つら
)
ねた
話脈
(
わみゃく
)
の
一部
(
いちぶ
)
。 〈
幸
(
さいわ
)
い、
魔薬
(
まやく
)
の
方
(
ほう
)
は魔導兵に
投与
(
とうよ
)
されたようなので、問題ありませんし ... ... 〉 やがて
気
(
き
)
を
失
(
うしな
)
った彼の
身体
(
からだ
)
を
静
(
しず
)
かに
横
(
よこ
)
たえるは、水か光か。
蒼
(
あお
)
き
清流
(
せいりゅう
)
の
如
(
ごと
)
く
飛来
(
ひらい
)
する
心魂
(
しんこん
)
。 少年は
気付
(
きづ
)
かなかった。 この
策謀
(
さくぼう
)
に
乗
(
じょう
)
じて、
人知
(
ひとし
)
れずウルクアを
手助
(
てだす
)
けした者がいることに。
興味
(
きょうみ
)
の
衰退
(
すいたい
)
が
原因
(
げんいん
)
だろう。 何せ、どうでもいい。 そんな気がしていた。 〈
知
(
し
)
るを
幸
(
さしわ
)
いとし、
慧
(
めぐ
)
み
齎
(
もたら
)
しめよ ... 〉
誰
(
だれ
)
かが、そんなことを言っていたような気もするが。 〈
此
(
こ
)
れにおける
格言
(
かくげん
)
、
覚真
(
かくしん
)
を
智慧
(
ちえ
)
と言わしめ
諭
(
さと
)
し、
導
(
みちび
)
け ... 〉
導
(
みちび
)
くべき
民
(
たみ
)
など、もう ... ... この〈世界〉には
存在
(
そんざい
)
しない。
奪
(
うば
)
われたのだ。 かつて
豪族
(
ごうぞく
)
を
率
(
ひき
)
いた ...
地上ノ王
(
ちじょうのおう
)
に。 今は
亡
(
な
)
き
祖国
(
そこく
)
を
想
(
おも
)
えば、
纏
(
まつ
)
わる
郷愁
(
きょうしゅう
)
が
心性
(
しんせい
)
を
濁
(
にご
)
す。 少年について。
告知
(
こくち
)
を
受
(
う
)
けたのは、
作戦決行
(
さくせんけっこう
)
の
数日前
(
すうじつまえ
)
だった。 静かに
語
(
かた
)
るフェレンスの
表情
(
ひょうじょう
)
は、いつにも
増
(
ま
)
して
硬
(
かた
)
いように思う。
一方
(
いっぽう
)
のクロイツは顔の前で
手指
(
しゅし
)
を
組
(
く
)
み、
清聴
(
せいちょう
)
した。 『私が
初
(
はじ
)
めて
杜
(
もり
)
の
息吹
(
いぶき
)
を感じ取ったのは、
三世紀
(
さんせいき
)
ほど前。 帝国の
専門機関
(
せんもんきかん
)
に
配属
(
はいぞく
)
された
当初
(
とうしょ
)
は、
残存
(
ざんぞん
)
する
叡智
(
えいち
)
を
開示
(
かいじ
)
するため、
祖粒子
(
そりゅうし
)
に
纏
(
まつ
)
わる
魔導理化学
(
まどうりかがく
)
や
境界幾何学
(
きょうかいきかがく
)
をはじめとする、
高次元学問
(
こうじげんがくもん
)
の
信託
(
しんたく
)
と
運用
(
うんよう
)
を
監修
(
かんしゅう
)
する
立場
(
たちば
)
に
置
(
お
)
かれた。 そのために。
遺物
(
いぶつ
)
の
探査
(
たんさ
)
に
参加
(
さんか
)
、
協力
(
きょうりょく
)
することもあって。 帝国が
主
(
おも
)
に、
硝子ノ宮
(
がらすのみや
)
の
残滓
(
ざんし
)
を
対象
(
たいしょう
)
とし、
採掘
(
さいくつ
)
、
調査
(
ちょうさ
)
を
進
(
すす
)
めてきたことを知っている。
補足
(
ほそく
)
すると。
崩壊
(
ほうかい
)
したシャンテの
都市
(
とし
)
は
宙
(
ちゅう
)
に
散乱
(
さんらん
)
し、 そのほとんどが
大陸
(
たいりく
)
に
落
(
お
)
ちるか、
海洋
(
かいよう
)
に
沈
(
しず
)
んだはずなので。
浮遊島
(
ふゆうじま
)
となり、この世界の
空
(
そら
)
を
彷徨
(
さまよ
)
い
続
(
つづ
)
けているのは、ほんの
一部
(
いちぶ
)
に
過
(
す
)
ぎず。
崩落
(
ほうらく
)
した
後
(
のち
)
、
埋
(
う
)
もれてしまった
遺跡
(
いせき
)
の方が、
圧倒的
(
あっとうてき
)
に多いのが
実情
(
じつじょう
)
。 ... にも
関
(
かか
)
わらず、
何故
(
なぜ
)
か。
悪条件
(
あくじょうけん
)
と言える
海洋
(
かいよう
)
での
引
(
ひ
)
き
上
(
あ
)
げに立ち
会
(
あ
)
うことも、少なくなかった』
元
(
もと
)
の
状態
(
じょうたい
)
を知るが
故
(
ゆえ
)
に
生
(
い
)
かされたのだから、
当然
(
とうぜん
)
...
気付
(
きづ
)
きはするのだ。 いくら長い年月を
経
(
へ
)
ているとは言え、
見込
(
みこ
)
みに
対
(
たい
)
して
得
(
え
)
られる
物量
(
ぶつりょう
)
が
少
(
すく
)
なすぎると。 『
先取
(
さきど
)
りされていたと言うことか』 するとクロイツが
重
(
かさ
)
ねて
問
(
と
)
う。 『
貴様
(
きさま
)
という
奴
(
やつ
)
は ... この
期
(
ご
)
に
及
(
ご
)
んで、
尚
(
なお
)
も知らぬ
素振
(
そぶり
)
りを続けてきたと言うわけだな。 ...
何故
(
なぜ
)
だ?』 フェレンスに
限
(
かぎ
)
って、
調
(
しら
)
べる
手段
(
しゅだん
)
が無かったはずは無し。
確信
(
かくしん
)
が
持
(
も
)
てないなんて、
生温
(
なまぬる
)
い考えに
留
(
とど
)
まるような
魂
(
たま
)
でもないのだから。
明
(
あき
)
らかに〈
触
(
ふ
)
れることを
避
(
さ
)
けてきた〉 ... そう
断言
(
だんげん
)
せざるを
得
(
え
)
ないのだ。 ところがクロイツは
直
(
す
)
ぐに、
尋
(
たず
)
ねた事を
後悔
(
こうかい
)
する。
両者
(
りょうしゃ
)
は
膝
(
ひざ
)
の上に
開
(
ひら
)
いて
置
(
お
)
いた
古書
(
こしょ
)
に
向
(
む
)
かい、
対話
(
たいわ
)
していた。 右の
頁
(
ページ
)
には、
相手
(
あいて
)
の
言葉
(
ことば
)
が。 左の
頁
(
ページ
)
には、
相手
(
あいて
)
の
動作
(
どうさ
)
が。 それぞれ
絵
(
え
)
と
文章
(
ぶんしょう
)
で
表
(
あらわ
)
れる。 フェレンスの
魔法
(
まほう
)
が
込
(
こ
)
められた
古書
(
こしょ
)
だ。
待
(
ま
)
っている
間
(
あいだ
)
に、
嫌
(
いや
)
な
予感
(
よかん
)
はしたけれど。 クロイツにしては
珍
(
めずら
)
しく、顔に出さぬよう
努
(
つと
)
めていたらしい。 それなのに。
左側
(
ひだりがわ
)
の
墨汁
(
インク
)
が
滲
(
にじ
)
んで
靄々
(
モヤモヤ
)
と
漂
(
ただよ
)
ったかと思えば。
頁
(
ページ
)
、
一面
(
いちめん
)
を
掌
(
てのひら
)
で
塞
(
ふさ
)
いだ
絵図
(
えずら
)
が
浮
(
う
)
かぶ。
手相
(
てそう
)
でも
診
(
み
)
て
欲
(
ほ
)
しいのか ... ... ? そんなわけあるか ... ... ?
真顔
(
まがお
)
で
古書
(
こしょ
)
を
見詰
(
みつ
)
めるクロイツの
様子
(
ようす
)
を
伺
(
うかが
)
っていたのは、ノシュウェル一人だけだが。 真顔なのに、そう言いたそうに見えたのだとか。 フェレンスは、どんな顔をして
答
(
こた
)
えたのだろう。
想像
(
そうぞう
)
も
付
(
つ
)
かないけれど。 クロイツが見る
古書
(
こしょ
)
の
右側
(
みぎがわ
)
には、小さく、小さく ... こう
綴
(
つづ
)
られた。 『 カーツェルの
傍
(
そば
)
に ... ...
居
(
い
)
たかった 』 見てはいけないものを見てしまった気がして。 クロイツの
後
(
うし
)
ろで
背伸
(
せの
)
びをしていた
覗き見男
(
ノシュウェル
)
は
早々
(
ス ス ス ...
)
と
去
(
さ
)
る。
終始
(
しゅうし
)
、
真顔
(
まがお
)
を
崩
(
くず
)
さなかったクロイツも、
流石
(
さすが
)
に
黙
(
だま
)
ってしまった。
指先
(
ゆびさき
)
で
眉間
(
みけん
)
を
摘
(
つま
)
み、
絶句
(
ぜっく
)
していると言った方が良い。
片
(
かた
)
やフェレンスの見る
古書
(
こしょ
)
には、
文字化
(
もじか
)
した大きな、大きな ...
溜息
(
ためいき
)
が。 クロイツの
立場
(
たちば
)
からすると。
存外
(
ぞんがい
)
、
素直
(
すなお
)
に答えられたものだから、むしろ
困
(
こま
)
るのだ。 これ
以上
(
いじょう
)
に
馬鹿
(
ばか
)
らしいと思うことがあろうかと。
呆
(
あき
)
れ
返
(
かえ
)
ってものも言えない。
唖然
(
あぜん
)
とするを
通
(
とお
)
り
越
(
こ
)
し、
幻滅
(
げんめつ
)
した。 シャンテの
中枢
(
ちゅうすう
)
を
司
(
つかさど
)
った
番人
(
ばんにん
)
か何か知らないが。 これまで
散々
(
さんざん
)
、
無感情
(
むかんじょう
)
で
利己主義的
(
りこしゅぎてき
)
、
冷血漢
(
れいけつかん
)
を
装
(
よそお
)
ってきた男がだ。 こんな、どうしようもなく
単純
(
たんじゅん
)
、
且
(
か
)
つ
質素
(
しっそ
)
な
願
(
ねが
)
いのために。
陰謀渦巻
(
いんぼううずま
)
く
階級
(
かいきゅう
)
ならぬ
血統社会
(
けっとうしゃかい
)
という
泥沼
(
どろぬま
)
で、
必要
(
ひつよう
)
とされるままに
身
(
み
)
を
染
(
そ
)
め、
生
(
い
)
き
永
(
なが
)
らえてきたと言う。
成
(
な
)
すべきを成す
為
(
ため
)
とは、あの
化物
(
ばけもの
)
が
槍玉
(
やりだま
)
になるのを
防
(
ふせ
)
ぐためか。 なるほど。なるほど。 クロイツは
至極
(
しごく
)
、
納得
(
なっとく
)
した。 やはり
亡国
(
ぼうこく
)
は、
滅
(
ほろ
)
ぶべくして
滅
(
ほろ
)
んだのだと。 どんなに
優秀
(
ゆうしゅう
)
な
管理者
(
アドミニストレーター
)
であろうとも。
我欲
(
がよく
)
が
芽生
(
めば
)
えてしまっては
終
(
お
)
わり。 何もかも、
操作
(
そうさ
)
できてしまうからだ。 だがそれでは、この世界を
裏
(
うら
)
で
牛耳
(
ぎゅうじ
)
る
奴等
(
やつら
)
と変わらないのに。 どのように
見方
(
みかた
)
を
変
(
か
)
え、
解釈
(
かいしゃく
)
したら
良
(
よ
)
いのやら。 ただでさえイカレタ
野郎共
(
やろうども
)
が ...
惚
(
ほ
)
れた
腫
(
は
)
れたなどと、
手段
(
しゅだん
)
を
問
(
と
)
わずに
天命
(
てんめい
)
を
懸
(
か
)
けるのか。
落胆
(
らくたん
)
せずにはいられない。 「 ククク ... ... ククク ク ... ... 」
終
(
しま
)
いには
笑
(
わら
)
いと
怒
(
いか
)
りが
込
(
こ
)
み
上
(
あ
)
げた。 なのに
血
(
ち
)
の
気
(
け
)
が
引
(
ひ
)
いていく。 その時。 クロイツの
引
(
ひ
)
き
攣
(
つ
)
り
顔
(
がお
)
が
青褪
(
あおざ
)
めて見えたので。 ノシュウェルは
慄
(
おのの
)
き、
更
(
さら
)
に
引
(
ひ
)
き
下
(
さ
)
がった。
罵詈雑言
(
ばりぞうごん
)
、
浴
(
あ
)
びせるつもりと思ったのだ。 ところが。 何やら
肩
(
かた
)
の
力
(
ちから
)
が
抜
(
ぬ
)
けていく。
古書
(
こしょ
)
を見る目が
冷
(
さ
)
めていく。 クロイツは思った。
女々
(
めめ
)
しく
下
(
した
)
を
向
(
む
)
いている
場合
(
ばあい
)
か
呆け那須
(
ボケナス
)
め ... ... 。
不意
(
ふい
)
に
絵柄
(
えがら
)
を変えた
頁
(
ページ
)
の左側に見る男が。
膝
(
ひざ
)
の上の
古書
(
こしょ
)
と
向
(
む
)
き
合
(
あ
)
う異端ノ魔導師が。
余分
(
よぶん
)
に
顎
(
あご
)
を
引
(
ひ
)
いているように見えたのだ。
僅
(
わず
)
かに
視線
(
しせん
)
を
逸
(
そら
)
して。
恥
(
は
)
ずかしがる
子供
(
こども
)
のように。
少
(
すこ
)
しだけ
気不味
(
きまず
)
そうに。 よもや ...
元帝国魔導師
(
もとていこくまどうし
)
の
上級者
(
シニアクラス
)
と
比較
(
ひかく
)
し、
那須
(
ナス
)
に
失礼
(
しつれい
)
だったなどと思い
返
(
かえ
)
す日が来るとは思わなんだが。 気を取り
直
(
なお
)
すより
他無
(
ほかな
)
くて。
情
(
なさ
)
け
無
(
な
)
くて。 言葉にならなかった。
抑々
(
そもそも
)
、
数世紀
(
すうせいき
)
もの
間
(
あいだ
)
一貫
(
いっかん
)
し
黙秘
(
もくひ
)
するには、
時間
(
じかん
)
と
理由
(
りゆう
)
が
釣
(
つ
)
り
合
(
あ
)
わない。
未来
(
みらい
)
を
予知
(
よち
)
する
能力
(
のうりょく
)
でもあるのだろうか。 いや、それは
流石
(
さすが
)
に
無
(
な
)
い気がする。 行くべき道、
避
(
さ
)
けるべき
災難
(
さいなん
)
を知る者が、 そこまで
徹底
(
てってい
)
し
周囲
(
しゅうい
)
に
情報
(
じょうほう
)
を
漏
(
も
)
らさぬよう
振
(
ふ
)
る
舞
(
ま
)
う
必要
(
ひつよう
)
があるのかという話だ。
逆
(
ぎゃく
)
に
都合
(
つごう
)
の
良
(
い
)
いよう
発信
(
はっしん
)
し、
誘導
(
ゆうどう
)
するに
傾倒
(
けいとう
)
する
帝国
(
ていこく
)
の
奴等
(
やつら
)
と
違
(
ちが
)
って
読
(
よ
)
み
辛
(
づら
)
い。 けれども。
予測
(
よそく
)
するうち、
留意
(
りゅうい
)
すべき
可能性
(
かのうせい
)
としては
二
(
ふた
)
つまで
絞
(
しぼ
)
れた。
一
(
いち
)
、そういった
能力者
(
のうりょくしゃ
)
が
他
(
ほか
)
に
存在
(
そんざい
)
し ...
啓示
(
けいじ
)
を
受
(
う
)
けたか。
二
(
に
)
、
断定的
(
だんていてき
)
に、そうなると
予測
(
よそく
)
される何らかの
出来事
(
できごと
)
が ...
過去
(
かこ
)
にあったか。 するとクロイツは、ある
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いて
息
(
いき
)
を
飲
(
の
)
む。 そうか ... アレセルが
奴等
(
やつら
)
の
側
(
がわ
)
についたのは、
一
(
いち
)
ノ可能性に
近
(
ちか
)
い
実情
(
じつじょう
)
を
嗅
(
か
)
ぎつけたから ... ...
関
(
かか
)
わる者がフェレンスに
害
(
がい
)
を
成
(
な
)
さぬか
否
(
いな
)
か、
場合
(
ばあい
)
によっては
廃除
(
はいじょ
)
するつもりなのだ ... ... もし、そうなら。
我々
(
われわれ
)
がすべきは ... 二ノ可能性に
触
(
ふ
)
れ、
実態
(
じったい
)
を知ること ... ...
要
(
よう
)
するに今、
本人
(
ほんにん
)
から聞き出せば良い。
簡単
(
かんたん
)
。
簡単
(
かんたん
)
。 いや、
嘘
(
うそ
)
だ。 本当は ... ...
超
(
ちゅーぱー
)
・
激烈
(
げきれつ
)
・
面倒
(
めんど
)
くちゃい ... ... 何が
悲
(
かな
)
しくて、 〈
訳有な番
(
ワケアリ カップル
)
の
関係
(
かんけい
)
が
拗
(
こじ
)
れた
経緯
(
けいい
)
を聞き出す 〉 みたいな
事
(
こと
)
をせねばならぬのかと。 クロイツが
脱力
(
だつりょく
)
し
項垂
(
うなだ
)
れた時。
瀬戸際
(
せとぎわ
)
を
察
(
さっ
)
し、ノシュウェルは
覚悟
(
かくご
)
する。 何しろ、あの
策士
(
さくし
)
が。 あのクロイツが、
眉間
(
みけん
)
を
抑
(
おさ
)
えながら
白目
(
しろめ
)
を
剥
(
む
)
いていたのだ。
要
(
よう
)
するに
壊
(
こわ
)
れかけている。 こればっかりは
見過
(
みす
)
ごすわけにはいかない。 こうなりゃ俺が
一発
(
いっぱつ
)
、
蹴飛
(
けと
)
ばされて
丸
(
まる
)
く
収
(
おさ
)
めるしか ... ... しかし、どうしよう。 いざ考えると気が
急
(
せ
)
いた。 異端ノ魔導師と
決別
(
けつべつ
)
してしまっては、
追
(
お
)
われる
立場
(
たちば
)
を
脱却
(
だっきゃく
)
するための
道
(
みち
)
が
閉
(
と
)
ざされてしまう。 どうにかしてクロイツを
正気
(
しょうき
)
に
戻
(
もど
)
さねばならない。 すると思い立つ。 彼の
手元
(
てもと
)
には、
差
(
さ
)
し入れ
損
(
そこ
)
なった
葉ノ湯
(
はのゆ
)
。 それも、すっかり
冷
(
さ
)
めてしまっている ... が、
構
(
かま
)
ってなどいられない。
意気込
(
いきご
)
むノシュウェルは
颯爽
(
さっそう
)
と
踏
(
ふ
)
み出した。 けれども、いざとなると手が
震
(
ふる
)
える。 〈 カタカタカタカタ ... ... 〉 差し出した
茶陶
(
ティーカップ
)
と
受皿
(
ソーサー
)
が
小刻
(
こきざ
)
みに
鳴
(
な
)
る。 ですよね。 だって怖いもん ... ...
然
(
さ
)
れど
後
(
あと
)
には引けぬ。 やるしかない。 クロイツがフェレンスに
対
(
たい
)
しブチキレてしまわないよう。
怒
(
いか
)
りの
矛先
(
ほこさき
)
を
変
(
か
)
えるために。 そう思った。
名付
(
なづ
)
けて ... ... いつか行った
女中喫茶
(
メイドきっさ
)
の女の子を、
全力
(
ぜんりょく
)
で
真似
(
まね
)
してみる
作戦
(
さくせん
)
。 何のこっちゃ ... ... ノシュウェルが、
自問自答
(
じもんじとう
)
しはじめたのは、 きっと、
恐怖
(
きょうふ
)
で
我
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れているせい。 すっかりと
役
(
やく
)
に入った彼は言う。 「ご
注文
(
ちゅうもん
)
のお
茶
(
ちゃ
)
を、お
持
(
も
)
ちしましたぁ! そしてそしてぇ! 何だか
元気
(
げんき
)
のな~い、ご
主人様
(
しゅじんさま
)
のために~! わたし、ノシュウェルが!
萌々
(
もえもえ
)
の
魔法
(
まほう
)
をかけちゃいまぁ~す!」 いや、これ、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
か ... ... ノシュウェルの
横
(
よこ
)
で、フラリ ... 立ち上がるクロイツは
無言
(
むごん
)
だ。 「いっくよぉ~!」 やめとけ ... ...
我
(
われ
)
ながら
良
(
い
)
い
度胸
(
どきょう
)
をしていると思うが。
中途半端
(
ちゅうとはんぱ
)
に
止
(
や
)
めたところで、どうせ
責
(
せ
)
められるので。 「せぇのぉ!」 やりきろう ... そう思った ... が。
甘
(
あま
)
かった ... ...
鬼
(
おに
)
の
形相
(
ぎょうそう
)
で
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
いたクロイツと目が合ったのは、
魔法
(
まほう
)
の
呪文
(
じゅもん
)
を
唱
(
とな
)
える
二秒前
(
にびょうまえ
)
。 「ノシュノシュ♥ ウェルウェル♥ ミラクル ラブラ~ブ パワ~! ちゅ~~~にゅ゛う゛ふぉ゛!!」 そうして
始
(
はじ
)
まったのが、
左鉤打
(
ひだりフック
)
と、
蹴
(
け
)
りの
応酬
(
おうしゅう
)
だ。 〈ドスッ〉 「 ウ ザ イ !!」 〈ガシッ〉 「 長 い !!」 〈ドシッ〉 「
気 色 悪
(
き し ょ く わ る
)
い !!」 〈バキッ〉
続
(
つづ
)
く。
軽快
(
リズミカル
)
に
罵
(
ののし
)
られながら
何度
(
なんど
)
、
踏
(
ふ
)
み
潰
(
つぶ
)
されたことか。 気を
失
(
うしな
)
う
寸前
(
すんぜん
)
のところで
床
(
ゆか
)
に
伸
(
の
)
びているノシュウェルには、知る
由
(
よし
)
も無い。 ただ、どうせなら
最後
(
さいご
)
まで言わせて
欲
(
ほ
)
しかったなぁ ... ... なんて、
薄
(
う
)
っすらと考えていたような。 クロイツも、そこそこ
気遣
(
きづか
)
い
手加減
(
てかげん
)
してやったらしい。 それはそれで、とんでも
作戦
(
さくせん
)
が
功
(
こう
)
を
奏
(
そう
)
したか。 まったく ... どいつもこいつも ... ...
発散
(
はっさん
)
し
調子
(
ちょうし
)
を
取
(
と
)
り
戻
(
もど
)
したクロイツは、
先程
(
さきほど
)
の
茶
(
ちゃ
)
を
一飲
(
ひとの
)
みにして、
席
(
せき
)
に
戻
(
もど
)
った。 すると、
投
(
な
)
げ出していた
古書
(
こしょ
)
の右
頁
(
ぺーじ
)
が ペラペラと音を
立
(
た
)
て
振動
(
しんどう
)
しているように見える。 まさかと思い手に取ると。
案
(
あん
)
の
定
(
じょう
)
、フェレンスが
息
(
いき
)
を
殺
(
ころ
)
し
笑
(
わら
)
っていた。
低
(
ひく
)
く、
唸
(
うな
)
るような声でクロイツは言う。 『
貴様
(
き ー さ ー ま ー
)
』 その
一方
(
いっぽう
)
で
困惑
(
こんわく
)
したのは、それまでのやり取りを聞かされている
側
(
がわ
)
だ。
申
(
もう
)
しわけ
程度
(
ていど
)
に
詫
(
わ
)
びるフェレンスは、それでもまだ笑い声を
漏
(
も
)
らしている。 『 フ ... ああ、すまない ... ... フフ ... 』
対
(
たい
)
して。 フフ じゃねーよ ... ... と、思ったのは、さて誰だろう。 「て言うか、あの人 ... 今ので笑えるってどうなの」 「うん。まぁ。良く言えば、
器
(
うつわ
)
が大きいってこと ... なのかな」 このところで言えば、わりと
馴染
(
なじ
)
みの二人。 ノシュウェルの
元部下
(
もとぶか
)
、ルースとアルウィ、
両名
(
りょうめい
)
である。
彼等
(
かれら
)
のもとに
届
(
とど
)
くのは、
解析
(
かいせき
)
が
必要
(
ひつよう
)
な
信号
(
しんごう
)
のみ。 だが、フェレンスから
事前
(
じぜん
)
に
受
(
う
)
け
取
(
と
)
っていた
魔導具
(
マギアムパーツ
)
に
込
(
こ
)
められた
法則
(
コード
)
により、
音声
(
おんせい
)
へと
変換
(
へんかん
)
し聞くことが出来た。 とは言え、
本来
(
ほんらい
)
の
目的
(
もくてき
)
は
盗聴
(
とうちょう
)
などではない。
密偵
(
みってい
)
の
炙
(
あぶ
)
り出しだ。 どこに
仕掛
(
しか
)
けられているかも分からない
盗撮機
(
とうさつき
)
の
発信
(
はっしん
)
を
傍受
(
ぼうじゅ
)
し、
分析中
(
ぶんせきちゅう
)
。
確認
(
かくにん
)
された
特有
(
とくゆう
)
の
波導
(
はどう
)
は、
高度
(
こうど
)
な
錬金術
(
れんきんじゅつ
)
を
用
(
もち
)
い
生産
(
せいさん
)
される、
魔導素子
(
まどうそし
)
のそれと
一致
(
いっち
)
している。 そう。 アイゼリア
王党派
(
おうとうは
)
と
帝国
(
ていこく
)
の
繋
(
つな
)
がり、そして、 フェレンスに付きまとっていた ... あの
老人
(
ろうじん
)
が、
対立派閥
(
たいりつはばつ
)
の
諜報員
(
ちょうほういん
)
であることを
明確
(
めいかく
)
にしたのは
彼等
(
かれら
)
だった。 フェレンスとクロイツの
動向
(
どうこう
)
は
常
(
つね
)
に
監視
(
かんし
)
されているうえ。 目を光らせているのは、ウルクアの
息
(
いき
)
が
掛
(
か
)
かった男、二人であるからして。 それらの
情報
(
じょうほう
)
を
極内密
(
ごくないみつ
)
に
精査
(
せいさ
)
するためには、
目引
(
めひ
)
き
役
(
やく
)
の他、
裏方
(
うらかた
)
を
立
(
た
)
てなければならず。
適任
(
てきにん
)
と
見做
(
みな
)
されたらしい。 ただし、フェレンスやクロイツから
直接
(
ちょくせつ
)
の
指示
(
しじ
)
があったわけではない。
行動
(
こうどう
)
すべきと
自身
(
じしん
)
で
判断
(
はんだん
)
し、
傍受
(
ぼうじゅ
)
を
試
(
こころ
)
みていたところ。 思いも
寄
(
よ
)
らぬ
後押し
(
サポート
)
があったので。 まぁ、そう言うことだろうなと。 魔法の
込
(
こ
)
められた
古書
(
こしょ
)
に
挟
(
はさ
)
まれていた
栞
(
しおり
)
を見たクロイツは
当初
(
とうしょ
)
、 何も言わず
彼等
(
かれら
)
に
手渡
(
てわた
)
した。 まず初めに受け取ったのはアルウィ。 彼は
危
(
あや
)
うく、それを
捨
(
す
)
てかけたが。
咄嗟
(
とっさ
)
に
拾
(
ひろ
)
い上げたルースに、
試
(
ため
)
されているのだと
諭
(
さと
)
される。
遣
(
や
)
り取りを目で
追
(
お
)
っていたクロイツは
満足気
(
まんぞくげ
)
。
意図
(
いと
)
を
察
(
さっ
)
して、
調
(
しら
)
べてみると。
箔押
(
はくお
)
しされた
蒼金
(
そうごん
)
の
飾
(
かざ
)
り
模様
(
もよう
)
は
電磁
(
でんじ
)
を
帯
(
お
)
びており。
機器
(
きき
)
と
導通
(
どうつう
)
させるなり
解析
(
かいせき
)
コードとして
展開
(
てんかい
)
されたのだ。
念
(
ねん
)
のため
確認
(
かくにん
)
した事と言えば、ウルクア
直属
(
ちょくぞく
)
の
部下
(
ぶか
)
であるエルジオとヴォルトについてのみ。 ところが、
両者
(
りょうしゃ
)
に
疑惑
(
ぎわく
)
など無い。 クロイツは
断言
(
だんげん
)
する。 あの二人は、何かしらと
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かせ
奔放
(
ほんぽう
)
に
働
(
はたら
)
いているだけなのだと。
裏
(
うら
)
を
返
(
かえ
)
せば、
体裁
(
ていさい
)
を
装
(
よそおう
)
うのに
丁度良
(
ちょうどよ
)
く。
暗幕
(
あんまく
)
のような
役割
(
やくわり
)
をしているようにも
取
(
と
)
れるので。 いっそのこと
併用
(
へいよう
)
するつもりなのだろうと
解釈
(
かいしゃく
)
した。 つまりは、あの二人がウルクアを
信
(
しん
)
じて
行動
(
こうどう
)
することに
意味
(
いみ
)
がある ... ... フェレンスが
静
(
しず
)
かに、そう
告
(
つ
)
げたのに
対
(
たい
)
し、クロイツはどう
受
(
う
)
け
取
(
と
)
ったか。
適格
(
てきかく
)
に
指揮
(
しき
)
をとり、王党派の
密偵
(
みってい
)
を
捕
(
と
)
らえ。
薬
(
くすり
)
と
運
(
はこ
)
び
手
(
て
)
の
存在
(
そんざい
)
を知るに
至
(
いた
)
る。 ウルクアの
独断専行
(
どくだんせんこう
)
を
牽制
(
けんせい
)
するため、
紳士
(
アンドレイ
)
を
尋問
(
じんもん
)
するまでの流れを
確定
(
かくてい
)
したのも、この時だ。 異端ノ魔導師と
元帝国軍人
(
もとていこくぐんじん
)
など、
信用
(
しんよう
)
しきれるはずも無いのだから、
致
(
いた
)
し
方無
(
かたな
)
いとは思うが。 アイゼリアの
二大勢力
(
にだいせいりょく
)
が、
揃
(
そろ
)
いも揃って、
対立派閥
(
たいりつはばつ
)
よりも
支援者
(
しえんしゃ
)
への
警戒
(
けいかい
)
の
方
(
ほう
)
が強いなどとは、
理解
(
りかい
)
し
難
(
がた
)
く。
長
(
なが
)
らく
拮抗
(
きっこう
)
してきたらしい
党争
(
とうそう
)
にも
違和感
(
いわかん
)
しかないため。 王党派とウルクアは、あえて
互
(
たが
)
いを
野放
(
のばな
)
しにしていると
睨
(
にら
)
んだよう。 そうして
迎
(
むか
)
えた ... この日。
素知
(
そし
)
らぬ
様子
(
ようす
)
で
演
(
えん
)
じてきた
覡
(
かんなぎ
)
の
装衣
(
そうい
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て、
降
(
お
)
り
来
(
きた
)
る。
彼ノ魔導師
(
かのまどうし
)
が、動き出した。
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嵩都 靖一朗
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